第5話「限界突破」



「共鳴率が安定しません!」


訓練室で警告音が鳴り響く。シミュレーターポッドの中で、陽斗は歯を食いしばっていた。


「現在の共鳴率45%、さらに下降中!」

白石凛の分析官としての声が響く。


「もう一度!」

陽斗は再挑戦を要求する。しかし、訓練を監督する九条が首を振った。


「今日はここまで。無理を続けても、状態は悪化するだけよ」


シミュレーターから出た陽斗の表情は曇っていた。あの日の84%という驚異的な数値が、今では夢のようだ。


「陽斗くん、ちょっといいかな」

美咲が、工具箱を抱えて近づいてきた。


「山野さん……」

「もう美咲でいいって言ってるでしょ? 来て、見せたいものがあるの」


整備室に案内された陽斗の目の前には、分解された量子共鳴腕輪が広げられていた。


「これは!?」


「お父さんの残した腕輪、完全解析までは無理だけど、基本構造は分かってきたの」

美咲は図面を広げながら説明を始めた。


「ねぇ、陽斗くん。量子共鳴って、何だと思う?」


「それは…戦うための力だと」


「違うよ」美咲は穏やかに微笑む。「これは、人の心と機神を繋ぐ架け橋なの。お父さんはそう考えていたはず」


陽斗は黙って美咲の言葉を聞いていた。


「戦うことばかり考えてない? まずは、閃機神の声に耳を傾けることから始めてみては?」


その夜、陽斗は再び訓練室に立っていた。今度は、シミュレーターを使わず、ただ腕輪を手に瞑想する。


(聴こえる…? 僕の声は…)


静寂の中、かすかな振動が腕輪から伝わってきた。まるで、鼓動のように。


「これが、機神の声……?」


次の瞬間、柔らかな青い光が腕輪を包み込む。


モニターの数値が跳ね上がった。

共鳴率72%。


遠く離れた整備室で、データを確認した美咲が小さくガッツポーズをする。


「良かった…。これで、また一歩前に進めるね」

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