実力①
── ミア 視点 ──
「 ── という風に、ダンジョンの最深部には『ダンジョンコア』というものがあり、これに触れることでダンジョンの踏破となります。このダンジョンコアは文字通りダンジョンの核だと考えられており、これを破壊するとダンジョンが崩壊すると言われています。しかしコアは非常に硬いのに加え、破壊しようとすると周囲から異常な強さのモンスターが出現することが知られており、過去に破壊が確認されているのは現役Sランク冒険者である桜木ノアさんの破壊した西ケ谷ダンジョンだけとなっています。」
私はそんな授業を聞きつつ、ふと右前の席を見る。そこにはいつもいる、クラスメイトの佐倉優君の席だ。ただ今日はそこは空席となっている。
彼は不思議な人だ。いつのまにか現れたかと思えば、いつのまにかいなくなっている。いつもフードを被っているから誰もその顔を覚えていないし、彼に聞いても見せたくないの一点張り。それでも誰かが困っていたら自分から動く、そんな人だ。そんな彼がいないのは、少し違和感を感じる。
── 個人的な用事で休むって言ってたらしいけど、どんな用事なんだろう?……まあ、個人のことにはあまり踏み込みすぎない方がいいよね。そう考えた私は気分を切り替え、再び授業に集中するのだった。
── 桜 視点 ──
「ダンジョンコアの破壊ですか。正直面倒ですが……。ちなみにどこのダンジョンですか?」
「ここからそこまで遠くないところにできた、新しいダンジョンだ。便宜上練馬ダンジョンと呼んでいるが、ここは魔法による調査であまり旨味のないダンジョンだと分かった。あの辺りは一般人も多く住んでいるから、そのままにしておくわけにもいかんくてな。」
「わかりました。で、向かうのは僕たち2人ですか?」
「いや、桜1人で大丈夫だろう。」
「あれ?じゃあなんで私も呼ばれたんですか?」
と、これまで聞きに徹していた雪が聞く。
「ああ、雪にはこっちの手伝いをしてもらいたいんだ。」
一条さんはそう言うと、どこか見覚えのあるようなドローンを取り出す。
「ところで桜、おまえ、ほとんど表立った活躍しとらんだろ。そのせいで、本当にお前がSランクに相応しいのか疑ってくるやつが多くてな。ちょっとこの破壊の様子、配信してくれ。」
「は!?いやですよ!」
「とは言ってもなぁ……。正直、これが一番手っ取り早いんだわ。それに、おまえさんが舐められてると推薦した俺らの評価にも響くんだわ。この一回だけでいいから、な。頼む。」
彼はそう言って頭を下げる。
「はぁ……。ここまでされちゃ断れないですよ……。……わかりました。この1回だけですよ。」
「そうか!なら……。」
一条さんはドローンを操作すると、いきなり配信を始める。
〈何だ?〉
〈ダンジョン庁が配信なんて珍しいな〉
〈何かの発表か?〉
〈てか『氷姫』ユキいるじゃん!〉
突然の配信に、続々と人が集まってくる。
〈それに、後ろにいるのってSランクのサクラじゃない?〉
〈あの正体不明の?〉
「突然の配信だったが、こうして集まってくれてありがとう。」
一条さんがカメラに向かって話す。
「今日配信したのは他でもない、サクラの実力をはっきりと示すためだ。最近、彼がSランクに相応しくないとかいるやつが多いから、誰にでもわかる形で実力を見せてもらおうと思ってな。」
〈マジか!〉
〈ついに彼の実力が明らかに……!〉
〈どうせそんな強くないでしょ〉
〈で、結局何やるの?〉
「やってもらうことはただ1つ。最近発生した練馬ダンジョンのダンジョンコアの破壊をしてもらう。」
そう一条さんが告げた瞬間、コメント欄は一気に盛り上がる。
〈嘘だろ!〉
〈そんなことできるのか?〉
〈ダンジョンコアの破壊って確か今までに例は1回しかないはずじゃ……〉
そんなコメント欄を見て、一条さんは満足そうに笑うと、こう言う。
「まあ、そんなこと言っても実際に見てみないことには信じられないわな。サクラ。」
彼がこちらを向き、小さな結晶を二つ渡してくる。
「これが練馬ダンジョンへ飛ぶことができる転移結晶だ。一応帰りの分も渡しておく。使い方はわかるな?」
僕が頷いたのを見、彼は言う。
「私たちはこっちで実況をすることになっている。彼は無口だが、その分私たちが盛り上げるから許してほしい。それじゃあサクラ、行ってこい!」
その声を聞いた僕は転移結晶を破壊し、ドローンと一緒にダンジョンへと転移した。
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