第2話 同居

『つまりお前は神様から加護を貰った王様って話だよな?』

「そうだ。儂は神から加護を受けた神徒というわけだ。」

『そんなやつがなんで急に表れたわけ?』

「儂はあの洞窟内の石像に封じ込められておったのだが、お前が封印の要となる社を壊してくれたおかげで外に出られるようになったのだ。」

『それで近場にいた俺に憑依したと?』

「そうだ。困っておったように見えたのでな。封印を解いて貰った礼にと思ってな。」

『いや。お礼に憑依するってのはダメだろう。』

「なぜだ?王化のおかげで怪我も治ったし、邪魔な大鬼も倒せたのだから良いではないか?」

『俺の自由がなくなってんの!』

「うむ。わがままな奴だな。助けてやったのだから良いではないか。体の制御など些事であろう。」

『はぁ。どうすんだよこれ。』

「うむ。まずはいつまでも王化しているわけにもいかんからな。王化、解除!」

 すると体を覆っていた鎧は霧を化して、また左耳のピアスにはまった石に吸い込まれる。

 と共に俺の腹部から何かが飛び出してきた。

 すると今まで膜を張っていたような感覚はなくなり、自分の意思で体が動くようになった。

「あれ?体が自由に動かせる?」

『なんじゃこりゃ!?』

 声が聞こえた方を見ると小さい黒猫がこちらを向いて座っていた。

 その尻尾は二股に分かれており、2本の尻尾がピンと張っている。

『なぜに体から弾き出された?しかもこりゃ精神体だけじゃねーか!?儂の霊体はどこだ?』

 真っ黒い子猫が慌てたようにキョロキョロすると俺をジッと見つめる。

『儂の霊体はまだお前の中にあるじゃねーか!出せ!儂の霊体返せ!』

 黒猫は俺の足にまとわりつく。

『なぜだ?お前の体に入れないぞ。どうなっている?』

「どういう事だ?お前がさっきの夜王なのか?」

『そうだ。儂が猫又にして神の加護を受けし夜の王、夜王様だ!』

「さっきは俺の体乗っ取ったって言ってたけど?」

『そうだ!儂はお前の体を乗っ取ったはずだったのに王化を解いたら精神体だけ弾き出されちまった!』

「精神体?」

『そんな事も知らんのか。普通は霊体、精神体、肉体の3つで人間は出来ている。儂は妖魔たる化け猫だから霊体と精神体のみで構成されておるんだが、今の儂は精神体のみで、霊体がお前の中に残った状態なんだよ』

「どうしたらお前の霊体を外に出せるんだよ?」

『そんな事は儂も知らん!いいからもう一度王化しろ!王化した状態で外に出れば霊体も出られるはずだ』

「そんな事言ってまた体乗っ取るつもりだろう?」

『えぇい。お前の体などどうでもいいわ!このままじゃ儂が自由に動けん。王化したらすぐ出ていくから頼む。王化してくれ』

 子猫が土下座している。初めて見た。

「わかったよ。王化!夜王!!」

 すると次の瞬間、左耳のピアスにはまった石から真っ黒な靄が噴出し、全身を覆う。

 そしてその靄は体に吸い込まれるように消えると俺はまた全身鎧姿になった。

「王化すれば儂がお前の体に入れるようだな。」

『いいから外に出てくれよ』

「うむ。・・・ん?出られん。」

『何言ってんだよ。早く出てくれよ』

「違うのだ。王鎧おうがいが邪魔してお前の体から抜け出せんのだ」

『なに?王鎧?ってこの今着てる真っ黒いやつか?』

「そうだ。これは暗黒神の力、神通力を使って形成される鎧だ。身体能力が5倍に跳ね上がり、精神作用のある攻撃も効かなくなる優れものよ。だが恐らく外からの精神作用を防御する力が邪魔して今お前から出られない状況にある。」

『じゃあどうするんだよ?』

「次は王化解除の瞬間を狙ってお前から出る。いいか?いくぞ。王化、解除!」

 すると体を覆っていた鎧は霧を化して、また左耳のピアスにはまった石に吸い込まれる。

 と共に俺の腹部から黒い子猫が飛び出してきた。

『だめだぁ。また霊体だけ弾き出されてしもうた。これは無理だな。』

「無理って?どうすんだよ?」

『しばらくはこのままだ。お前の中に儂の霊体がある。くれぐれも死ぬなよ。下手すれ儂も一緒にくたばっちまう』

「しばらくこのままってどうにかする当てはあるのかよ?」

『今はない。どうにかして霊体も外に出られる方法を探るしかないな。』

「そんな悠長な事言ってていいのかよ?」

『どうせ妖魔たる儂の寿命はないに等しいからな。そのうち方法も見つかるだろう。それより、久しぶりに封印から解かれたのだ。まず最初にやるべき事がある。』

「やるべき事?」

『メシだ!うまい飯を喰わせろ!』

「飯って言われても、昼食の残りのカレーくらいしかないぞ?」

『かれー?なんだかわからんがうまいならよい。それを喰わせてくれ。』

「わかった。じゃあまずはツリーハウスに戻ろう」

 そういう話になった。


 ツリーハウスに戻りカレーを皿によそいながら問いかける。

「猫ってなんか食べちゃまずいものとかなかったか?玉ねぎとか?」

『儂は100年以上生きて猫又となった化け猫だぞ?そのあたりの弱点は克服済みよ。』

 俺は子猫の前にカレーライスを置いてやる。

『む?なにやら刺激的な匂いよな。んむ。おいなんだこれは?辛いぞ?でもうまいぞ??辛みが癖になる!』

 子猫はむしゃむしゃカレーライスを食べ始めた。


 そこで俺は親父の遺体を思い出す。そういえば埋葬の途中だった。

「俺は親父を埋葬してくるから」

 俺は一言言ってから親父をおぶり、ツリーハウスを降りた。

 今度はちゃんと2本のナイフも携えている。

 俺は掘った穴に親父を置くと、オーガにぶん殴られた際に手放していたスコップを拾い、親父を埋め始めた。

 埋める時間は掘った時間の半分くらいで済んだ。

 俺は埋めた土の上に手頃な石を置いて”父”とだけ掘った。

 親父の名前は残さなくてもいいだろう。

 俺がわかればいい。そういう墓だ。

 俺は座り込んで手を合わせる。

 するとカレーライスを食べ終えたのだろう。子猫が俺の横に座っていた。

『誰が死んだんだ?』

「親父だよ。っても俺拾われっ子だから育ての親だけどな」

『そうか。』

 それだけ言うと子猫もしばらく墓の前に座っていた。


 ツリーハウスに戻り一息ついたところで子猫が言い出した。

『しばらくこのままでいるのはいいとして、今のうちに確認しておきたい事がある』

「確認?なにを?」

『お前の体で王化した際にどの程度の術が使えるのかを試さないと今後必要になるかもしれんからな』

「術か。魔術みたいなもんか?」

「妖魔が使うのは妖術よ。呼び方が違うだけで本質は変わらんかもしれんがな。」

 そういうわけで俺達は訓練なんかでよく使っていたちょっと開けた場所に移動した。

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