混沌の迷宮──質問返し 下

〈……え?〉

〈……は?〉

〈流石に冗談……だよね……?〉


僕が家の場所を明かしてから約1分後。ようやくコメント欄が動き始める。


「冗談じゃないよ。ほんとほんと。」


〈いや、いやいやいや〉

〈流石にこれは……ねぇ……?〉


どうやら大半の視聴者は僕の言ったことを信じてないみたい。うーん、どうやったら信じてくれるかな……。


……あ、そうだ!


誰の目からも明らかになる形での証明方法を思いついた僕は、早速リルと念話を繋ぐ。


(リルー、聞こえる?)

(ん〜?どうしたのご主人様?)


── 実は拓海に隠密系技能を叩き込んでる合間に、僕とリルとの繋がりもだいぶ強くできたんだよね。その過程で、この"念話"ともう3つくらい特殊なスキルが見つかったんだけど……。……ついでにもう1つも解禁しちゃうか。


(多分その辺に使ってないドローンが転がってると思うんだけど、起動できる?)

(ん〜、これのこと?)


そんなリルの声と同時に、僕の中にリルの見ているものが映像として流れてくる。


(そうそう。それの側面にある丸いボタンを押してくれないかな?)

(わかった!)


リルがボタンを押すと、ドローンが起動してぷかりと浮かび上がる。


── うん、問題なく起動してるね。それじゃあ……。


〈ん?〉

〈なんか配信始まったぞ〉

〈リルちゃんドアップの画面だが〉


(よし。それじゃあリル、"変身"してうちの外に出てくれる?)

(了解!……へ〜ん、しん!)


リルがそう唱えると、リルの体が輝き始める。


〈うおっ!?〉

〈なんか光り出したぞ?〉

〈一体何が……ってゑぇ!?〉

〈誰だこの美少女!?〉


── そしてその光が収まると、そこには1人の少女の姿があった。透き通るような水色の髪と瞳に、白い肌。それに加えて、その頭からは狼の耳が生えている。


〈ケモ耳美少女!〉

〈もしかして……この美少女がリルちゃんだったりするやつ!?〉


「そうそう、その通りだよ。」


僕は正解のコメントに反応しつつ、


(それじゃあリル、そのまま外に出てもらっていい?)


と念話を送る。

僕の指示に従い、リルが外に出る。そこには、僕にとっては見慣れた、ダンジョン最下層の風景が広がっていた。


〈マジでダンジョンやん……〉

〈『精霊』がダンジョンに住んでるって噂があったけど……〉

〈まさか本当だったとは……〉

〈でも、何でこんな危険地帯に?〉


「僕達がこんな危険なところに住んでる理由、ね。……それは、あの12年前の事件に関係してるんだ。……僕達が12年前の桜ダンジョンの氾濫スタンピードに巻き込まれたのは知ってるよね?」


〈そういや初配信の時にそんなことも言ってたな〉

〈それがどうかしたの?〉


「実は僕達、あの時の氾濫に巻き込まれた影響で、長時間ダンジョンを離れることができなくなっちゃったんだ。」


〈……え?〉

〈そんなこと……ある?〉


「僕達以外の例は聞いたことないけど……実際、ダンジョンの外だと3日か4日くらいが限界なんだよね。」


〈てか、もしかして『精霊』として活動してたのって……〉


「そりゃあ自分の家の敷地内で勝手に人に死なれちゃ寝覚めが悪いからだよ。それを防ぐために看板も置いたのに無視して死ぬ人が多いしさぁ……。ダンジョン内での人死にってモンスターの活性化や異常発生イレギュラーの原因になるからやめてほしいんだよね。」


〈しれっと新事実〉

〈……これが本当なら氾濫の対策だいぶ楽にならね?〉


「あ、でも1つ気をつけて欲しいのは、あくまで人死にはエネルギーになるってだけで、逆にそれを恐れてモンスターが溜まり過ぎても起こるから、定期的な間引きも必要になるんだ。事実、僕もうちのダンジョンで間引きやってるし。」


〈へー〉

〈ただ入る人数を制限するだけじゃダメなんだな〉

〈……あれ?話変わるけど、ダンジョン内に一定期間放置された非生物ってダンジョンに吸収されるんじゃ?〉

〈……確かに!〉

〈どうやって家を保持してんだ?〉

〈その性質のせいでダンジョン内での寝泊まりはリスクが大きいはずなんだけど〉


「あー、それは……まあ、企業秘密で。」


── 流石にダンジョンコアの権能を利用してずっと残るようにしてるなんて言えないしなぁ……。


〈えー〉

〈別にいいじゃん〉


「だって、教えたところで普通の人には到底無理な方法だよ?多分僕達以外がその方法をやろうとすると……死ぬよ?」


〈ゑ〉

〈それは勘弁〉


「ま、色々やってみるのは自由だけどね。……そろそろ休む時間だから、質問返しはここまでだね。映像は流しておくけど、多分しばらく動きはないよ。」


〈りょーかい〉

〈今のうちに俺らも休んどくか〉

〈だいぶ長丁場になりそうだしな〉


「それじゃあみんな、おやすみ。」


僕はそう言って、カメラを明後日の方向に向ける。

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