実力②
ダンジョンの入り口へと転移した僕は、ドローンの投影するコメントをちらりと見る。どうやらコメントの処理とかは向こうでやってくれるみたいだ。それなら僕はいつも通りやらせてもらおうかな。僕はダンジョンに入ると、立ち止まって意識を集中する。
〈ん?いきなり立ち止まって何してんの?〉
〈やっぱりできないのか〉
そしてフロア全体に僕の魔力の波を広げ、次のフロアへの道を探す。
「……繋がった。」
僕はここから次のフロアまでのルートを把握すると、そこまでの魔力を“形質転換"で1本の糸にする。そして自分の周りの重力を操作し、糸に従いながら一気にダンジョンを落ちていく。
〈うお!〉
〈はっっや!〉
〈どうなってんだこの速度!〉
僕は落ちつつも、どんどん糸を巻き取るイメージで引き寄せていく。この終点は固定したから、僕の速度はどんどん上がっていく。
〈飛んでる……いや、落ちてる?〉
〈速すぎ!〉
〈酔うってこれ〉
─── あ、10mくらい先にモンスターの反応。数は……3つ。僕はそのまま落ちていく。すると僕の視界に、3体のゴブリンの姿が入る。
〈あれってゴブリン?〉
〈いや……あれは上位種のゴブリンソルジャー2体とゴブリンメイジだ!〉
〈それって確かCランクでも
僕はすれ違いざまにゴブリン達の首もとにに対し刃のように薄くした魔力を出すと、これまた"形質転換"でゴブリン達の首を斬り飛ばす。
── これなら刃は見えないし、この勢いを殺さずに処理できるから便利なんだよなぁ。
〈今何した!?〉
〈何もしてないのに奴らの首が飛んだぞ!?〉
〈どうやって!?〉
〈てかドロップは……拾わないのね〉
〈なんかこの感じ『桜ダンジョンの精霊』に似てんな〉
〈たしかに〉
〈でも流石に別人でしょ〉
と、そんな感じでコメント欄が盛り上がっているうちに、僕は第一階層から第二階層へ続く階段に辿り着く。
〈あ、階段〉
〈もうついたのか!?〉
〈もうこれRTAだろ〉
僕は階段を降り、再び魔力を広げる。そしてまたさっきと同じように落ちていく。
── 確か事前にもらってる情報だとこのダンジョンは第三階層がボスフロアになってるらしいから、実質的にこの階層を越えれば今回の依頼はクリアかな。唯一の懸念はコアを破壊するときに出てくるモンスターだけど、流石にこの規模じゃそこまで強いのは出ないかな。
と、言うことで到着しましたボスフロア。50m四方くらいの正方形の部屋の中心に、淡く光り輝く球体が浮かんでいる。
〈ついにボス戦か〉
〈でも確か、ダンジョンコアを壊そうとすると異常な強さのモンスターが出てくるんじゃなかったっけ?〉
〈少なくとも学校だとそう習ったな〉
ただ、その前に……。僕はそのコアの前に鎮座している半透明の流動体を見る。まずはこいつを片付けないと。
〈まずはボス戦か〉
〈これは……ビッグスライムか〉
〈物理攻撃が通りにくいやつだな〉
こいつ、斬ろうとしてもなかなか斬れないんだよなぁ。だから僕はさっきも使った重力魔法を発動し、その巨体を押しつぶす。周囲にその体の破片が飛び散り、部屋は沈黙に包まれる。
〈!?〉
〈特に何か武器を使った感じはなかったけど……〉
〈もしかして魔法?〉
〈だとしたら何属性だ?〉
〈押しつぶしてた感じだし、風……か?〉
一撃で巨体を押しつぶした僕は、そのままコアの方へと歩いて行く。そしてコアに手を触れると、そのまま魔力を流す。
── その瞬間、空気が変わる。ボスを討伐した後の穏やかな空気から一転、一気に威圧感のあるものになる。それはドローンのカメラを通じ、視聴者達へと届けられる。
〈何だ!?〉
〈空気が……変わった……!〉
〈何か来る……!〉
やがて僕の目の前に、1つの小さな黒いもやが出現する。それはどんどんと巨大化し、部屋の6割くらいのところまで大きくなると、その中からとあるモンスターが姿を見せる。
〈何だ?〉
〈あの姿……どこかで見たことが……〉
〈いやいや、まさか……〉
── なるほど、やけにでかい部屋だと思ったら、こいつが出るからだったのか。僕はもやの中から現れた"そいつ"を見て、納得する。
深紅の鱗に覆われたその屈強な身体は、見るものに大きな威圧感を与える。その口に並ぶ牙とそこから漏れ出る炎。ダンジョンが出来る前、一大ブームを巻き起こしていた某ゲームや様々な小説で、強大な敵として立ちはだかる存在。それが今、僕の目の前に現れる。
〈あれは……まさか……!〉
大きく翼を広げたそれは、大きく吠える。
「グオオオオォォォォォオオ!!」
〈間違いない!あれは……ドラゴンだ!〉
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