第2話 公園の子供
車のタイヤがアスファルトの上でギシギシと音を立て、森と私は大阪の荒廃した街を進んでいた。かつては光と活気に溢れていたこの街も、今では過去の影を残すだけだ。第三次世界大戦の傷跡は無視できない。壊れた建物や倒れたモニュメントが、近い過去の痛みを今も叫んでいる。コンクリートの壁は擦り切れ、背の高いビルの窓は倒れた巨人の顔に浮かぶクマのようだ。日本は勝利を収めたが、その勝利は苦い。立ち上がろうとする近代化の幻影が、辛うじて維持されているに過ぎない。街の一角一角、そこに立つたびに、絶望の物語が語られているようだった。そして私たちは、警察署から中之島公園に向かう。そこは混乱の中でひっそりと存在する小さな避難所だ。人間は生き続けているが、過去の記憶を忘れることはない。未来は不確かだが、私たちの命は、過去の記憶と現在の傷を抱えながら、何とか前に進んでいた。
「大丈夫か?」
と森が言った。私は車の窓から外の景色を見つめながら答えた。
「いや、正直言って、大阪のような美しい街がまだ戦争から立ち直らなければならないなんて、見ているのは辛い。」
私は恥ずかしそうに答えながら、彼女を見た。森は道を見守りながら、私は藤川からもらったメモを見ていた。どうして東京から消えた子供が、こんな時期にここに現れたのだろうか。学生に夜間外出禁止令がなかったのか?
「今はすべてが混乱している…くそ。」
と心の中で呟いたその時、森が舌打ちをした。
「もしあの子が外出禁止令を避けていたとしても、ブレイク、僕たちに頼むことはないと思う。何か他にあるんだろう。」
森は唇を噛みしめながら決意を込めて言った。
「まあ、どうでもいい。これを終わらせよう。」
車を降りると、中之島公園が私たちの前に広がっていた。その静けさは、混乱の中の安らぎのようだった。重くて新鮮な空気が木々の間を通り抜ける。木々は時間の経過により傷つきながらも立ち続け、影を作り、避難所となっていた。公園の川の水はゆっくりと流れ、灰色の空を反射している。この場所には一見、静けさが包み込んでいるようだが、空気には潜んだ緊張感が漂っており、癒えきれない何かが残っているようだった。
ベンチの近くで、一人の子供が絶望的に泣いている。その小さな体は震え、涙は止まることなく流れ続ける。周りの警官たちは彼を落ち着かせようとするが、その努力は無駄に見える。彼の目には深い苦しみがあり、何かを伝えられないような痛みが浮かんでいるようだった。森と私は近づくと、公園の静けさと子供の苦しみが対照的で、胸が痛んだ。この場面は理解しがたい。戦争の傷跡が全てを貫く世界で、最も若い命にもその傷が刻まれている。だが、子供は何かを隠している。言いたくないことがあるのだ。
「こちらです、探偵たち。」警官が私たちに近づきながら言った。「ケンタ警部だ。」警部は自己紹介をして、私たちは頷いた。
私たちはその場を歩きながら、泣いている子供に近づいていった。その時、目の前で何かが違和感を持って目に留まった。目の前の茂みを見た瞬間、何かが不自然に感じ、私は足を止めた。地面に残された足跡が新しいもので、心の中に不安が芽生え始めた。
「来てくれてありがとう。この事件は、最初は学校から逃げた子供だと思っていたんですが、この子が行方不明のチラシに載っている子だと分かり、もっと調べることにしたんです。」
警部が言い、泣き続ける子供を見ながら言った。
「その子は朝から現れたんですが、私たちが質問を始めてから、30分前にこの状態に入ってしまったんです。」
「分かった、これからは私が対応する。」森は私を見ながら言った。「君は事件現場を調べなさい。私はこの子を見てくる。」
「了解。」
私は答え、茂みの方へ歩きながら、特に何も見つからないだろうと思っていたが、近づいてみると、土の跡があった。それは少し不審だったが、突然、感知官の声が私の考えを遮った。
「足跡は何も繋がっていません。」
「どういうことですか?」
「足跡を追ってみたんですが、唯一見つかったのは靴でした。しかし、その靴の状態から、ホームレスのものだと分かりました。」
私はため息をつきながら、その跡を辿ったが、感知官の言う通り、何も繋がらない。次第に他の感知官たちが足跡の写真を撮り始め、遅れてきたのか、それともそうだったのか。とにかく私は茂みの中に手を入れて何かを探し始めた。
「探偵さん、何をしているんですか?」
と感知官が聞いてきた。
「この茂みの中を調べているんだ。」
と答え、手を伸ばして茂みの中を探った。その時、左腕で何かを感じ、右腕でも何かを感じた。興味深い発見だ。
「何か見つけた。」
と私は言い、両方の物を掴んだ。右手を離して、茂みの枝に触れ、それが本当に枝なのか確認した。
「仲間を呼んで、これが証拠かもしれない。」
すぐに感知官が仲間を呼び、私が腕を引き抜くと、そこで見つけたのは、鹿のキーホルダーと漫画の雑誌のページだった。
「クソ、子供にこれが彼のものかどうか聞いてみてくれ。」
と私は言いながら、手袋を外した。どうも犯罪に関する手がかりは見当たらないようだ。
私はモリのところに戻った。彼女は少し離れたベンチに座っていて、ノートを読んだり、スマホで何かを調べていた。
—何してるの?— 私が隣に座りながら尋ねると、モリはただため息をついた。
—あの子、オオサカの子じゃないわ。
—どういう意味?— 私が聞くと、何か嫌な予感がして頭から離れなかった。モリは大きく息を吐き、視線を子供のリュックについているシールの絵に固定した。
—その子が通っている学校…ナラにあるのよ。— モリは苛立ちを感じさせる声で言い、手でこめかみを押さえながらストレスを感じている様子だった。— 何もかも、その子とは関係がないし、もし話さなければ進展がないわ。
—僕も調べたけど、茂みの中で見つけたのはマンガの雑誌と、帽子をかぶったシカのぬいぐるみだけだった。可愛いけど。
その話をすると、モリの顔が暗くなり、考え込むように見えた。おそらく、私たち二人とも同じ結論に達したのだろう。
—もし、あの子がここに連れてこられたのなら?— 二人で声を合わせて言った。
—でも、どうやって連れてきたの?— モリが答えた。
—多分、誘拐犯が学校への旅行を利用したんじゃないかな。
—それにしても、触れてもいないし、殺してもいない。なんで大阪に連れてきたのか? そして、なんであの子は一人なんだろう?
—じゃあ、あの子が大阪に連れてこられたものから逃げたってことも考えられる?
私たちは沈黙の中、子供を見つめ続けた。
—とりあえず、オフィスに連れて行くのが一番よ。ヒガイシャシエンシツにいるカンシキカンが、きっと助けてくれるわ。— 私が言ったその時、モリがベンチを叩いて苛立ちを見せた。
—どうしたの?— 私が聞くと、モリはしばらく無言だった。
—何でもないわ。あの心理学者と話をするときは、私は少し離れて、手がかりを見つけるわ。
私は何も言わなかった。モリの顔に浮かぶ不満と、ベンチを叩いた様子から、彼女がその心理学者に関わりたくないことが伝わってきた。私はため息をつき、警察官たちに近づいた。しかし、進もうとしたその時、以前私に手伝ってくれたカンシキカンが叫んできた。
—デテクティブ!— 彼が興奮して叫びながら、私たちに向かって走ってきた。—今すぐ来て!— 彼が言いながら私たちを案内してくれた。
私が以前調べた茂みの後ろで、私は混乱した。「もうその茂みは調べたよね?」と思いながら進んでいった。茂みの後ろの木に向かって進むと、だんだんと不快な匂いが鼻を突いた。それは、腐りかけた魚のような匂いだった。だが、その匂いにもかかわらず、カンシキカンは木の後ろへと進み、公園の奥深くに向かって歩き続けた。数分後、私たちは緑の草地の中の空き地に辿り着き、モリと私はショックを受けた。
—こんなことがあるなんて…— モリが恐怖の声で言いながら、手で口を押さえた。私の体から力が抜けていくのを感じた。まるで、探偵としての勇気がその瞬間に消え失せてしまったかのようだった。
—ブレイクさん、顔色が悪いですよ。— モリが震える手で私の肩を触れた。私は冷たい水に浸かったように体が冷えていくのを感じた。目の前の光景から目を離せなかった。警官たちのささやき声が、遠くの響きのようにしか届かなかった。目の前の光景はまるで恐怖の物語から抜け出してきたかのようだった。カンシキカンは震えながら写真を撮り始め、私たちは呆然と見守った。その時、私は理解した。私たちの両親が夢見ていた平和な時代は、もう崩れ始めていた。
—こんなのあり得ない…— 私は言った。その時、カンシキカンが写真を撮りながら、警察が他のカンシキカンを呼び始めたのが聞こえた。—こんな犯罪が起きるのは久しぶりだ。どうして今なんだ?
—わからない、ブレイク。でも、ひとつだけ確かなのは、その子が私たちが思っていた以上に多くのことを知っているってことだ。— モリが恐怖を感じたまま結論を出した。
私たちはその光景を見続けていると、警官が「何を待ってるんだ?死体袋を早く持って来い!」と言うのが聞こえた。私はまだショックを受けていた。私たちの両親が夢見ていた平和な時代は、もう終わりを迎えようとしていた。
—あの子…— 私はかすかに呟いた。自分の声さえも聞こえなかった。—何かもっと恐ろしいものから逃げてきたんだ、私たちが想像する以上に。
目の前で見たものは、キーホルダーの帽子をかぶったシカの着ぐるみだった。血まみれで、12歳にも満たない女の子が死んで裸で横たわっていた。その腹部からはナイフの柄が突き出していて、さらにその体の一部には信じられないものがあった。私たちがそれが何か知りたくても、カンシキカンは警察署で詳しく調べたほうがいいと言った。
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