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 レイトン姉妹は40代後半の姉妹だ。姉がジェーンで妹がマリア。どちらも独身で一緒に暮らしている。二人とも化石が好きで、収集の趣味がある。専門家ではないけれど、知識もあり、二人の家にはときに大学の教授なども訪れる。


 アニーはレイトン姉妹と親しくしていた。姉妹はアニーに目をかけてくれ、ベイカー化石店からしばしば化石を買い、アニーに化石の知識を授けてくれた。父親と、それからレイトン姉妹。彼らから、アニーは化石の様々なことを教えられたのだ。


 アニーの足元からアモンがひょっこり現れた。シリルはたちまち笑顔になり、しゃがみ込んでアモンをなでた。


「かわいい犬だね。君の飼ってる犬?」


 シリルが笑顔で尋ね、つられてアニーも笑顔になった。


「そうよ」

「なんて名前?」

「アモン」


 シリルは犬が好きなようだった。アモンの耳の後ろをなで、アモンも嬉しそうだ。


「アモン……アンモナイトと何か関係があるの?」


 アニーはシリルに対してさらに関心が出てきた。この人、化石が好きなのかしら。シリルの問いに、アニーは勢い込んで答えた。


「アモンって外国の神様の名前なの。頭に羊の角がついてるんですって。アンモナイトも、ほら羊の角みたいなうずまきでしょ、だからアモンから名前をとってアンモナイトと呼ばれるようになったの。アンモナイトのこと、知ってるの?」

「それがどういうものか、化石を見たことはあるよ。でも詳しくは知らない。僕はあまり化石の知識はないんだよ」


 そう言って、シリルは立ち上がった。アニーは近くで、真っ正面からシリルを見た。整った顔立ちは明るく、苦労もなく幸せに生きているのだろうと思わせる。背はあまり高くなく、アニーと同じくらいだった。


「空き家になってたお屋敷に越してきた人でしょ?」


 アニーが確認のため尋ねた。シリルが答える。


「そうだよ」

「それで……引っ越しの挨拶にレイトン姉妹のところに行ったの? そこであたしの話を聞いたの?」

「その通り」


 シリルは笑った。笑顔は華やかで魅力的だった。シリルはアニーを見つめて言った。


「レイトンさんの家にはたくさんの化石があってね、僕らはいろんなものを見せてもらって――ここで取れた化石もたくさんあるって言ってた。僕が、あなたたちが取ってきたんですか? って訊いたら笑って、それも少しあるけれど、多くはベイカー化石店から買ったものだって。ベイカー化石店にはあなたくらいの年の女の子がいて、優秀な化石ハンターなんだって言ってた」

「ふぅん」


「優秀」と言われると、ちょっとこそばゆい。アニーはやや照れながら、それを表に出さないように努めた。


「それで僕はたちまちその女の子とやらに興味を持ったわけだよ。ここは素敵なところだけど――まあ田舎だし、退屈なところであるような気もして。あ、僕はずっとここにいるわけでなくて、普段は寄宿学校にいるから学校が始まればそこに帰るんだけど。今は長期休暇中で」


 シリルはおしゃべりなタイプのようだった。訊かれてもいないことをよくしゃべる。アニーが黙っていると、シリルはさらに言葉を続けた。


「それでさ、休みの間に一緒に遊んだりできる友達が欲しいと思って。僕と友達にならない?」

「い、いいけど」


 突然の申し出にアニーはとまどい、少し遅れて承諾した。シリルはにこっと笑った。


「よかった。君を探してたんだよ。レイトンさんは、海岸に行けば君に会えるって言ってた。崖の近くで化石を探してる、って。そしたらほんとにそこにいた。君は働き者なんだねえ」

「そうなのよ」


 アニーははたと我に返った。シリルは「一緒に遊んだりできる友達が欲しい」と言ってるけど、あたしは仕事があるから暇じゃない。そもそも、お金持ちの少年と、一体何をして遊ぶというの?


「申し訳ないんだけど……」アニーはシリルに言った。「あたしは忙しいの」お金持ちのあなたとは違って、と言う言葉をアニーはぐっと飲み込んだ。「だからね、あまり遊んだりできないかも……」


「それは残念!」シリルは大げさに肩をすくめた。「でも僕は君の化石採集に興味があるのさ。それについていくのは構わない?」


「うん、それは別に……」


 アモンがもう一匹増えたと思えばいいのかな。アニーは考えた。でも、シリルは人間だし、そんなふうに考えるのは失礼だろう。


「僕の姉さんも来ると思うよ。あ、今日は別のところに出かけてるけど、また違う日にね。姉さんも化石が好きなんだ」

「そうなの?」


 アニーはがぜん興味が出てきた。昨夜の、兄との会話を思い出す。もし、引っ越してきたお金持ちの人たちが化石好きなら。我が店でたくさんお金を使ってくれるかもしれない!

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