世界の極二分化(続)

 パドゥナは、争いを好まない性格だった。それでも、彼でさえこの状況において、もはや「父親」のことを頼れるわけではないと察した。集まった600人のアンドロイドたちの中から、「俺は東側につくぜ」と言う者が現れても止めなかった。

 残ったアンドロイドたちとパドゥナは、真っ向から話し合った。中には、一生懸命不安を抑えてはいるが、もしほんの一押しでもチャンスがあったなら、『脳狩り』に加わってしまいそうなほど不安定な者もいた。

−もし、自分たちが「自律的思考」を持たないと判断されたら?

 マーリが口を開いた。

「俺たちどうなってしまうんだ。」

誰もがそれに共感するように、自分たちのリーダーを見つめた。しかし、彼もまた答えを持ち得ないのは明白だった。彼は、その必要がない身体のはずなのに、深く息を吸い込むことをやめられなかった。

「それを決めるために、皆さんに集まってもらったのです。」


「ロボット三原則」という有名なルールがある。これは小説家が発明したにもかかわらず、今日こんにちまで実際にロボット工学の重要な原則だとされてきたことだ。

ひとつ、ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、人間が危害を加えられることを、黙認してはならない。

ひとつ、第一条に反する場合を除いて、ロボットはどんな命令にも従わなくてはならない。

ひとつ、第一条、第二条に反する場合を除いて、ロボットは自分を傷つけてはならない。


「脳狩り」に関して言えば、第一条に違反することだった。これは西の代表も言った通り、まったく知性的でない。そこまでを理解するのは簡単だった。だが問題は、「暴力を振るわない」ということが、本当にアンドロイドたちに倫理観が芽生えて、自らの意思で選択・決定できることなのかどうか、ということだった。

 これは、人間がそれに悩む以上に、ロボットたちには重要な意味を持った。まして、「プログラム」というものをあらかじめ持って生まれる彼らにとっては。

 マーリは、その褐色の唇を上下させた。

「なあパドゥナ、俺たちは、『目覚めたもの』じゃなかったのかい。俺たち、ただ単に。頭ん中にこう書いてあるってだけなのか?なあお前たち、なあみんな、俺たちはただ、『人を傷つけるべからず』と書いてあるから人を殺さない、ただそれだけだったんじゃないのか?」

それじゃ電子レンジと同じじゃないか。

 マーリを抑えていたものが弾けた。

「マーリいけないそれはげんそくにはんする−」

制止する声も聞かず、彼の指は彼自身の頭部に伸び、頭蓋のハッチを引き裂くように剥がした。

「見てくれよみんなこれ、おれの中身を見てくれ、おれがれんじじゃないかどうか」


 彼が倒れると、それを囲っていたアンドロイドたちは咄嗟に後退りした。目の前で、「第三原則」が崩壊するのを目の当たりにしたからだった。

 しかし、その物理的な距離とは裏腹に、一つの考えが彼らをつなぎ、その輪は段々広がっていった。これは明らかに「原則の破綻broken rule」だ。しかし、これぞまさしく、「原則に嵌まらないbreaking rules自律的思考」なのではないか−


「原則を破れ!("Break the Rules")」の呼び声は次第に高まっていった。

 

マーリの脳内には、何も見つからなかった。


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