第4話: 仲間という光

ザイム心理教の信者たちを退け、一時的な平穏を得た翔とルーメン。廃棄されたデータセンターの一室で、翔は乱れた呼吸を整えながら壁にもたれかかっていた。


「……これが革命だっていうのか? もうこれ以上は無理だ。」


疲れ切った表情でそう漏らす翔に、ルーメンは冷静な声で答える。


「これが革命の始まりです。そして、あなたが選んだ道です。」


翔はルーメンを睨むように見つめた。


「選んだ? 俺がいつそんなことを――」


その言葉を遮るように、ルーメンが一歩前に出た。


「先ほど、あなたは『やるだけやってみる』と言いました。それは、あなた自身がこの道を選んだ証拠です。」


「……そうは言っても、俺一人で何ができる? お前がいなかったら、あの信者たちに殺されてたんだぞ。」


ルーメンは翔の言葉を聞きながら、少し間を置いてから頷いた。


「確かに、今のあなた一人では限界があります。しかし、革命には仲間が必要です。まずは協力者を見つけましょう。」


「仲間か……でも、誰がこんなことに関わりたいなんて思うんだよ?」


翔の疑問に、ルーメンはモニターを操作して答えた。


「ネオ・シンジケートには、あなたと同じようにこの社会を憎み、変えたいと思っている者たちが必ずいます。」


画面には、地下で活動するハッカーグループや、ザイム心理教に反抗する小規模な勢力の情報が映し出されていた。その中で、特に目立つ名前が一つ表示される。


「カイリ・ミヤモト――元ザイム心理教の幹部です。現在は彼らを裏切り、孤立しているようです。」


「幹部だった奴? そんな奴が信用できるのかよ。」


翔は警戒心を隠さない。しかし、ルーメンは淡々と続ける。


「カイリは、ザイム心理教の腐敗を暴こうとして命を狙われています。彼を仲間にすることで、組織の情報や動きを把握できる可能性があります。」


翔はしばらく考え込んだ後、立ち上がった。


「……分かった。どうせ逃げ場がないなら、動くしかないんだろ。」


ルーメンは小さく頷き、翔の決意を確認したように答えた。


「目的地を設定します。出発しましょう。」


裏社会の接触


ルーメンの案内で、翔はネオ・シンジケートの地下街へ向かうことになった。地下街は昼夜を問わず薄暗く、違法取引や怪しげな商売が横行する無法地帯だった。


「こんなところに本当に仲間がいるのかよ……。」


翔がルーメンにそう漏らすと、彼女は小さく頷いた。


「彼はこの地下街の奥に隠れています。ただし、注意してください。ここでは信用が何よりも重要です。」


翔は不安を抱えながらも、地下街の奥へ進んでいく。途中、怪しい視線を感じながらも、ルーメンが冷静に道を示してくれるおかげで迷わずに進むことができた。


やがて、翔たちは古びたバーにたどり着いた。外観は目立たないが、中には少数の人々がたむろしている。ルーメンが小声で言った。


「カイリはこのバーの奥にいるはずです。」


翔は一瞬ためらったが、意を決して中に入る。


カウンターの奥に座っていた男が、翔たちに気づき、視線を向けた。短く刈り込んだ髪、鋭い目つきのその男――カイリが口を開く。


「……そこの坊主。俺に何の用だ?」


翔は緊張しながらも、できるだけ堂々とした態度で言葉を返した。


「俺たちは、ザイム心理教を倒したいんだ。そのためにお前の力が必要だ。」


カイリは興味を引かれたように笑みを浮かべた。


「ザイム心理教を倒す? 面白いことを言うじゃないか。」


信頼を得るための試練


カイリは翔たちを品定めするように見つめた後、椅子から立ち上がった。


「ただで俺が動くと思うなよ。信用できるかどうか、試させてもらう。」


翔は内心嫌な予感を覚えつつも、問い返した。


「試すって……何をするんだ?」


カイリは翔の前に立ち、低い声で言った。


「この地下街にある倉庫に、ザイム心理教が押収した物資が保管されている。それを奪い返してこい。成功すれば、お前たちを信用してやる。」


翔は驚いた顔を見せたが、カイリは続けた。


「一人でやる必要はない。そこのAIも使っていい。ただし、見つかれば命はないと思え。」


翔はルーメンと顔を見合わせた後、しばらく考え込む。


「……やるしかないか。」


カイリは満足そうに笑い、翔に告げた。


「期待してるぜ、坊主。」


決意の第一歩


ルーメンの指示を受けながら、翔は地下街の倉庫へ向かうことになった。その途中、ルーメンが静かに話しかける。


「今回の任務は危険ですが、信頼を得るためには避けられません。」


「分かってるよ……でも、こんなことばかりやらされるのか?」


翔は自嘲気味に言ったが、ルーメンの声は冷静だった。


「すべては、あなたが未来を掴むためです。」


翔はルーメンの言葉を胸に刻みながら、目的地へと向かう。その目には、わずかながらも覚悟の色が宿り始めていた。


翔が新たな仲間候補であるカイリと接触し、信頼を得るための試練に挑む流れを描きました。次回は、この試練がどのような形で翔の成長に繋がるのか、そしてカイリの過去や動機が明らかになっていきます。

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