令嬢でしたが、今は冒険者です(前編)

昼下りのギルドの酒場にて…


「かーっ!うんめぇー!!」

「エミーさん、はしたないっすよ」

「ダイミョウササミドリのローストにピリカラのビールは最高じゃないのよー」


私、冒険者のエミーリアことエミーリア・シルフィ・ヴァレンタインは今日も依頼を完了してから、ギルドの酒とツマミを堪能しました。

家名は王国に貴族身分を返上しましたから、ただのエミーリア・シルフィですけどね。


今回のお供のクラリスも、流石の私のその親父臭い姿を見てドン引きしつつも、ちゃっかりとツマミをはみはみしながらビールをチビチビ飲んでいた。


「いやぁ、飲まずにいられないでしょ?なんせ、やっと念願の地竜ブランドンゴを倒せたんだからさぁ」

「あー、アレは本当に討伐おめでとうと言いたいっすよ。エミーさん2乙したけど」

「仕方ないじゃない。壁役が私しかいなかったんだし、クラリスは高台から弓を引いておびき寄せないとハメられなかったんだし」

「どっから出てくるんっすか…同じ記憶持ち転生者として、ある意味セコいっすよ」

「それぐらいしないと、チートすぎる勇者様が蔓延するこの世界ではやってられないのよ」


そう、私が多少のハメ等のズルをしないとやってられないのは、良くある「異世界に~」の人物達のチート無双での簡単勝利であった。

所謂、俺もしくは私TUEEEEEEEです。全国の奥様。



もうね、私も転生者だし、生まれが元だけど貴族出身、若干だけど闇魔法持ちですから、一般人か見たら「もう!裏山に鹿が出るぐらいに”羨ましかね”!!」と叫ぶでしょうね。


ですがね…世の中には上には上に糞チート様が沢山いるんですよ。ファッキン。


「俺の魔力は世界一だー」とか言って、山一つ潰す馬鹿もいれば。


あのアマンダみたいに「私は誰からも好かれますー」な魅了逆ハー阿呆も出たり。


しまいには、「俺、知識に詳しいから~」と言ってやたらとこの世界にない技術を簡単に教え込んでバランスを崩壊させた大馬鹿野郎が居たんですよ。はい。


ていうか、アマンダで思い出したけど…私はおろかクラリスとかも元婚約者持ちの令嬢が追放されて、王国での人材流出は大丈夫なのかとありましたが…


実は、転生する前に一度顔合わせた事がありますが…あの王国が信仰している女神クズが一番性質が悪くて。

乙女ゲーム(糞ゲー)やチートRPG(糞ゲー)で出てくる人物がモブ排除した際に、「あー、また人材居なくなっちゃったー。まっ、どっかの世界から引っこ抜いてこっちの世界に入れておこう」と言って、無許可で異世界召還援助したり、勝手に魂を拾って一般ピープルの赤ちゃん予定の子(器)に入れるんですよね。


おかげで、他国の神様と、元の世界の管理者の神様が何時も苦情の嵐が飛ばしてるんですよねぇ。

あっ、でもこの前…流石のあの女神クズにぶち切れた別の異世界の神様が、女神をキ○肉ドライバーかけた後にキ○肉バスターをブチかました上に、頭掴んで”大気圏内境目式モミジ卸し(物理)”を行ったんですよね。


まぁ、神様同士だから死なないけど、当分神様会議ではトラウマ案件になったみたいですね。はい。


ん?なんで知っていますかって?


その異世界の管理者神様がこの世界における異世界転生者と異世界召還者全員に見せたんですよ。強制念視で。勿論、「お前等調子に乗ったら、これと同じ仕置きするからな」のメッセージ付きで。


そんなわけで…今はチート勇者様達は自重して身を潜めている合間に、私達はチート能力が封じられた領域で建国した共和国リーベルタースにある冒険者ギルドで働いているわけです。


まぁ、多少の身体強化は出来ますから、5mの段差から飛び降りても無傷ですし、鱗が堅いベビーワイバーンを切る事が出来るんですよね。


ただ、今回受けた依頼の地竜は堅すぎるから、多少の壁ハメ爆薬攻めで倒したんですけど…


「エミーさん、聞いてるっすか?」

「ああ、ごめんごめん。自重するからさぁ…ささっ、今日の私は気前がいいから、私のおごりのお酒飲みなさい」

「えっ!?良いっすか!?ありがとナス!!」


そう言って、クラリスはビールをクイっと飲んだ後に、ギルドの受付女(元令嬢)に追加注文してきた。

ある意味現金だねぇ…


そう思いながら、私もロースト肉をはみはみと噛みながらビールを飲んでいった。


その時である。

ギルドの入口から、重甲冑の男達数人が入ってきて受付カウンターのテーブルをドンと叩いた。


「ここの冒険者ギルドで依頼が出来るんだな?」

「は、はい。そうですが…」

「頼みがある。この依頼を申請してくれ。依頼金はここにある」


そう言って、男達の中で下っ端の奴が30kgも入りそうな麦袋一つ分の金貨袋をカウンターにドンと置いてきた。

どんだけの大金を使う依頼なんですかね…


そんな考えをしていたら…何時も依頼担当のベネッサ(元子爵令嬢)が内容を読んで、「ウゲッ」とした顔をして読み上げてきた。


「ええっと…バーロー王国の王太子妃聖女様による火竜討伐護衛ですか?」

「そうだ。報酬は5万Gだ」


その依頼内容と報酬内容を聞いた瞬間、私とクラリスは飲んでいたビールを噴出した。


バーロー王国って…元私達が貴族として召し抱えられていた国じゃないですかー!?

しかも、王太子妃聖女ってアマンダの事じゃないですかー!!やだー!!!


それと同時に、クラリスと一緒に笑いもこみ上げてきた。


いや、その火竜討伐ですけど…地竜よりも弱いんですよね。

まぁ、冒険者では初心者キラーと呼ばれてるぐらいに新人が挫折して諦めちゃう竜ですが、ただのワールドツアー旋回だけしかしないで、真下には火炎弾ブレスが吐けない可哀相な子と烙印されてるんですよね。あれ。


だから、相場としては地竜ブランドンゴが5千Gとするなら、火竜は3千Gが妥当なんですよ。

あっ、個体によっては最上位ランクと認定された火竜は高値が付くけど、それでも1万Gが妥当ですよ。奥さん。


なので、相場より10倍以上で納めようとする騎士アホ達に、ベネッサは涙目になりながらオロオロと対応して、騎士達は苛々しながら足踏み始めていた。

本当、役所仕事する人間達のせっかちさには参りますわ。

令嬢時代、”働かない”貴族様の尻拭いをさせられた身としては、この手の人種が一番厄介です。


すると…


「どうしたんですか?ベネッサ」

「あ…マスター。対応お願いしますぅ…」


そう言って、この冒険者ギルドの長であるマスター(オカマ)は、騎士達の依頼書と金額を何度も往復しながら見て、何かを納得してから溜息をして答えてきた。


「依頼内容は問題御座いませんわ。騎士様」

「そうか。直に冒険者手配を」

「しかしながら、依頼を直に受けたがる冒険者がそう簡単には見つかりません。ですので、報酬金額は相場妥当の3千Gでお引き受け致し、期間は一ヶ月ぐらい掲載でさせて頂きます」

「なんだと!?話が違うではないか!!」

「これは各冒険者ギルド規則でございますわ、お客様。高額な報酬には、それ相応なりの危険リスクが生じます。報酬金額だけを見て依頼し、命を落とすケースを生み出しては成りませんので、ご容赦くださいませ」

「呼び出して手配は出来んのかね!!」

「勿論でございます。その上、そんな金額を出された際に、依頼を受ける冒険者達の掛かる手数料が思いっきり跳ね上がりますゆえに、無用な混乱を生み出さないためにも容認は出来ません」


マスターの言葉に、騎士の隊長らしき男がプルプルしながら剣をかけようとしているが…ギルド内での抜刀禁止の精神呪詛が掛かっている為、震わすだけでいた。

正式な依頼ならば、マスターもすんなりと通すんだし、それでいいのに…


なんか、このままだと因縁吹っ掛けられて、後々国同士のトラブルを作りたくないんだよねぇ。


「クラリスゥ、ちょっと…あっちに行ってくるわ」

「ええぇー?あの王国の依頼受けるんすか?」

「ええ。勿論相場通りで受けるんだけど…見つかんない見つかんないと言って因縁吹っ掛けられるのもあれだしねー」

「うむむっ…エミーさんが受けるんなら、私も受けるっす」

「おお!ありがと!心の友ー!!」

「その代わり、逆鱗手に入れたら頂戴っすよ!」

「良いよ良いよ。火竜の逆鱗は既に10個もあるから」

「ちょー!?なんでそんなに持っているんっすかー!?」


うん、私の物欲センサーは弱いからね。ごめんね☆


そんなわけで、私はマスターの所に向かっていって、声をかけてやった。


「マスター。その揉め事起しそうな依頼、引き受けるわ」

「あらぁ、エミーリアちゃん。こんな依頼受けちゃうの?」

「ああ、うん。面倒くさそうな内容だし、ちゃっちゃと終らせてくるわ。どうせ下位ランク個体の火竜なんでしょ?」

「そうなのよー。だから、3千Gで良いってさっきから『エミーリアだと!?なぜ追放された悪役令嬢がここに居る!!』」


あっ、今すごーくカチンときた言葉が飛んできたんだけど…

そう怒鳴りながら、甲冑の鉄仮面を外してきた騎士は私を睨みつけてきた。



オーギュスト・ヤットワ・レンワー子爵令息。

騎士団長の息子にして、次期騎士団長予定の騎士見習いの奴が個々に来ているとはね…


あっ、そういえばアレから三年経っているから普通に騎士だね。

しかも、一個の小隊を持つ隊長に。

あー、やだやだ。お坊ちゃん育ちでエリート様になってる出世街道謳歌のお貴族様の相手なんてしてられないわ。


「エミーリア!なぜ貴様はここに居るんだ!!しかも、そんな破廉恥な格好を…!!」

「お生憎様、野営経験は幼少期から積んでいましたんで、難なくこの町で冒険者として生きていけました。あと、あんた達みたいな鉄の塊だけのガチガチ鎧より、水竜の鱗で作られた服の方が堅いのよ」


そう言って、私は胸元が空いた水竜スーツをオーギュストに見せ付けてやった。

うん、安価で作ったこの防具だけど、以外と便利だったりするのよね。

特に熱い火山地帯で冒険する際には、冷却スーツとして役割を果すし。


そんな私の胸元(谷間強調)のスーツ姿の方が優れてるという挑発に、オーギュストは顔真っ赤になって拳を作っていた。

あっ、剣が抜けない代わりに殴る気なんだ。これでも女なのにね。


「…ほぅ。元ヴァレンタイン卿の愚嬢は、礼儀も忘れた蛮人に成り下がった上に我ら騎士団を愚弄するか?」

「やるっての?そんな鎧でしか見え晴れない小物の癖に?」

「抜かせ!!」


そう言って、オーギュストは私のお腹に目掛けて拳を突き出してきたが、私はあえて受け止めてみた。

一応、マスターからは冒険者同士での喧嘩はするなと言われてるし、何よりも…


「ぐっ…!?あ、あがっ…!!?」

「なぁに?分厚い小手を填めて殴ったのに、反動で相当痺れてるわけ?」


オーギュストは殴った手を押さえながら、俯きながら悶絶していた。

ぶっちゃけ、水竜の鱗のスーツの上に三年以上鍛えた腹筋よ。

そんなお坊ちゃまで奇麗事ばかり育った軟な拳で勝てるわけ無いじゃない。


「はぁ~…流石エミーさんっすねぇ。伊達に何時も壁役で殴られてるわけじゃないっすねぇ…」

「このくらい鍛えておかないと、火竜どころか地竜の突進にも耐えられないのよねぇ」


そう言ってケラケラ笑う私に、オーギュストを筆頭にバーロー王国の騎士達は青ざめた顔で見ていた。

同時に、ギルドの中にいた他の冒険者達もクスクス笑い出し、オーギュスト達を眺めていた。

皆、この低レベルな騎士様達(笑)に貶しているのだ。


「くっ…こ、こんな冒険者ギルドに依頼したのは間違いだった!他に当たるぞ!!」

「止めときなさい、チェリーな坊や。他の所に依頼した所で、受理してくれる訳無いわよ。一応、バーロー国王の印字も押されているから、あたしのギルドで引き受けておくわ。それに、引き受けてくれるんでしょ?エミーちゃん」

「はい。”国王陛下”と”ヴァレンタイン伯爵一家”のみだけに、あの王国に恩情を持っておりますので、今回”だけ”引き受けようかと思います」

「あらそぅ?なら、承諾しておくわね。というわけでバーロー王国の騎士様、依頼は受理致しますから契約料金だけお支払いくださいませ」

「ぐ、ぐぬぬ…!!」

「返答が無いなら無効にするわよ?いいわね?」

「ぐ…わ、分かった。申請受理してくれ」

「はい。さて、依頼開始日は一週間後だけど大丈夫かしら?エミーちゃん」

「問題ないわ、マスター。同行者はクラリス入れても良い?」

「仕方ないっすねぇ…実家だけは勘弁してくださいっすよ」

「別に良いわよ。こっちの国内の火竜がちょっと数減らしすぎたから、あっちの討伐で頑張って頂戴ね」

「通りで火竜討伐依頼が来ないんすか…今度、乱獲者をハイスラでボコるわ」

「落ち着きなさい。前世の性格の地が出てるわ」


クラリスを宥めた所で、ベネッサに契約金を支払って依頼書を受け取り、ギルドの建物内にある自室へと向かう事にした。


「それじゃあ、オーギュスト。国に帰って陛下にご連絡を。それと…依頼破棄させるような工作をしたら…」


そういった瞬間、私は殺意の目を作ってオーギュストを見下してやった。

あの凶暴で上位冒険者達を恐怖させる紅獅子のような私の殺意の眼力で睨んだら、オーギュスト達は一斉に逃げ出して行ったわ…本当、駄目駄目ね。


「エミーさん、流石に紅獅子狩りする時の目をしたら拙いっすよ」

「…ああ。緋色の毛が溜まらない。狩りにいかなきゃ」

「私…そこまでのランクじゃないっすから手伝えないっすよ」

「今度手伝ってあげるわ。さて、王国への行く準備しないとね…」


そう言いながら、私は自室へと戻っていった。




「そういえば、あの時の女神ボコッた神様はどうしてるんっすか?」

「何でも、腐れ縁の神様である”水銀の龍”が永劫回帰しそうだった所に”黄金の狼”の神様が乱入してきて、三つ巴の争いを始めちゃったみたい」



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