昔、令嬢でありましたが、何か?
名無シング
昔、令嬢でありましたが、何か?
太陽の光が燦々と照らす朝の光と共に、私は体を背伸びさせて起き上がった。
「んぁあ~~…よく寝たぁ…」
そう言って、私は寝惚けながら木の板を乱雑に並べた上に寝袋の中で寝ていた体を這いずって出て、近くの沢で顔を洗ってしゃきっと目覚めさせた。
「ん…?げっ、ヒルに噛まれた後がある。あとで噛まれた箇所に薬草でも磨り潰して塗っておこう」
そう言いながら、私は寝巻きを脱いでから、何時もの鉄の胸当てを着て、動きやすいサブリガとレッグスを穿いて、相棒である片手斧を手入れしている合間に、焚き火を起して昨日取った獲物の肉を焼いていた。
こんな野性の女戦士の冒険者をしている私たが、実は…こう見えても昔は貴族の令嬢でした。
んで、そのお嬢様が野宿をして生きてるかって?
それには深ーい訳がございましてねぇ…あれは、三年前でしたかな?
―――――――――――――――――――――――――――――――
「エミーリア・シルフィ・ヴァレンタイン。君との婚約は破棄させて貰う!!」
三年前の王立学園卒業式のパーティー席にて、当時伯爵令嬢であった私…エミーリア・シルフィ・ヴァレンタインは婚約者だったアルフェント国の第一王子こと、チャールズ・アルフェント様に一方的に婚約破棄を言い渡されたのです。
しかも、私も彼も16歳の若造であるが、親同士が正式の手続きを踏まえて結ばれた長年の婚約を、この王子はパッと出の子爵令嬢アマンダ・サーリア・カーマイン様にゾッコンされて、彼女を妄信する余りに私はおろか他の令嬢の話を聞かないどころか、彼女の言い分しか聞かないんですよ。はい。
その所為で、王子の婚約予定者であった令嬢達は忽ち破棄された上に身分返上もしくは追放される始末でした。そして、その時の私が最後の一人で、しかも3歳の時に陛下と我が父との盟約で交わした婚約を意図も簡単に破棄すると言ったのですよ。このボンクラ。
しかも、その時の台詞が…
「君は、アマンダに対して数多くの嫌がらせを行ったじゃないか!貴族としての振る舞いであるまじき行為だとは思わないか!!」
はい、他の令嬢達と同じくアマンダ様の告げ口定番「私がいじめられて~…」ですよ。全世界の貴族の奥様。
もうね、この時の王子の台詞を受け取った瞬間に「ああ、ついに私もか…」と内心呟きましたよ。本当。
して、そのアマンダ様の定番である「教科書を~…衣類を~…階段から~」の三つの身の覚えの無いどころか、どう考えても虚偽の報告ですよね?それ。
まぁ、そう言う訳で、その虚偽報告を真に受けた王子は信じ込んで、これも定番のお供である権力者の息子三人衆(宰相、侯爵、騎士団長)も備わって、彼女を擁護してるんですよ。はい。
なので…
「私がアマンダ様に行ったという嫌がらせには身に覚えがございませんですし、その当時はアリバイもございます。その上、アマンダ様の告発が他の令嬢様の時と同じ内容を何度も繰り返しているのを、私ははっきりと記憶しております。正しくそれは、虚偽の報告だと疑っても宜しくは無いでしょうか?それに、殿下…貴方様は我が父と国王陛下との正式な盟約によって結ばれた婚約を破棄するとは、次期国王以前に王族として振る舞いとしてどうお考えですか?それを踏まえてからの、私との婚約破棄を突きつけてアマンダ様の言いなりになるのでしたなら、どうぞご勝手にされてください」
と、進言しましたら…王子は怒りで顔真っ赤にされて震えながら大声で怒鳴りましたよ。はい。
「エミーリア!貴様は僕とアマンダに対する侮辱罪で貴族身分を剥奪!この国から出て行け!!」
はい、権力者ではないのに貴族身分剥奪と追放ですよ。
他の令嬢と同じく、気に入らない発言が出ましたらこれです。本当。
ですので、言い返しました。
「上等ですわ!こんな次期暴君が支配する国に召し抱えられるのは真っ平御免でございます!私は今から国王陛下に謁見し、私だけ貴族身分返上したその日から冒険者として生きますわ!では、さようなら。未来を蹴る国・王・様!!」
そういって、私は卒業パーティを抜け、学園長に卒業証書を返納し、真っ先に国王陛下の下へ参ってから事の経緯を全てお話した上で、家族に被害が無いように私のみ貴族身分返上し、国外へと生きる事に宣言いたしました。
無論、その場にいた陛下と父上は考え直してくれとありましたが、あのボンクラは私が国に居るだけで目の仇にするとの事を進言した上で、陛下から旅資金を譲渡されるという恩情を頂きました。
いや、本当陛下には頭が上がりませんでしたよ。
そして、父上には家族に最後の別れを込めて、長年綺麗に伸ばしていた後ろ髪を剣でばっさり切って編み、母上と弟と妹には姉は死んだと告げるように頼んでから、謁見の間を後にしました。
―――――――――――――――――――――――――――――――
それからは…まぁ、はい…
僅か一週間でこんな野宿生活に慣れ、それが三年間も生活してるんですよ。
うん?うら若き温室育ちの貴族令嬢が一週間でサバイバルが出来ますかって?
ところがどっこい、実は私…転生者の一人でございまして。
何を隠そう、あの三歳児の時に風で寝込んだ時に思い出したんですよ。
但し、既にフラグが修正できない所までに来ていたんですよ。
アマンダという同じ世界からやってきたチート転生者が生まれた事により。
アイツ、この世界を乙女ゲームの世界だと思い込んで、やりたい放題でやってきたんですよね。
しかも、二つのチートがありましてねぇ…一つは光魔法が使える聖女特権ですよ。
一応、この世界にも魔法がありまして、四属性と光闇属性の定番魔法があります。
その中でもよくある「光魔法が使える~」のキャラが優遇されるんですよね。
して、逆に言えば…私は闇でした。ファッキン。
まぁ、闇でも聖なる力が有るといわれたので、嗜む程度で覚えていました。
そして、もう一つのチートなのが…皆ご存知の魅了です。
マ・ジ・で・ふ・ざ・け・ん・な。
それを見た瞬間に、私は本気でアイツを全力でボコりたくなった。
てめぇ、マジでふざけんな。そんなもんで男がコロコロ転がってイチャラブ~なんて世界になったら気色悪いわ。
まぁ、その魅了に虜になってメロメロになったのが、あの王子含む例のボンクラ四人衆ですよ。はい。
なので、「悪役令嬢」は早々に返上するべく奮闘していた私でしたよ。
普通、伯爵のお嬢様ならしない兵士訓練を一緒に受けて体力作りをしたり。
領内の民への挨拶を忘れない様に毎日の様に町内を歩いてたり。
勉強も真面目に受けて励む姿勢を取ったり。
とにかく悪印象を持たれない様に必死に努力しました。
あっ?よくある転生者特権の知識チート使わないかって?
あんなもん、時代があわなければ意味が無いんですよ。
まぁ、勉学に関しては王立学園内初等部の頃から万年二位でしたよね。
あっ?一位は誰?
あの
そんなわけで…幼少期に頑張っていた努力が効をしているのか…サバイバルでも強いお嬢様に育ちました。
ちなみに、サバイバルする時は魔法を使わないようにしてます。
というより、魔法は日常では極力使わないようにしてるんですよねぇ。これが。
焚き火もちゃんと、燃える木屑と枯れ木を積み重ねてから火打石などで火を起こすやり方でやってますよ。
何事も、便利な能力に頼らない。
これ、マジで大事です。
そんなわけで…こんがりバリバリに焼けたお肉を頬張りながら、本日の狩りを始めますか。
現在、私は冒険者をやっていると同時に、魔物を狩猟する狩人をやっているんですよね。
あっ、言っておくけどちゃんと正式のギルドに所属してからの狩猟です。
依頼無しでの魔物の狩猟は、身の危険を及ぼす時以外での狩猟したら密猟者として処罰されますからね。
そんなわけで、今回は沢と森林の中を行き来するジャイアントクラブを狩猟しに着てますよ。
皆大好き大きい陸蟹さんです。
勿論、そのままではガチガチで堅くて挑めないです。
なんせ、人間の三倍の大きさもありますからね。
そんなわけで…蟹さんや。大人しく狩られろやぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあぁ!!!
はい、一時間の死闘により、無事に蟹さん狩猟できました。
こっちも何度も鋏に掴まれて投げ飛ばされては、泡ブレスで何度を乙りかけましたよ。
薬草と回復薬がぶ飲みしなければやってられないぐらいに。
ただ、こっちもやられっぱなしでもなくて、ちゃんと対抗策してましたよ。
手製の火炎袋で投げて焼いては、爆薬タルを足元に仕掛けて転んだ所に、何度も柔らかい腹を斧で叩きながら中身をぶちまけさせたりと、やりたい放題に攻撃してやりましたよ。はい。
しかもこれ、何時もの光景というか…今回何度も入る依頼でやっと完成するんですよね。
蟹さんの素材で作られる防具が。
「おっ?やった!川貝の真珠だ!!」
お目当ての川貝の真珠大粒が、これで十個目になりました。
いやぁ、蟹さんの甲殻も何十個、鋏も二十個以上集めないといけないのが心苦しかった。
これでギルド公認の蟹さん防具が作れるよ。フヘヘヘヘッ♪
「おー!!エミーさん狩猟しちゃったっすか!?」
と、感傷浸っていたら…妹分で先に追放された同じ元令嬢仲間のクラリスがやってきたわ。
と言っても、あっちはリザードマンの皮を大量に剥いでますが。
「見てよ!クラリス!真珠十個目手に入っちゃった!!」
「ちょー!!めっちゃ羨ましいっすよ!!あたしも早くクラブ狩りしたいなぁ…」
「頑張ってランク上げなさい。今度、昇給試験の依頼手伝ってやるから」
「本当っすか!?マジありがとっす!!」
そう言って、クラリスは私の腕に抱きついてスリスリしてきた。
うん、偶然ギルドの酒場で見かけた時に拾ってからは随分慕ってくれてるし、何よりも頼ってくれるのは嬉しいんだよねぇ。
あと、私よりおっぱいでかいし。
丁度、私の持っているリザードマンの皮が余ってるから、彼女用に新着防具作って貰うように鍛冶屋のおじさんに頼もうかな。
勿論、ビキニアーマーみたいなデザインで。フヘヘッ♪
というわけで…私含めて王国から追放された令嬢達は、現在ギルドの冒険者か酒場の娘として働いていますね。
なので、”悪役令嬢”とレッテル貼られて追い出された皆様、何時でも歓迎いたしますよー。
あっ、ボンクラ王子の嫁みたいなチート主人公お嬢様はお帰りやがりくださいませ♪
というか、来たら…お前、マジボコるわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます