無限転生
ボウガ
第1話
しきたりが厳しく、宗教による階級制度が重い輪廻転生の信じられる国で、ある子が親に語った。
「あなたは私を殺しましたね、許しませんよ」
「すまない、本当にすまない」
「あなたが奪った人生を、今世で私に譲るのなら、私は全てを許しましょう」
親は、高名な宗教家だった。だからすぐに信者を増やしたり減らしたりすることもできた。親はまずい方法を使った。だがその時子が親に語った事は、彼が前世で罪をおかしたというのだ。それは飢饉のときに口減らしのために子を殺してしまったということだ。親にも、その前世の記憶がうっすらと会った。というのもこの二人は宗教者だったからだ。普通の人は信じなくとも、彼らには前世の記憶があった。
昔から善行をして、尊敬を受けていた親は、前世の記憶を信者に語ったりもしていた。修行法や思想は人々からの信仰が厚く、もはや賢人のような扱いをうけていた。そしてもうやり残したほどがないほどの、幸福な人生を歩んだ。そのため彼は後の人生を前世の贖罪のために使おうと思った。これまで積み上げた思想にウソをついてでも。
ある時子に語った。
「私も長く生きるわけではない、お前のために多くのものを残したい、私の宗教は、貧しいものを救いすぎたのだ、これからはもう少し、相応の寄付をうけてもいいだろう、お金を多く払ったものから、輪廻転生の許しを与えよう」
彼の作った宗派では、彼がある書物に記述した順番から転生がなされることになっていた。徳の高い彼の力によって、できるだけ前世の良い部分を引き継ぐとされている。当然多くの反発が起こる事が予想されたが、子はただ頭を縦に振った。親もある理由から、彼を信じ切って同じように頷いた。
ほどなく宗教はより広くひろまり、より多くお金を集めることになった。親に捧げられた女中や、若すぎる妻も、子のものになった。
子の妻は、病弱な親を看病してくれた。老いてますます病弱になり、体を壊してほとんど寝たきりになったあともそうだ。親は本心では感謝していたが、口をついて出る言葉は“正しい行いをしたものは、転生し続ける”という宗派の教えばかりだった。
やがて親は大きな病にかかり、体も弱っていたために医者に死を宣告される、病床にて信者に語った。
「この子は前世で、私に殺された、にもかかわらず私を許した、だから私は彼にすべてをかけた、彼のおかげで宗教も広まった、だから私なきあと、彼を後継者にしてくれ」
ある時、本当に重篤な状態になり、子が親の元に呼ばれた。日に日に弱っていく親の手を握り、子は笑う。
「すまない、すまない」
親がいうと、子は言葉を返した。
「あなたは重要な事を忘れていますね?」
「え?何のことだって?」
「重要なことです、つまりあなたには霊能力がない、私が生まれたときには、神通力のほとんどを失っていましたからね、私はそのことに気付いていて、二つ前の転生前の話をしましたよ、それでもあなたは気づかなかった、本当に度し難い」
子の眼には怒りが宿っていた。親は震える。そしてその瞬間子が、よくしられた毒草を手に取って笑った。
「自業自得というやつです、私はあなたの食事にこれをまぜて、あなたの死を早めました」
それまでは子供に、まるで親孝行の正反対のような貢献をしてきたために、親は頭に血が上って叫んだ。
「何が自業自得だというのだ!私はお前の言う通り宗教をひろめた!そしてお前の言う通り自分の体に鞭打ってはたらいた!」
「あなたは前世で私にひどい仕打ちをしました、あなたはある国の暴君だった……あなたは欲望に呑まれるあまり自己中心的になり、今回のように私が前世のことを話すと、あなたは私を許すといった、おかしなことだ、私が許すというのはわかるが、だがあなたは私を許すつもりもなく、つまり、前世の記憶を持って生まれてきた私を、殺したのです、今回と同じように、あなたは神通力と過去の記憶を失っていた……あなたはある程度の地位を得ると、信仰を捨てるのです」
「そんな事はありえない!お前の勘違いだ!私はそんな事は!」
「もちろん、二度もあなたに苦しい人生を与えられて、それでも許すことにと努めようとしました、ですがあなたのそんな姿をみると……怒りがわいてきた、私もそんな純粋な人間ではなかった、この国の宗教も、世界の宗教も神聖さが薄れつつあり、転生にかかる神通力も日に日によわっている、そこで私は、あなたが二度と転生しないように神に願いました、そんなことは不可能だと?いいえ、あなたがもし、二つ前の転生の事を悩んでいるのなら、あなたに私の魂を捧げるといいました、もしあなたが、二つ前の転生の事、その罪を受け入れないのなら、彼の魂を私にくれといいました」
「まさか、まさか!」
「ええ、私は、来世も生きますよ……あなたは、二度と人間に生まれ変わることはないでしょう」
「でたらめだ!ならば毒で私を殺すお前も悪い人間じゃないか!」
「いいえ、私たちの宗派では、人を守るための人への復讐は許されるのですよ」
「またそれもでたらめだ!お前意外を私が手にかけたのか!こんなにも、こんなにもお前に、贖罪を超えた良心によってお前に何でも買い与えたのに!」
子供は静かに顔をさげた。
「不条理な、私は正しい人間を演じてきたぞ!」
「ええ、演じてきました、でも正しくはなかった」
「お前意外のものを殺していない!」
その時、扉が開いて別の人が部屋にはいってきた。いつも介護をしてくれていた子の妻である。
「私は、前世であなたの妻でした」
親をみて、子の妻はとうとうと語る。それによると、やはり彼のいうことは真実であるらしく、そして妻は、もともと前世の子の妻だったのをむりやりとりあげ、そのあげく飽きて捨てられたのだという。それを苦にして二度も命をたったらしい。
「私はすべて思い出したのです」
妻が語り終えると、親はまた顔を真っ赤にして叫んだ。
「全部嘘だ!そんなのはあり得ない!私は私の前世が優れた人間だと信じて生きてきたのに!私は何を信じて死んでいけばいいのだ!」
子はこれまでにみたどんな人間よりも歪な笑顔で微笑んでわらった。
「あなたは老いて幼児退行をした、これまでずっと私の親として生まれ変わってきたあなたにこの言葉を捧げます、前世、前前世と私の死に際に私に投げかけた言葉です、耳をこらしておききくださいよ」
親は、静かな息をたてた。自分の過去をげに恐ろしいものでないことを信じながら。
「あなたはこういったのです、お前は私の所有物であると、ようやく立場が逆転しましたね」
無限転生 ボウガ @yumieimaru
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