第8話
駅で別れた後、自分は「高校生」だと訂正していなかったことに気が付いた。
でも、本当に連絡してくるかどうかなんてわからない。
お酒を飲んでるみたいだったし、酔いが覚めて冷静になったら鼻で笑われておしまいかもしれない。
だから、まぁいいか、くらいに軽く捉えることにした。
電車に乗ると空いている席を探して座り、自分の服装を改めて見なおした。
高校の制服を着ていないわたしは女子大生に見えるんだろうか?
年齢を言うと驚かれたことは2回や3回じゃないから、全くの他人から見れば実年齢より上に見えるのかもしれない。
降りる駅まではまだ時間がある。
カバンからスマホを取り出そうとしたところでメッセージを受信する音がした。
ドキドキしながら画面を見ると、心春からだった。
<一人750円になったよ>
すぐにお金を送金して、アプリを開かないまま「送ったよ」と返信した。
それと同時に、またメッセージを受信した。
まだ何かあるのかな?
画面に表示されていたのは見たことのないアイコンだったけれど、IDはさっき交換したばかりのもの。
メッセージが表示されていないってことはスタンプだ。
メッセージアプリを開くと、目を潤ませたうさぎの絵に「また会いたいです」と書かれていた。
社会人の人でもこんなの使うんだ。
うっかり既読をつけてしまったから、返事をしないとスルーしたと思われてしまう。
それは、ちょとだけ嫌。
でも、なんて返そう?
悩んでいたら、続けてメッセージが届いた。
<いつが暇?>
「聞かれたことに答えにくい時は、聞かれたことをそのまま聞き返せばいい」って、誰かが言っていたのを思い出して、もらったメッセージと同じ言葉を返信した。
<いつが暇ですか?>
<休みは土曜と日曜>
え?
返信早いんですけど?
<同じです>
<土曜に映画はどう?>
また返信が早い。
どうしよう……
映画って、デートみたい。
<嫌だったら断って もう連絡しないから>
どうしよう……
「もう連絡しない」という言葉を寂しいと思う自分がいる。
続けて、さっきと同じうさぎの絵に「チャンスをください」と書かれたスタンプが送られてきて、それをかわいいなんて思ってしまった。
もう一度会うくらい、いいよね?
お酒を飲んでいない時に会ったら、向こうも「あれ? こんな子だった?」とか思って、そこで終わるかもしれないし。
教えたのは名前と電話番号とメッセージIDだけだから、もう一度会って、嫌だと思ったらすぐに着拒して、メッセージもブロックしてしまえばいい。
会っても自分のことを話さなければいい。
<何を観ますか?>
<苦手なのは?>
好きなものを聞かれたら考えてしまうけれど、好きじゃないものならすぐに言える。
<悲しいやつ>
<だったらそれ以外で 洋画と邦画なら?>
<洋画>
<ホラーとアクションとSFなら?>
<ホラー以外で>
さっきまで早かった返信が止まってしまった。
しばらくスマホを握りしめたまま画面をじっと見ていたけれど、いつまで待っても返信はなかった。
ホラーが好きだったのかもしれない。だから、趣味が合わないと思ってやめちゃったのかも。
あっけない終わりだった。
やっぱり、軽い人だったんだ。
だからこれで良かったんだ……
「何でもいい」って言えば良かった……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます