第9話 神託
銀狼は真っ白い空間を走っていた。
「あの魔人はどこだ?早く戦場に戻らないと。仲間達がまだ戦っているはずなんだ。」
走っても走ってもそこはただ真っ白い空間が広がっていた。
「どうしたってんだ?ここはいったいどこだ?オレは死んだのか?」
銀狼は立ち止まる。周りを見渡してもただ真っ白い空間が広がるばかり。
「いや。死んでなんかいられない。オレは戦場に戻るんだ。」
銀狼はまた走りだそうとした。その時。光の玉が目前に現れた。
『その戦場への想い、確かに受け取ったぞ。』
「なんだ?誰だ?」
『我は戦の神、戦神だ。お前の戦場への想い、我の力を与えるに値する。』
声は光の玉から発せられていた。
「戦神?神様だってのか?」
『そうだ。我は戦神。戦の神よ。お前に我が力の一部を授けよう。人間でいうところの神通力というやつだ。』
「そんなことより神様ってことはオレは死んだのか?」
『そんなこととは酷い言われようよな。安心せい。お前はまだ死んではおらん。』
「なら早くオレを戦場に戻してくれ。仲間が戦っているはずなんだ。」
『今のお前ではあの魔人には勝てん。そこで我が力の一部を貸してやろうと言うのだ。』
「オレじゃ勝てない…その神通力ってやつがあれば勝てるのか?」
『ふむ。やっと話を聞く気になったか。いいか。我が神力、つまり神通力があればお前は神に選ばれし王となる事が出来る。王化というやつだ。』
「王化?」
『そう。我が神力により王鎧を纏いて、我が力の一部を使う事が可能になる。』
「強くなれるというのか?ならその神通力をくれ!オレはあの魔人を倒さなければならないんだ。」
『まぁ。話を聞け。ただ神力を貸してやろうというわけではない。一つ頼み事があるのだ。』
「頼み事?」
『あぁ。お前は200年前の聖邪戦争を知っているか?』
「もちろんだ。神々の戦いにより地上界も人族と魔族に分かれて大規模な戦闘が行われ、神々と人族が勝利したという話だろ?」
『そうだ。その200年前に我々神が戦ったのが邪神と呼ばれる1柱の神よ。』
「邪神?」
『そう。やつは最初はとるに足らんただの下級神であった。しかし突然に巨神を滅ぼし、邪神となったのだ。』
「巨神…それは昔いたという巨人族と関りがあるのか?」
『さよう。巨神を失った巨人族はその支えを失い、魔化した。今でいう巨魔人へとなり下がったのだ。』
「巨魔人。俺が戦ったあの魔人とは別ものか?」
『あぁ。別よ。お前が戦ったあの魔人は単眼種の変異体。あの魔人は唯一の種族ということだ。』
「唯一の魔人か…。」
『話を戻そう。その聖邪戦争ではお前の知る通り、我々神々の勝利に終わった。しかし、邪神を滅ぼすには至らなかったのだ。やつは巨神を倒したことによりその神力を我が物とし、他の神々よりも強大な力を持った。そこで我々はやつを倒すのではなく亜空間へと封印することにした。そして見事にその作戦は成功し、邪神のやつを亜空間へと閉じ込めたのだ。』
「邪神は滅びてなかったのか?オレ達は200年前に邪神を打倒し神々が勝利したと聞いていたが?」
『あぁ。やつを滅ぼすことは叶わんかった。だが封印したことによりその力は完全に天界にも地上界にも影響はなくなったはずだったのだ。』
「はずだったと言うのは?」
『うむ。ここからが本題だ。その200年前の封印が弱まっているらしい。最近地上界に邪神の加護を持つ王が現れたとの報告があったのだ。』
「邪神の加護…?神通力ってやつか?」
『そうだ。亜空間に封じたはずの邪神がなんらかの力を用いて地上界にその神力を伸ばしたのだ。』
「それってどういう事なんだ亜空間ってのが地上界と繋がったと?」
『あぁ。どういう訳か邪神の神力が地上界に影響を及ぼし始めた。そしてその邪神の加護を持った王は、邪神を現世に復活させようとしておるのだ。』
「それはまた聖邪戦争が勃発する可能性があると?」
『その通り。邪神が復活すればまた聖邪戦争の二の舞となるだろう。そこで我々神々は考えたのだ。地上界にいる有望な人材に神力を与え、神徒とし、邪神復活を目論む邪神の加護持ちを打倒してもらおうと。』
「そんなことせずに神が力を振るえばいいじゃないか?」
『そうしたいのだがな。我々神々は地上界に影響を及ぼせるほど力を回復しておらんのだ。200年前の聖邪戦争により神々もまた疲弊したのだ。そこで11柱の神の力の一部を与えられた神徒達で同じく邪神の神徒を止めさせようと言う話になったのだ。』
「11柱?同じ話が話が残り10名に行ってるってことか?」
『あぁ。そういう事だ。』
「話はわかったぜ。神通力を与える代わりに神の手足となって働けって話だろ?」
『まぁそういう事だ。どうだ?我が力の一部を貸し出す代わりに我々の手助けをして貰えないだろうか?』
「ほっといたら邪神が復活しちまうんだろ?そうなって困るのは人族も同じだ。それに神通力を得ればあの魔人にも勝てるんだろ?そうだ。あの魔人が現れたのもその邪神復活に関係あるんじゃ?」
『そうだな。何を考えているのかまではわからんが魔族の手により聖邪結界が破られたのは確かだ。あの魔人も邪神の加護を持つ王の配下と考えるべきだろう。』
「なら話は決まりだ。オレはあの魔人を倒したい。それで邪神復活とやらを止めることにも繋がるってんなら神通力を貰わないって話はないぜ。」
『おぉ。そうか!我が力の一部を使って邪神復活を止めてくれるか?』
「あぁ。むしろこっちから頼む。神通力を与えてくれ。オレにあの魔人に勝てる力をくれ!」
『よし。お前に力を授けよう。』
そう言うと光の玉が強烈な光を発した。
次の瞬間、銀狼の左手の中指に銀色に輝く一つの石のついた指輪がはめられていた。
『それは王玉と呼ばれるものだ。その王玉を使って我々の神力を地上界に届けることが出来る。』
「この指輪が神徒の証って訳か。」
『うむ。神徒によっては指輪であったりブレスレットであったり、ネックレスであったりと王玉の身に着け方はそれぞれだ。これは力を与えし神の好みでもあるな。』
「神の好み…まぁいいか。オレはどうしたら神通力を使えるようになるんだ?」
『うむ。その王玉に向けて王化と叫べばよい。さすれば我が神力がお前に流れ込むであろう。』
「王化か。」
『よし。話は纏まったな。今日からお前は戦神の加護を持つ”
その言葉を最後に銀狼の目の前は真っ白い光に包まれた。
銀狼は目を覚ますと上体を持ち上げる。
そこは見知らぬ部屋で、自身はベッドに寝かされた状態であった。
あの魔人と戦っていたはずなのに自分がどうしてベッドに横になっているのか。
戦場はどうなったのかと考えているうちに声がかかる。
「お。目を覚ましたのか?」
銀狼が声の方向を向くとこれまた見知らぬ老人がパンを手に立っていた。
「もう1週間も眠っておったのだぞ?体は大丈夫かの?」
「なに?1週間?戦場は?オレはガダンの戦場にいたはずだが?」
「あぁ。ここはガダンの街の一部で焼け残った一軒家じゃ。あの魔物達が去った後、戦場には沢山の焼死体やらが転がっておった。そこでお前さんが倒れているのが発見されたんじゃ。その銀髪が目印になったんじゃろうて。」
「魔物が去った…?じゃあ戦いは終わったのか?」
「あぁ。ガダンは一部を除いて破壊の限りを受けた。みんな死んでしまった。生き残ったのも儂を入れて20名程度。それらも皆近親者を頼ってガダンを去って行った。残ったのは儂だけじゃて。」
「みんな死んだ…?オレの団員達は?一緒にあの戦場で戦っていたんだ!」
「あの戦場で生き残っていたのはお前さんだけじゃ。それも重度の熱傷やら腹部への裂傷やらを負ってな。あのまま放置すればお前さんも死んでいただろうて。生き残りがお前さんを見つけ、儂の元へと運んだのじゃよ。」
「そんな。オレだけが生き残りだなんて。みんな死んじまったなんて…。そうだ!あの魔人はどこへ!?」
「魔人?そんなもんは知らんぞ?街を蹂躙した魔物はで方々へと去っていったわい。」
「そうか…。魔人はいなくなったのか…。」
「あぁ。それより傷の方はどうじゃ?儂も若い頃は医者としてそりゃもう優秀じゃったんよ。だからお前さんが運び込まれたのが儂のところで良かったな。儂じゃなければお前さんも死んでおったじゃろうて。」
「そうか。じいさんがオレを助けてくれたんだな。ありがとう。礼を言うよ。」
「なに構わん。あの傷で生き残ったのは奇跡じゃろう。お前さんの生命力の強さもなかなかのもんじゃて。さぁ。飯を食え。1週間も寝込んで負ったんじゃ。まずは腹を満たすことじゃて。」
そう言うと老人は手にしたパンを銀狼に渡してきた。
銀狼は渡されたパンを齧りながら問う。
「ありがとう。じいさんはなぜここに残ったんだ?オレの看病のためか?」
「いや。儂には頼れる親族もおらん。別の街に行ったところでどう生活したものかわからんて。幸いここにはまだ水も食料もある。ここの現状が知らされればそのうち帝国首都から軍隊も派遣されよう。それまではここで生き延びるつもりじゃて。」
「そうか。じいさんも戦ってんだな。」
「なに?あぁ。そうじゃった。お前さんが倒れてたそばに落ちていたという2本の剣も預かっておる。お前さんのもんじゃろ?」
老人はベット横に立てかけられた二振りの剣を指す。
「あぁ。オレの剣だ。回収してくれたのか。ありがとう。」
「なに。回収してきたのは儂じゃねぇ。儂は預かっただけじゃて。まぁまずは体を癒せ。さっきも言うたがここにはまだ水も食料もある。お前さんの面倒くらいは見れるじゃろうて。」
「助かる。」
銀狼はパンを食べ終えるとまたベットに横になる。
腹部に負った傷がまだ痛む。
老人の言う通り今は療養させて貰おうと思った。
銀狼が目覚めてからさらに1週間が経過した。
もう腹部の傷が痛みも引いてきた為、銀狼は戦いがあった場所へと赴いていた。
そこは一面焼け野原となっており、炭化した死体もそのままとなっていた。
銀狼は団員達の姿を探す。
だが焼け焦げた死体からは誰が誰か判別できない状況だった。
銀狼は落ちていた木片を手に穴を掘り始めた。
死体を埋めるための穴を掘り始めたのだ。
「ちくしょう。あの魔人め。絶対仇はとってやるからな。」
銀狼は戦場に散った兵士達に向かって呟いた。
絶対にあの魔人を倒すと心に決め、目につく死体を全て穴に埋めた。
中には装備品から団員だとわかるものもおり、そのたびに打倒魔人を強く思った。
戦場に転がった死体の数は膨大であり、3日かけてようやく全員を埋葬することが出来た。
さらに3日、体の傷もすっかり癒えた銀狼は老人の元から去ろうと決めた。
戦神から言われた残り10名の王について心当たりがあったのだ。
「もう行くのかの?」
「あぁ。世話になった。俺は行くよ。絶対にこの街の人達の仇をとってやる。」
「そうか。まぁ体に気をつけてな。無理はするなよ。そうじゃこれを持っていけ。しばらくは食うにこまらんじゃろ。」
老人が手渡してきたバックにはパンが10個に水が入った瓶が3本入っていた。
「ありがとう。じゃあな。じいさんも体に気を付けて。」
銀狼は挨拶を交わすと老人から手渡されたバックと自身の二振りの剣を携えて旅立った。
「神の加護を持つ王となればあの人だろう。きっと同じ神徒に違いない。」
銀狼は呟き南南東方面に向けて足を運ぶ。
目指すは大陸の南部に位置する獣王国。
恐らく獣王国の王である獣王が神徒であろうと考えて。
銀狼の旅はまだ始まったばかりである。
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