2.余計な進言
「はぁー……」
「なんだぁ? 朝から重いため息を吐くなんて」
「アレが来たとか?」
「そうじゃないけど……」
告白した放課後から翌日、学校にやってきた私は気が重かった。友達の一条と清水が心配そうに声を掛けてくれるけど、気の重さは変わらない。
結局、昨日の告白はうやむやになったし、本命の友達から始めましょうも言い出せなかった。そう、あの告白は友達になるきっかけになれればと思って行動したことだ。
恋愛として好きな気持ちは変わらないけど、いきなり付き合うとかは無理だと思ってた。女の子同士だし、そういうのに偏見があったら一発アウトで終わっていたところだから。
実際はアウトに近かったんだけど、なんとかそれは阻止できたと思う。……そうだよね?
「昨日は放課後は別々だったし……まさか! 誰かに告白でもしてたんじゃないのか?」
「えっ! ち、違うよ!」
「ふむふむ。一条さん聞いてください、これは怪しいですよー」
「この慌てよう……きっと何かあるに違いないですな、清水さん」
二人がふざけてニヤニヤしながら突いてくる。くっ、こんな時だけ鋭いんだから!
「昨日はアレだよ……忘れ物を届けに行ったんだよ」
「えー、本当かー? 絶対怪しいぞ、これ」
「隠し事をしても良いことないよー」
「本当、本当だって! ほら、そろそろ先生が来るから席に戻った方が良いよ」
「後で覚えておけよ」
「追及はまだまだ続くからねー」
二人は名残惜しそうに私の席から離れていった。本当の事を言えたらどんだけ楽か……でも、女の子が好きだなんて大っぴらに言えないよね。
机に突っ伏して、チラッと後ろを見る。斜め後ろの離れた席では佐々原さんが友達と楽しそうにお喋りをしていた。友達と話すその横顔は快活で見ているだけで元気が貰える。
それに、少し胸が高鳴る。この心地いい感じを覚えると、私は恋をしていると自覚させられる。やっぱり、好きだなぁ……。
うん、まだ諦められない。とにかく友達から始めることを目標に動いていこう。そのために、私ができることは……。
そんな事を考えると、教室が少しざわついた。この感じ……分かる。泉さんが教室に入ってきたんだ。
チラッと視線を向けると、すまし顔で歩く泉さんが見えた。手足はスラッと長くて、モデル体型。艶やかな髪はサラサラしていてとても綺麗。学校一の美貌を兼ね備えたその横顔は見惚れるほどに綺麗だ。
私の髪はセミロングだから、髪を靡かせて歩く泉さんが羨ましい。それに身長も低い部類に入るから、丁度いい感じの背の高さがある泉さんが羨ましい。顔だって童顔だから、実際の年齢より低く見られがち。はぁ、美人はいいなぁ。
クラスメイトが挨拶をすると、泉さんも挨拶を返す。その声は透き通っていて、聞くだけで心地よくなってしまう。
学校一の美少女が昨日あんな事を叫んでいたとは、クラスのみんなに言っても信じてくれないだろうな。まさか、あんなに豹変するなんて思ってもみなかったから、本当に驚いた。
普段の泉さんはそんな事を言うタイプではない。どちらかというと物静かで自己主張をしないタイプの美人だ。休憩時間に小説を読んでいる姿を見かけるから、体育系というよりは文学少女な感じだ。
そんな泉さんが、荒ぶって叫び声を上げるなんて……疲れていて咄嗟に出てしまったんだろう。きっと、あの泉さんには二度とお目にかかれない、そう思っておこう。
すると、チャイムの音が鳴って先生が入ってきた。
◇
「さーさーはーらー! 担任の教科で赤点を取るなんて、いい度胸をしているわね!」
「いやー、それほどでもー」
「褒めてない!」
「いたっ!」
数学の時間、中間テストが返ってきた。その中で赤点を取った佐々原さんは教室の前に立たされ、宮永先生から丸めた教科書で頭を叩かれた。叩かれる前の笑って許しての佐々原さん、可愛かったなー。
佐々原さんが前にいるから、その姿が見放題で嬉しい。いつもは斜め後ろの離れた位置にいるから見れないんだよね。佐々原さんには悪いけど、宮永先生には感謝だね。
「でも、先生。赤点って言っても二十四点だったじゃない。あと六点だから、見逃してー」
「ダメよ、ダメ! 六点足りなくても赤点は赤点だからね。追試は決定ね」
「そんなー」
がっくりと項垂れる佐々原さんにクラス中が笑いに包まれた。その笑いを受けて佐々原さんはちょっと照れ臭そうに笑う。その控えめな笑顔も可愛いなー。
思わず笑みが零れるが、他のみんなの笑っているから変には思われない。存分に佐々原さんの姿を見てニコニコ笑っていると、宮永先生が私たちに視線を送った。
「高校一年生のみんなには言っとくわね。赤点取った人は一週間後に追試をする。それで合格だったら何もないけれど、不合格だったら進級に影響するから気を付けてね」
なるほど、それは気を付けないといけない。留年は勘弁したいところだから、赤点取らないように気を付けないと。でも、佐々原さんは大丈夫かな? 追試で合格しなかったら、進級に影響あるみたいだけど……。
「じゃあ、この中で佐々原に勉強を教えてくれる子はいる? 放課後に教室に残って、佐々原に勉強を教えて欲しいんだけど……」
「お願いー! 誰か、勉強教えてー!」
宮永先生がそう言うと、教室中がざわついた。佐々原さんと放課後一緒に勉強か……それができたらどれだけ幸せな時間なんだろう。でも、普段関係のない私が立候補したらみんなにおかしく思われちゃうかも。
ざわつく教室内だったが、急にシンと静まり返った。突然の様子の変化に驚いて周りを見渡していると、斜め前の離れた席に座っていた泉さんが手を上げているのが見える。。
「何かしら、泉さん」
「私が佐々原さんに勉強を教えてもいいです」
えっ、泉さんが? 突然の立候補に驚いていると、宮永先生が続けて口を開く。
「泉の成績は学年一だし、適任だと思うわ。じゃあ、佐々原に勉強を教えてくれる?」
「はい、それは構いません。ですが、私一人ではちょっと荷が重いと思うんです。他にもお手伝いが欲しいです」
「泉だけじゃ荷が重い? まー、本人がそういうんならいいんじゃない? じゃあ、誰か他にも手伝いをしてもいいって言う人はいる?」
学年一の学力を持つ泉さんが勉強を教えるのが荷が重い? そんな訳がないと思うんだけど……というか、手伝いをする人の方が荷が重くなってない?
「先生、それには及びません。手伝って欲しい人は決めました」
「へー、誰にお願いするの?」
「水島さんです」
水島さんねぇ……大変だなぁ。……ん、それって私の名前じゃない?
ハッと気づくと、みんなが私に注目していた。わっ、みんなに注目されるの変に緊張する。お願い、こっちを見ないでー!
「なんで水島なの? 成績は中ぐらいだし、特別仲が良いっていう訳じゃなかったわよね?」
「水島さんは人と人の間を取り持つのが上手だと思いますので、私と佐々原さんの間に入ってもらえればスムーズに勉強を教えることができると思うんです」
「水島が取り持つ? うーん、そんな感じには見えないけど……まぁ、泉がそう思うんだったらそうなのかもね」
えっ、私にそんな超能力はないよ! いたって普通の女子高生だし、新しい人間関係を作るのも苦労しているし。ど、どうして泉さんはそんな事を言うのー!?
「水島、泉と一緒に佐々原に勉強を教えてもらってもいい?」
「えっ、あっ……はい」
「よし、じゃあ決まりね。絶対に次は佐々原に赤点取らせないように勉強を教えてね」
こ、断り切れなかった。じゃあ、私は泉さんと一緒に佐々原さんに勉強を教える事になるの? えっ、そんな……昨日の今日でそんな事言われても困るよー!
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