第10話 落ちていく

土曜日、約束の15分前に待ち合わせの場所へ着くと、びっくりするくらい人がいっぱいだった。


もしかして、土曜の午後って、1番人が多い時間帯だった?

もっと具体的に場所を決めればよかった。

「TOYOシネマズAの前」なんてアバウトすぎた。


髪の毛を巻いて来たことも後悔した。あの時はストレートだったから、それを目印に探したら気づかないかもしれない。

そもそも小島さんはわたしがわかるんだろうか?


散々迷って、エレベーターが見える場所に立っておくことにした。

ここならエレベーターから降りて来る人がよく見える。



いつもだったら、スマホでも見て待ち時間を潰すのだけれど、下を向いていたら向こうも気づかない可能性があるから、仕方なく前を歩く人を見ていた。


自分と同じような人も結構いて、エレベーターのドアが開いた瞬間、フロアの人の多さに少しびっくりした顔をして、エレベーターを降りると同時にきょろきょろする。

そして相手を見つけられそうもないと気がつくと、スマホを手に取る。


そんな様子を何人も見ているうちに、待ち合わせの時間がやってきたけれど、小島さんは現れない。


もしかしてわたしが待っているのをどこかから見て笑ってるんじゃないかと思ったり、そんなこと小学生じゃあるまいし、と思い直したり……



約束の時間を30分ほど過ぎてから、からかわれたのかもしれないと思い始めた。

スマホにも連絡はない。

気が変わったのかもしれない、と思うと自分から連絡するのは躊躇した。

これ以上待つ気にはなれず、帰ることにした。

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