第2話

格好のターゲット




工藤祐貴は、格好のターゲットを見つけた。それは、夢と情熱を抱えて駆け出したばかりの若き起業家の女だった。彼女の目は常に未来を見据え、言葉の端々に希望が詰まっていた。だが、祐貴にとってその純粋さは隙でもあった。


女は一人で闘っていた。事業を軌道に乗せるために二人三脚で歩んでくれる「仲間」を探し続けていたのだ。そんな彼女の姿を観察した祐貴は、すぐに思った。**「これは使える」**と。


祐貴は新たな顔を用意した。それは、親切で誠実で、頼れる大人の男という仮面だった。彼は経歴を偽り、これまでの汚れた過去を全て隠し、彼女に近づいた。その場その場で適切なアドバイスを与え、問題が起きれば率先して解決策を提示した。彼が放つ言葉はすべて計算され尽くしたものであり、女の心に響いた。


祐貴の器用さは、ここでもいかんなく発揮された。技術的なサポートから人脈の調整まで、彼女の事業を支えるように見せかけた。女は次第に祐貴を「必要な人間」と感じるようになり、いつしか彼を完全に信頼するようになった。


「君がいなかったら、私はここまで来れなかった」

彼女がそう告げた日、祐貴の中で何かが確信に変わった。**「もう準備は整った」**と。


だが、祐貴にとってその3年間は決して「努力」ではなかった。同じ場所で踏ん張ることができない彼の性分は、内側から沸き上がる衝動を抑えられない状態に達していた。


そろそろ、次の一手に移る時だ――祐貴はそう考えた。


彼は、女の事業に深く食い込み、その財務状況や取引先のリスト、そして資金繰りの細部まで把握していた。彼女が築き上げたものを全て利用し、あるいは奪い、次の「飛び場」として活用する準備を着々と進めていた。


信頼の仮面はすでに亀裂を生じていた。だが、それを見抜けるほど女はまだ強くなかった。祐貴は相手の信頼を裏切る計画を立てながら、表向きはこれまでと変わらぬ親切な笑顔を浮かべていた。


「あいつはそろそろ、自分の事業を失う時が来た。すべては俺のものになる」

祐貴はその夜、自分の計画を頭の中で反復しながら微笑んだ。


信頼を築くのに3年を費やした祐貴は、その信頼を裏切る一瞬の快感を楽しもうとしていた。果たして、その結末は――光と影が交錯する中、彼の歪んだ人生はさらに深い闇へと向かっていく。

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