1-2
「あたしは……ね」アニーが口を開く。「あたしは……あたしもそうね。サラと似てるかも。あたしもここにいるの。化石を取って、そしてそれを店で売る」
「二人ともつまんなわいわね!」
ベッキーが大げさに落胆してみせた。アニーははしゃいで、サラの腕を取ると自分のほうへ引き寄せた。
「あたしたち、ずっとここで仲良くしてましょうね!」
わざとらしくアニーが言うと、サラは頬をふくらませた。
「仲間外れにしないでちょうだい。私だってたまにはここに帰ってくるんですからね」
サラも笑い、まぶしそうにアニーを見た。
「あの店を守っていくのはいいことだと思うわ! あの店、とても素敵だもの! 魔法の物語に出てくるようなものがたくさんあるの!」
「化石ね」
アニーが言う。たしかにうちの店は立派な品がそろっていると思う。たくさんの化石たち。アンモナイトにウミユリ、ウニにベレムナイト。それから魚やワニの化石も。
「ドラゴンの骨もあるんでしょう?」
目を輝かせるサラにアニーは答えた。
「ワニね」
「アニー、あなたって、ドラゴンみたいだわ」
突然のサラの一言にアニーはとまどった。
「ドラゴンみたい、って、どういうこと?」
「ほら、ドラゴンは山にある自分の巣にたくさんの宝物を隠してるって言うでしょ? ドラゴンは宝物の上に住んでるの。アニー、あなたもまたたくさんの不思議な宝物に囲まれて……それってドラゴンみたい」
夢見がちなサラの言葉にアニーは苦笑いした。
「そうね。じゃあまた今日も宝物を集めに行かなきゃ」
「ところで、噂の空き家に昨日人が越してきたの知ってる?」
ベッキーが突然、話題を変えた。空き家。アニーの家の近くにお屋敷がある。ずっと人が住んでいなかったけれど、ここ何日か馬車で荷物が運び込まれていたのだ。それはアニーも目撃したことがある。
「兄さんも言ってたわ、昨日の夕飯の時」アニーは言った。「兄さんはまだ見たわけじゃないけど、聞いた話だと、四人家族とかって」
「私は見たわ。ちらっとだけど」自慢そうにベッキーが言った。「両親と子ども二人よ。20歳くらいの女性と、私たちと同い年くらいの少年。きれいな顔をした少年だった」
ベッキーはくすっと笑った。アニーは意味ありげにまばたきし、ベッキーに尋ねる。
「彼らはお金持ちなのよね?」
「そうよ。お屋敷に住めるくらいだもの。着ている服も立派なものだった」
「じゃあ……その少年がベッキーの未来の伴侶ってこと?」
「つまんないこと言わないでよ」
ベッキーはそう言って、つんと頭をそらした。
――――
ベッキーたちと別れ、アニーは海を目指した。観光客でにぎわう浜辺を抜けて、向かうはその先。高い崖が続く場所だ。
崖はどこまでも続く。潮が引くと、崖と海の間にわずかな陸地が現れる。そこを歩いて、アニーは化石を探すのだ。
この崖は特別な崖。アニーとその一家は思っている。この崖の中には遠い過去が隠れているのだ。
この崖の中に、昔の、遠い昔遥かな過去に存在していた生き物たちの痕跡が残されている。彼らの骨や殻は、石と化し崖の中に埋まっているのだ。
たまに崖から石などが落ちる。アニーたちはそれを拾い、中身を取りだし、人々に売って生活をしてきたのだ。
アニーの父親は家具職人だった。そして仕事の傍ら、化石を採集して売り、それを子どもたちに手伝わせた。おかげでアニーも、その兄であるジョンも、今ではなかなかの採集者だ。
父親は2年ほど前に死んでしまった。病気だった。家はたちまち貧しくなり、まだ家具職人の見習いであるジョンの稼ぎだけでは生活が厳しく、アニーの学費も払えなくなり、アニーは学校をやめて化石の採集と販売に専念することになったのだ。
学校をやめなければならなかったのは悲しかったけど……とアニーは思う。でも読み書きとか算数とか大体のことはもう教わっていたし、それに私は家族を助けたかったし――そもそも化石採集が好きなんだもの。
アニーは足元を見て海岸を歩いていく。それから崖も。この崖。アニーは自分の横にどこまでも続く崖を見上げた。私たちにお金をもたらしてくれて、そして、過去の秘密を閉じ込めた、すてきで偉大な崖。
秘密。そう秘密があるのだ。アニーの一家は今とある秘密を抱えている。それはこの崖に関係あること。いつかは明らかになり、私たちに幸せをもたらしてくれる秘密。でも、それはまだ先のことになりそうね。アニーは崖の一カ所を見て、そして心の中でほほえんだ。
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