第7話: 協力者の条件
「話を聞かせてもらうわ。」
新たに仲間に加わったユナが椅子に腰掛け、腕を組む。翔は彼女を一瞥しながら、慎重に尋ねた。
「条件って言ってたけど、何をしようとしてるんだ?」
ユナは少し間を置き、静かな声で答えた。
「私が知っているのは、ザイム心理教が計画の一環として“実験施設”を運用しているってこと。そこには、私の家族――両親と弟が囚われている。」
翔は思わず息を飲んだ。
「家族が……囚われてるのか。」
「そう。彼らを救い出すのが私の目的よ。」
ユナの瞳は悲しみと怒りが入り混じった強い光を放っていた。その表情を見て、翔は言葉を失う。
「でも、一人じゃ無理なのは分かってる。だからあんたたちの力を借りたいの。もちろん、協力する見返りに、ザイム心理教の内部情報を提供する。」
ルーメンが淡々とユナを見つめ、解析済みのデータを表示する。
「ユナさんが言う“実験施設”の位置を確認しました。ザイム心理教の中でも高度なセキュリティが施されている場所の一つです。」
「そんなところにどうやって潜り込むんだ?」
翔が焦り気味に言うと、ユナが鋭い視線を向けた。
「潜り込む手段を考えるのが、あんたたちの仕事でしょ?」
作戦会議
データセンターの一室に集まった翔、ルーメン、カイリ、そしてユナ。彼らはルーメンが解析した実験施設の構造データをモニターに映しながら作戦を練り始めた。
「この施設は地下に大きなラボがある。上の階層は表向きのオフィスで、実験の痕跡を隠している。」
ルーメンが施設の見取り図を指し示しながら説明する。
「地下に直接侵入するのは難しいため、まずオフィス階層に入り込んで情報を収集し、セキュリティを無効化する必要があります。」
「でも、そんなの簡単にできるのか?」
翔が不安げに尋ねると、カイリが軽く肩をすくめた。
「簡単じゃないさ。けど、俺たちはそれをやらなきゃならない。」
ユナが地図を指しながら提案する。
「この部分――搬入エリアを使えば、外部の荷物に紛れ込んで中に入れるかもしれない。」
「荷物に紛れる……か。映画みたいだな。」
翔は半ば呆れたように言ったが、カイリが鋭い口調で言い返す。
「呆れてる場合じゃないぞ、坊主。ユナが情報を提供してくれる以上、俺たちはそれを最大限活用するしかない。」
翔は黙り込み、ユナに目を向けた。
「本当に家族を助けたいんだな。」
ユナは短く頷く。その覚悟を感じ取り、翔もまた小さく頷いた。
「分かった。俺たちも全力で協力する。」
潜入作戦の準備
作戦が決まった以上、翔たちは細部の準備を進めることになった。ルーメンはザイム心理教の警備システムに干渉するためのプログラムを作成し、ユナは搬入エリアの監視パターンを分析する。
翔はそんな彼女たちの働きを眺めながら、自分にできることが少ないことに苛立ちを覚えていた。
「俺……本当に役に立てるのか?」
その声に気づいたカイリが笑いながら肩を叩いた。
「安心しろよ、坊主。お前みたいな初心者でも、やるべきことはちゃんとある。」
「やるべきことって、何だよ?」
「突入する時の“囮”だ。」
翔は思わず目を見開いた。
「囮だって!? ふざけんなよ!」
カイリは笑みを浮かべながら言葉を続ける。
「お前みたいな目立たない奴が、意外とこういう役目に向いてるんだ。まあ、死なない程度にはサポートしてやるから安心しろ。」
翔は納得できない様子だったが、ルーメンが冷静にフォローする。
「翔さん、囮役は重要な役割です。それがなければ作戦は成功しません。」
翔はため息をつきながらも頷いた。
「……分かったよ。やればいいんだろ、やれば。」
潜入の夜
作戦決行の日、翔たちは深夜の搬入エリアへ向かった。周囲は静まり返っており、警備員たちが機械的に巡回している。
ルーメンが静かに指示を出す。
「現在、搬入エリアの警備員は2名。ドローン監視もあります。翔さん、搬入口に近づき、注意を引きつけてください。」
翔は緊張で喉が乾くのを感じながら、物陰から静かに出て行った。
「……こんなの、どうなるんだよ。」
小声でつぶやきながら、意を決して拾った金属片を遠くに投げる。
カシャーン!
音に反応した警備員たちがそちらに目を向けた隙に、ユナとカイリが無人のトラックに乗り込む。ルーメンも機敏に動き、ドローンのカメラを一時的に無効化する。
翔は自分の役割を果たしたことに安堵しながら、物陰に隠れて仲間たちの行動を見守った。
次回予告
無事に実験施設への潜入に成功した翔たち。だが、施設内にはザイム心理教が隠していたさらなる秘密が待ち受けていた。翔たちは家族を救うことができるのか――そして、ザイム心理教の実験の真相とは何なのか。
次回、第8話「閉ざされたラボの真実」。
翔たちがユナの家族を救うための作戦を練り、行動に移す展開を描きました。次回は、実験施設での新たな発見と衝撃的な真実が明らかになるエピソードに進めます。
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