第8話「過去からの影」



深夜の研究所資料室。陽斗は古い実験記録を手に、息を呑んだ。


「これが、父さんの最後の研究?」


3年前の日付が記された報告書。タイトルは「人類進化計画 -量子共鳴による意識拡張の可能性-」。


「やっぱり、ここにいたの」


振り返ると、九条玲子が立っていた。


「九条さん……父は、いったい何を?」


九条は深いため息をつく。

「私も、全てを知っているわけではありません。ただ……」


彼女は古い写真を取り出した。若かりし日の相馬剛と研究チームの集合写真。その中心には、現在のグレイ副所長の姿があった。


「あの日、相馬博士は重大な発見をしました。量子共鳴には、人類の意識進化を促す力がある。しかし同時に、兵器として途方もない破壊力も秘めている」


「兵器として?」


「グレイ副所長は、その軍事転用を主張した。でも、お父様は強く反対された」


九条の表情が暗く沈む。

「その直後、相馬博士は失踪。残されたのは、あの腕輪と……」


警報が鳴り響き、会話は中断された。


『緊急事態発生!研究所地下区画でヴォイド反応!』


「地下!?そんなはずは……」

九条の声が震える。


モニターに映し出されたのは、巨大な黒い塊。しかしその形状は、これまでのヴォイドとは明らかに違っていた。


「あれは……人工ヴォイド!?」

陽斗の背筋が凍る。


その時、父の残した報告書の最後のページが目に入った。


『量子共鳴の真の目的は、進化か、破壊か。選択を誤れば、人類は自らが創り出した闇に飲み込まれる』


警報音が轟く中、陽斗は決意を固める。

「父さんの選んだ道、今なら分かる気がする」


腕輪が青く輝き始めた。新たな戦いの幕開けだった。

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