恋した私とノンケな佐々原さんと余計な百合豚泉さん
鳥助
1.告白に乱入してきた百合豚
初夏の訪れを感じさせる清々しい風が吹き抜ける屋上。その空気に身を委ねればきっと気持ちがいいのだろう。だけど、私は緊張で心臓が高鳴っていて、それに身を委ねることができない。
目の前に意中の人物がいるからだ。
「水島さん……だよね? こんな所に呼び出して、何か用だった?」
肩まで伸ばした髪を二つ結びにして、端整な顔立ちで長身の彼女。その人が不思議そうな表情をして顔を傾ける。
何気ない様子だけでも、私の緊張は高まっていく。胸が苦しくなって、息が上がって、顔が火照っていく。私が佐々原さんに恋をしている確かな証拠だ。
「あ、あのね……佐々原さんに聞いて欲しい事があって」
「ウチに? 何々、どんなこと?」
緊張しながらも言葉をかけると、何も知らない佐々原さんは無邪気な笑顔を向けてきた。それだけで、私の胸はさらに高まって頬が熱くなっていく。
この気持ちは疑いようもない、私は佐々原さんが好きなんだ。自分の気持ちをしっかりと自覚して、勇気をかき集める。
大きく深呼吸をして、心を落ち着かせる。気持ちを伝えるために呼びだしたんだから、ここで怖気づいたらダメ。胸元でギュッと手を握りしめると、息を吸い込んだ。
「私っ……佐々原さんが好き! 友達としてじゃなくて、恋愛感情として好きなの!」
佐々原さんの顔を見てはっきりと伝えた思い。すると、佐々原さんは驚いた表情をした。その目を真っすぐ見つめて、この気持ちは嘘じゃないことを訴える。
私と佐々原さんの間に静寂が降りて、何も喋らない。言葉が足りなかった訳じゃないよね? ちゃんと言葉は伝わっているよね? 無言の状態が続いて、だんだん不安になってくる。
すると――
「えっと……水島さんは恋愛としてウチが好きなの?」
「う、うん……。恋人になりたいっていう気持ちだから」
「……そう」
不思議そうな表情をした後、感情を消した。その態度に胸が苦しく締め付けられる。大丈夫、その反応は予想してたから。何を思っているのか知りたいけれど、性急にはしない。
黙って待っているこの時が一番辛い。あれだけ高まった鼓動も熱も次第に冷めていったのが分かる。大丈夫、まだそう決まった訳じゃないから。
緊張しながら佐々原さんの言葉を待っていると、逸らされた視線と目が合う。それだけで体が強張った。
「気持ちは嬉しい。嬉しいけど……ウチには分からないや。女の子同士の恋愛って分からないから受け止められない」
その言葉を聞いた瞬間、その場にしゃがみ込みそうになった。分かっていたけれど、辛い。はじめの反応から良くはなかったから予想はしたけど……改めて言われるのは辛かった。
でも、まだ大丈夫。これは予想していたから、この後に言う言葉は用意してある。気持ちが折れる前に、気をしっかり持って佐々原さんと向き合う。
「分かる、分かるよ。女の子同士の恋愛なんて分からないよね。でも、分からないのは私もなの」
「えっ……水島さんも分からないの?」
「だって、女の子を好きになったのは初めてだし……。だから、それは佐々原さんと同じなの」
「じゃあ、なんで告白を?」
佐々原さんと同じ気持ちだと伝えると、複雑な顔をする。勝手に告白して、恋人になりたいとか言って、でも実は恋愛の仕方が分からないって知ったらそう思うよね。
まだ大丈夫、私は振られていない。告白は始まりに過ぎないから、大事なのはここからだ。ここから佐々原さんと――
「ちょっと待ったーーーっ!!」
その時、扉の方から声が聞こえた。その声に驚いて見ると、そこには人が立っていた。艶やかな長髪を靡かせて、学校一の美人として全生徒から羨望の眼差しを向けられるクラスメイト――泉さんだ。
その泉さんは少し怒ったような表情をして、ずかずかとこちらに近寄って来る。状況が飲み込めず呆気に取られていると、泉さんは佐々原さんを睨んだ。
「ちょっとあなた、女の子同士の恋愛が分からないってどういう意味よ!」
「えっ……どういう意味って。そのままの意味で言ったんだけど……」
「普通わね、直感で分かるはずよ! 向けられた好意には肌で感じて、すぐに反応がでるものなの!」
きょとんとする佐々原さんに泉さんが物凄い剣幕で言い聞かせた。けど、私もその意味が分かりません。女の子同士の恋愛って直感が働くものなの? それに肌で感じるって……どういう事?
「好きって言われたら、自然と好きってなるのが百合なのに!」
「好き……えっ? も、もう一度言って」
「好きって言われたら好きって思うのが普通なのよ!」
それって百パー告白が成功するってこと!? そんなことってある!? それに……百合って何っ!?
「目と目だけでお互いの気持ちが分かるし、言わなくても空気で悟って気持ちを確かめ合うし……。だから、本当なら二人はもう結ばれてキスくらいしているはずなのに!」
「結ばれ……キスッ!?」
「そ、そんなこと考えてないよーっ!」
「今頃は気持ちを確かめ合って、覚束ない手で抱きしめ合って、幸せな百合キスをして、二人で微笑んでいたはずなのに……どうしてこうなったの!?」
こうなったのは、乱入してきた泉さんのせいだよ! って言えるはずもなく、突然現れた美人に私たちは圧倒されていた。
そして、その泉さんは今度は私を睨みつけた。
「あなたもね、告白しながら女の子同士の恋愛が分からないって言わないの!」
「えっ……だって、初めてだし……」
「なんでそこは分からないのー!? そこは分からせてあげないとー!」
泉さんは絶叫すると頭を抱えてしゃがみ込んだ。えっと……そんなに衝撃的なことを言ったつもりはないんだけど。
突然現れて、好きなことを言う泉さんに驚いている私たち。どうしていいか迷っていると、スクッと泉さんが立ち上がった。その顔は使命感のある凛々しい顔つきになっていた。
「これはあれね。私の好きなようにしてもいい展開ね」
えっ、全く関係のない泉さんは何かをしようとしているの? そ、それは困る!
「い、泉さんは私たちとは関係ないよ! だから、これ以上構うのは止めて!」
「構うわよ! 関係あるわよ!」
「どの辺が!?」
「百合だから!」
だから、百合って何ー!?
「あなたたちが百合初心者なのは分かった。だから、私の想像を遥かに下回る事ばかりしているのね。そうだと分かっていれば、事前に入れ知恵もできたのに……私の理想の告白シーンが再現できたかもしれないのにっ」
悔しそうに顔を歪ませる泉さん、だけど言っていることは無茶苦茶だ。本当に泉さんは何を言っているの!?
「オーケー、オーケー。落ち着いてきた、頭がクリアになってきた。ここは私の妄想が届かない世界……だから仕方がない」
一人で騒いだり落ち着いたりしているけれど、どうしてこの場に関係のない泉さんがいるのだろう。しかも、関係がないのに場を仕切り始めているような気がする。
また凛々しい顔つきになった泉さんは髪の毛を手で後ろに払うと宣言する。
「百合が分からないって言ってたわね」
「う、うん……」
「ウチも分からない」
「仕方ないわね。じゃあ、ちゃんとした百合ができるように、私が教えてあげる」
百合が……できる? 百合って行動するものなの?
泉さんの言葉に私たちは呆ける事しかできなかった。えっと……それで私の告白はどうなったの?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
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