壊滅──アメリカチーム

俺の名はジョン・ドゥ。名もなき衛兵だ。今回俺は、国からの依頼でこの「混沌の迷宮」とかいうダンジョンの攻略をしている。何でも、ここを攻略しないと世界崩壊の危険があるんだと。……まあ、俺は衛兵。金さえ払われれば、どんな依頼だって受けるさ。


「ジョン!」


そう俺に呼びかけるのは、今回のパーティーメンバーの1人、ギルだ。そして彼の声が届くと同時に、俺に向け数多の魔術が飛んでくる。だが……。


「……はっ!」


全ては俺の拳の前には無力だ。俺が拳を振るえば目の前の全てが消し飛ぶ。たとえ魔術であろうと、それは変わらない。


そのまま俺は魔術を放った主 ── 第十九階層フロアボスである、不死ノ識者エルダーリッチに一瞬で迫り、拳を振るう。本来ならその身を滅ぼすためには系統外である神聖魔術が必要となるこいつだが、俺の拳の前にはそれも関係ない。そのまま俺の拳が不死ノ識者の体をバラバラに吹き飛ばし、そのまま消滅させる。


「……行くぞ。」


不死ノ識者が消滅したことを確認した俺は、先を急ぐ。ダンジョンこんな空間、長時間人が過ごすようなところではない。ダンジョン内の魔力は俺たち人間には毒になりうる。長期間過ごしていれば、最悪の場合ダンジョンの一部とみなされダンジョンから出られなくなることだってある。そうなれば、待っているのは「死」のみだ。


そのまま次の階層に続く階段を降り、扉を開ける。


そしてその中にいるそれ・・を見た瞬間、パーティーメンバー9人のうち、7人が発狂した。あるものは奇声をあげ、またあるものは一瞬で気を失う。そして彼らに向け、それ・・は注射器のように鋭い舌を突き刺し、彼らを一瞬で絶命させる。


「な……何なんだ……あいつは……!」


俺を除いて唯一発狂しなかったギルが、震える声でそう言葉をこぼす。


それ・・はこの世界に存在するどんな生物とも異なる見た目をしていた。一見すると狼のようにも見えるその体は、青みがかった謎の液体を体から常に滴らせている。


「……あいつが何であろうと、やることは変わらない。俺たちはただ、目の前の敵を滅ぼし、進むだけだ。」

「あ、ああ!そうだな!」


ギルは俺の言葉に精神の安定を取り戻したのか、得物である両手剣ツヴァイヘンダーを構え、それ・・に斬りかかる。しかしその攻撃はそれ・・に全く効いた様子はなく、その攻撃の隙をついて一撃で首と胴体を切り離されて死んだ。しかし俺はその攻撃の隙をついて、それ・・に向けて拳を振るう。


── おそらくこいつは、物理攻撃に対する高い耐性を有しているのだろう。だが、俺の固有ユニークスキル、「唯我独尊オンリー・ミー」の前には、あらゆる耐性が無効となる。今までこれが通用しなかった敵はいない。今回もこれで終わりだと、そう思っていた。


── だが、俺の拳が当たってもそれ・・は全く動くことなく、ダメージを受けている様子もない。


(何だと……!俺の拳が効かない……だと……!)


俺は何度も拳をそれ・・に叩きつける。しかし、それ・・には相変わらず効いた様子はない。


〔無駄だ。我らには効かぬ。〕


その瞬間、俺の頭にそんな声が響く。


「……何?」


〔見たところ、主は魔力をほとんど保有しておらぬな?〕


その言葉に、俺はどきりとする。確かに俺は保有魔力がほとんどないが、それを伝えたことがある者はいないはずだ。それを一瞬で見抜いただと……?


「……そうだが、それがどうかしたのか?魔力がなくとも、俺には技がある。」

〔だから、それでは無駄だと言っておる。見たところ、お主のスキルはあらゆる耐性を無効化し、相手の防御力に関わらずダメージを叩き込む、と言ったスキルだろう?〕


「唯我独尊」の効果までも言い当てられ、今度こそ俺は動揺する。まさか、こいつ……!

しかしその俺の仮説は、次の一言に吹き飛ばされることになる。


〔しかし、それは間違っておる。それの効果は、"僅かでもダメージが通った場合、それを増幅し相手にダメージを与える"というものじゃ。しかし、それはあくまでダメージが通った場合じゃ。我ら『犬』は、あらゆる物理攻撃を無効化・・・する。魔力をろくに扱えぬお主には、我を殺すどころか、ダメージを与えることすらできぬ。何なら試してみるか?ほれ?〕


そう言うとそれ・・は、あろうことがこちらに腹を向けてくる。


── こいつ、どこまで俺を侮辱すれば気が済むんだ……!……いいだろう。そっちがその気なら、やってやるよ……!


俺はその無防備な腹に向け、拳を連続で叩き込む。今まで、あらゆるものを破壊してきた最強の一撃。それが、全く効いていない。

〔……もういいじゃろう。お主も人間にしては強かったが……相手が悪かったの。〕


その声を最後に、俺の頭は胴体から切り離された。


── アメリカチーム、第二十階層にて全滅。

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