第2話
空の真上へ昇った太陽が村の中を走り回る子供たちを照りつける。
元気が良いのは分かるが、あんなに動きまわって暑くはないのだろうか。昔は僕も外で遊ぶのが好きだったけど、今となっては大人しく家でのんびりしている方がずっといい。
僕は開けっ放しにされている窓から子供たちを眺めながら、家に遊びに来ている女の子の方へ振り向いた。
「シルたち元気だね。暑くないのかな?」
「絶対暑いわよ……。後で着替え用意しなきゃ」
口に出してた僕の疑問に綺麗な顔をしかめっ面にさせて答えるのは、赤ちゃんの頃からの幼馴染であるエレナ・フレイヤだ。外で村の子供たちを引き連れて走り回っている少年、シル・フレイヤのお姉ちゃんでもある。
彼女は丁寧に手入れをされた滑らかなダークブロンドの髪に、綺麗な湖のように透き通った碧眼、村の誰もが美人と認める程に整った容姿をしている女の子。そして僕の初恋相手……なんだけど去年お互いの両親に認められて晴れて婚約者になりました!
まぁ幼い頃からの付き合いだったし、長いこと一緒に過ごしていく内に自然とお互いに……ね?
ただ歳の近い男の子からエレナとは釣り合わないってよく言われる。エレナは気にするなっ言ってくれるけど、そんなことは自分が1番分かってるんだ。
僕、サイレス・イルスターは見た目も能力も平凡な人間なのだから。
「そろそろ昼ご飯じゃない?戻らないの?」
「うーん、もう少しサイレスと居たいかな……なんて」
「エレナ……!大好き」
「もうっ……!」
でもエレナはそんな平凡な僕と一緒に居てくれる。大好きって伝えたら照れてくれる。楽しいことがあったら一緒に笑ってくれる。
そんな所に僕はどうしようもないくらいに惹かれてしまったんだろうね。
「……エレナってさ」
「うん?」
「なんか、凄く良いよね……」
「何よ?私の体?誘うなら夜にしなさいよ」
思わず口からポロッと漏れ出た言葉が原因とはいえ、彼女はなんてことを口走るのか。
いや確かにエレナの体は魅力的だけどさ。
僕が言いたいのはそうゆう外面的なことじゃなくて……。
「――!違うよ!……なんて言うのかな、性格って言うか、エレナの全部が好きだなってなるって言うか……」
「……サイレスって小っ恥ずかしいことも平然と言うわね。そういうところが好きになったんだけどさ……手加減してよね」
「あ、ありがとう……。なんか照れるや」
「サイレスが始めた話でしょうに。もうっ!」
自分から伝えるのは平気なのに、面と向かって好きになった理由を言われるのは恥ずかしい。何でだろう。
お互いに好きを伝えて照れている状況がおかしくてプッと吹き出すと、エレナも一緒に笑っていた。
「おーい!エレナの嬢ちゃん、イチャついてたとこ悪いんだが村長が呼んでたぞ!」
「――!?親父!イ、イチャついてないって!」
「あっ、お義父さん!お邪魔してます。父が私を?」
2人で笑いあってるところに水を差してきたのは、大柄で筋骨隆々のゴリラみたいな男だ。
このゴリラもとい僕の父親はグレイス・イルスターと言い、元々開拓村であったロラント村を開拓時代から支えている農夫の1人である。エレナの父である村長とはその当時からの付き合いらしく、お互いの子供は絶対に仲良くさせようと思っていたのだとか。
それにしてもエレナに用事って何だろう?
「おう、多分昼飯だと思うけどな?」
「あー、分かりました。すぐに行きます。サイレス、また後でね」
「うん、また後で」
昼飯ならしょうがない。ていうか僕もお腹空いてきてたからね。
エレナを玄関まで見送り軽く手を振って別れた後、僕はその場に座り込んでしまった。
またすぐに会えるというのに何だか心が寂しく感じるから。でもそれを認めると親父にからかわれそうでもやもやしてしまう。
親父は例え息子でも遠慮なく煽ってくるからなぁ。
僕は膝に力を入れ立ち上がると昼食を取るために、親父のいるリビングへ向かった。
§
ここはアルシュタイン王国北西部にある辺境の村、ロラント村だ。
俺、ドルトー・ボックはそのロラント村で猟師をやっている。もう何年も前に移住してから村唯一の猟師として森の恵を皆に分け合っているわけだ。ただ奥さんには恵まれずイルスターさんの坊主と村長の娘さんの恋路に、毎夜涙で枕を濡らしている。羨ましい。
そんな俺が住んでいるロラント村は周辺を自然に囲まれており、近くの大きな街へ行くには徒歩で2時間はかかる程のド田舎。しかも吸血鬼共の王国、クリムゾン王国と非常に近いこともあって、村長が昔の伝手で取引している商人しかやって来ないくらいには敬遠されている場所だ。
だからこそ俺は驚きを隠せないでいた。まさか街の方から人がやってくるなんて……。
「いや~、申し訳ない。少しの間こちらで休ませてもらえないだろうか?」
ソイツは俺が先日仕掛けた罠の確認で森に入っていた時に、街の方角からふらりと現れた。
所々汚れている白いフードを被っているが、特徴的な赤い瞳にあの村長の娘にも劣らない程の整った顔立ち、スラリと細長いスタイルをしている男だ。パッと見ただけなら爽やかな印象の旅人という感じであるが、その佇まいからは高貴が感じられた。それこそ貴族のような。
加えて中に着ている服装も、動きやすい物だが鮮やかな染色や細かな所まで装飾が施されているのを見るに相当な高級品だろう。
もしかしたら本当に貴族様なんじゃないか。
そんな予感が俺の頭によぎるが、まずは身元の確認と村長に知らせることだな。
「あー、ウチの村で休めるかどうか村長に確認するから、俺に付いてきてくれないか?多分商人のための客室が村長の家にあったはずだから」
「おぉ、助かります。結構歩いてきたのでもうヘトヘトなんですよ~」
手でパタパタと顔を仰ぐ彼はそのビジュアルも相まって非常に絵になっている。
だが同時に俺は彼に対して些細な違和感を感じていた。それが何なのかは分からないが、喉に骨が刺さったような感覚を逃してはならない。
森で生きてきた直感のようなものだが俺はそれを非常に大切にしていた。
「それじゃあ行こうか、ロラント村に!あ、そういえば名前はなんて言うんだ?俺はドルトー・ボック、猟師をやっている」
「僕はクレイユ。クレイユ・ルギナだ。よろしくね、ドルトーさん」
軽い握手を交わした後にクレイユが浮かべた笑みは、男の俺でも惚れてしまいそうな魔力があった…………と思う。
さすがに男相手にキュンとする程、童貞拗らせてないっての。…………ツンデレジャナイヨ。
次の更新予定
血の宴 烏鷺瓏 @uroron
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