壊滅──ロシアチーム

我が名はイーゴリ。今回は国からの依頼を受け、この「混沌の迷宮」なるダンジョンの攻略に挑んでいる。今我らが攻略しているのは、第十四層、雪と氷に覆われた階層だ。この階層は雪による見通しの悪さ、氷による足場の悪さ、それに……。


「……ちっ、またか……。」


我の舌打ちと共に、足元の氷の一部が崩れ落ちる。


── この階層で一番厄介なのは、このクレバスだな……。気を抜いて落ちればまず戻ってこれまい。


「行け。」


我はチームのメンバー、もとい、手の内を明かさないための捨て駒・・・に命令する。そいつは一瞬ためらうようなそぶりを見せたのち、走り出す。そして50メートルほど行ったところで、クレバスに落ちた。後について見てみれば、それは幅15メートルほどの大きなクレバスで、底を目視することはできない。


── おそらく、あいつも死んだな。……第七階層から第九階層の遺跡で捨て駒を失いすぎた。あとは1人しか残っていないではないか。これでは想定していた「第二十階層まで極力実力を明かさない」と言う計画の実行が難しくなってくるぞ……。


そんなことを考えつつ、我らは先の犠牲のおかげで見つけ出すことができた階段を降り、第十五階層へ足を踏み入れた。


── そこは、他のどの階層とも違い、ただ広い部屋が一つ広がっているだけだった。そして次の瞬間、足元に真紅の槍が突き刺さる。

その槍が突き刺さった瞬間、我は周囲を取り囲む異常とも言える量の気配を察知する。慌てて周囲を見渡せば、そこには異形の生物たちがただ静かにこちらに真紅の槍を向けていた。


それは灰色がかった白い油ぎった肌の、まるで目のないヒキガエルのような生物だった。鼻に当たる部分にはピンク色の短い触手が生えている。


奴らには目こそ存在していないものの、明らかにこちらを「敵」と認識し意識を向けていることが伝わってくる。その数、およそ500。そして次の瞬間、まるで示し合わせたかのように一斉に槍が投擲される。


── これは出し惜しみをしている場合ではない!


一瞬でそう判断した我は、迷わずスキルを発動し、道中で拾った小石を投げる。


その小石は奴らのうちの1体に触れた瞬間、周囲を巻き込んで爆発する。


爆発に怯んだ一瞬の隙を見逃さず、我は槍を躱しつつスキルで生み出したM134ミニガンの弾を、迷うことなく撃ち込んでいく。


── 我のスキルは「銃武装者ガンナー」。自らの触れたものを銃火器へと変質させたり、あらかじめ登録しておいた銃火器を呼び出すことのできるものだ。自身の魔力を弾丸に変化させ撃ち出すことも可能であり、弾切れの心配はほとんどない。さらにこのスキルは銃火器の性能の向上も可能で、本来銃火器が通らないモンスターにも問題なく通用する。


M134の掃射により、先の小石ばくだんによって生まれた煙が晴れる。そしてそこには、ある程度の傷を負ってはいるもののいまだに元気な奴らの姿があった。見れば、奴らの皮膚が自由に変形することで弾の威力を殺しているようだ。


── 厄介だな……。先の小石ばくだんによるダメージもほとんど通っていないように見える。……まさか、銃火器に耐性が?

その可能性に思い当たった我は、今まで我の後ろで沈黙していた最後のメンバー捨て駒の持つ剣を使おうと、そちらを振り向く。


── 瞬間、我の胸に何かが突き刺さる。見れば、それはメンバー捨て駒の剣だった。何故?答えは簡単だ。メンバー捨て駒が我のことを刺したのだ。


「ひ……ひひ……!ははは……!まずは1体……」


彼は狂ったかのように ── 実際、発狂していたのだろう ── 声を上げ、我から剣を抜き次の獲物に狙いを定めようとする。


── その瞬間、彼の身体を無数の槍が貫き、彼は肉片へと姿を変える。


奴らは出血でろくに動けない我に接近してくる。我は最期の足掻きとグロック17けんじゅうを撃つが、弾丸はその皮膚に弾かれる。


── ここまでか……!

我が死を覚悟した瞬間、奴らは我に何かを振りかける。その瞬間、我の胸元にあったはずの刺し傷が癒えていく。


── これは……ポーション……?しかもかなりの品質の……なぜ?


モンスターらしからぬその行動に一瞬首を傾げる我だったが、次の瞬間その理由を体感する。


我の四肢に、槍が突き刺されたのだ。


それにより我の体は地面に縫い付けられ、動くことができなくなる。そして次の瞬間、我の身体に無数の槍が突き刺され、抜かれる。


── しかしまた、我の身体にポーションがかけられ、我は死の淵から蘇る。四肢に刺さった槍はそのままに。


その瞬間、我は全てを悟る。奴らは、我をいたぶっているのだ。しかもポーションのせいで、死のうにも死ねないまま。そのことを認識した瞬間、我の中の何かが壊れる。そしてそのまま、我は終わることのない苦痛に苛まれ続けるのだった。


── ロシアチーム、第十五階層にて全滅。

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