第7話
「実はナンパとか初めてで……」
そういうセリフも実は「手」なんじゃないかとか思ってしまう。
「また、会いたい」
どうして?
「どうして?」
初めて会ったばかりで、どうしてそんなふうに思えるの?
「……カラオケボックスの廊下で初めて見た時……と……思った」
「よく聞こえなかったんですけど?」
「あーっと……」
さっきまでわたしの顔を見て話していたのに、急に目を逸らされた。
耳……赤い……?
「えっと……二度と会えないのは嫌だと思った」
そんなこと、今までの人生で一度も言われたことがない。
同級生の男子とは全然違う。
改めてよく見ると、ちょっとかっこいい?
そんな人が自分に興味を持ってくれてることに浮かれてしまった。
「お願いしますっ」
今度は頭を下げられた。
スーツ姿も、ネクタイを緩めるしぐさも、さっきまで大人に見えたのに、下げた頭をゆっくりと上げた時の、照れくさそうな上目遣いの顔がかわいく見えた。
それでも連絡先を教えることに躊躇していると、
「そうだ、これ」
そう言ってテーブルの上に名刺を置かれ、その隣に免許証と社員証を並べられた。
「社員証と免許証は無理だけど、名刺はあげられる。これで身元が証明できると思うんだけど?」
並べられた名刺と免許証と社員証は3つとも同じ名前で、免許証と社員証の写真は、目の前に座っている人と同一人物で間違いなかった。
「いつもこんな感じなんですか?」
「いつも? 女の子に声をかけるのは初めてだけど?」
わたしの質問に不思議そうな顔をされたので、それを見て自然と笑みが溢れた。ちょっとカマをかけてみたのだけれど、本当にナンパは初めてみたいだった。
「テレビで見たやつ真似したんだけど……失敗だった、よね?」
「失敗ですね」
「もうやめます。素でいきます。連絡先教えてください」
「メッセージIDでいいですか?」
「電話番号も! 両方交換して!」
なんでそんなに必死になるの?
教えないという選択肢も、そのまま席を立つという選択肢もあった。
いくつもある分岐点で、進む道を選んだのは自分自身。
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