第11話

3台あるエレベーターは、どれも行ってしまったばかりだったから、同じようにエレベーターを待つ人に混じって、ドアが開くのを待った。


しばらくして、下方向のボタンが点灯し、ドアがゆっくりと開くと、降りて来る人のためにみんなが横へ避けた。

乗っていた人が全員降りると、今度は早く並んでいた人から順番に乗り始める。

自分の番がきて、エレベーターに乗る寸前、一度だけ振り返った。


その時、少し離れたところで、人の波を縫うように誰かを探し回る人が目に入った。


あ……と思った瞬間、その人と目が合った。



「すみません」



気がついたら、エレベーターに乗る人たちの間をすり抜け、その人のところへ駆け寄っていた。

わたしが近づくと、小島さんは目を細めて安堵の表情を見せた。



「良かっ……た。誘っといて……遅れるとかナシだよね……ごめん」


「いえ……」


「これっ」



小さな紙を渡された。

何かと思ったら、電車が遅れた時に発行される遅延証明。

小島さんを見ると、一生懸命息を整えている。



「どうして息をきらしてるの?」


「え? ああ……エレベーター……なかなか……乗れそうになくて……階段……走ったから」


「ここ4Fなのに走ったの? 遅れるって連絡くれれば良かったのに」


「これ」



次に見せられたのはスマホ。



「充電切れてた」


「いいもの持ってるから、あっちに座りませんか?」



2人で空いているソファに座り、小さなペットボトルの水を渡すと「いいの?」と言われ、頷いた。

小島さんはすぐにキャプを開けると、水を一気に飲み干した。



「ありがとう」


「少し早めに来たら、ビルの前でイベントやってて、抽選引いたらそのペットボトルが当たったんです。映画館は持ち込み禁止だし、カバンには入らないから、どうしようかと思ってたので役に立って良かった」


「これ、運命だ」


「何が?」


「オレの欲しいものを菜々子ちゃんが持ってた」


「こんなの運命だなんて言わないと思うけど?」


「こじつけでも何でもいいんだ。運命感じてよ」


「かるーい」


「これもダメだった?」


「だめだめですね」



また、しょんぼりした顔をされた。



「電車、乗ってる時に止まったから、降りることもできなかったんだ。スマホはこんな時に限って充電がないし。待っててくれてありがとう」


「待ち合わせに遅れたからって、遅延証明渡されたのは初めて」


「菜々子ちゃんの記憶に残れて嬉しい」



小島さんの、わたしを見る目が優しくて、下を向いてしまった。

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