第5話 秘密
「いらっしゃい、佐倉くん」
家へ行くと、私服姿の相良が俺を出迎えてくれた。
手には先程写真で見た手錠がある。
「可愛いね。やっぱり撮られるの、好きなんだ?」
ふふっ、と笑う相良に言い返すことができない。だって俺は、自分の意志でここにきてしまったのだから。
「おいで。佐倉くんのこと、私が最高に可愛くしてあげる」
◆
「ほら、見て」
そう言って、相良は鏡を俺の前に持ってきた。
ウィッグをかぶっていないのに、いつもの姿とはまるで違う。ヘアアイロンで相良が髪型を変え、メイクをしてくれたおかげだ。
「やたらと女の子っぽくしなくても、佐倉くんは可愛いんだからね」
笑いながら、相良が俺のワイシャツのボタンを外していく。
全てを外し終わった後、落ち着いた口調で言った。
「下に着てるシャツ脱いで。で、ワイシャツ羽織って」
相良には逆らえない。……違う。俺が逆らいたくないだけだ。
言われるがままに中のシャツを脱ぎ、上裸の上にシャツを羽織りなおす。
「そうね。ボタンはある程度とめて……ちょっと濡らそうかしら」
立ち上がった相良が水の入った霧吹きを持って戻ってくる。容赦なく俺に水を吹きかけ、濡れて透けたワイシャツを見てにっこりと笑った。
「うん。えっちで可愛い」
熱っぽくて真剣な眼差し。冷静なままのように見えて、ほんのりと赤く染まっている頬。
間違いなく相良は今、俺に興奮している。相良に可愛くしてもらった俺に。
「本当に可愛いよ、佐倉くん」
「……そうかよ」
「もっと嬉しそうな反応すればいいのに。その方が可愛いよ」
可愛いと言えば俺がなんでもすると思ってるのか。
むかつく。実際、その通りだという事実に。
「……可愛いって言われて、嬉しい」
言うと同時に、全身が熱くなった。屈辱的だ。恥ずかしい。それなのに今、俺はどうしようもなく興奮している。
「よくできました、佐倉くん」
そう言うと、相良は右手に持ったスマホを左の人差し指で示し、得意げな顔をする。
「実は今、動画撮ってたの。可愛い佐倉くん、ばっちり撮れたからね」
「……っ!」
「ふふ。佐倉くんって、本当に撮られるの好きだよね」
相良が近づいてきて、俺の頬にそっと触れた。
熱を帯びた手のひらが気持ちいい。
「それじゃあ、次はもっと恥ずかしいポーズ、しちゃおう?」
◆
「うん。今日の佐倉くん、最高だったよ」
カメラロールを眺めながら、相良がにやにやと笑う。
「……それはどうも。てか、早く手錠外せよ」
「可愛くおねだりしてくれたらね」
最悪だ。こいつ。
男の姿のままある程度撮影した後、るなの姿でも撮影会は行われた。
もうすっかり外は暗い。たぶん、日葵や親から心配のメッセージが届いているだろう。
これ以上遅くなるわけにはいかない。
だからこれは、仕方のないことなのだ。
「……外してくれないと、泣いちゃうよ?」
恥ずかしすぎる。顔から火か出そうだ。
「泣いてるところも見たいけど」
そう言いながらも、相良はちゃんと手錠を外してくれた。
そして俺を見てにっこりと笑う。
「佐倉くん。これからも撮影会、続けたいでしょ?」
「……ああ」
今さら意地を張ったってどうしようもない。俺は相良のせいで、新しい世界に足を踏み入れてしまったのだ。
「嬉しいなぁ。これからはもっと佐倉くんのこと、可愛く撮ってあげるからね?」
俺と相良は恋人じゃない。それどころか友達でもない。
なのに他の誰にも見せない恥ずかしい姿を相良に晒してしまっている。
そう考えただけで、ぞくっとした。
「あ。佐倉くん、今興奮したでしょ。可愛い」
微笑んで、相良が俺の頭を撫でる。その眼差しの甘さに、泣きそうなほど胸が震えた。
「……これからよろしく」
震える声で、相良にそう告げた。
「うん。私たちだけの秘密、ね?」
女装して裏垢をやってたら、ミスコン優勝のクールな美少女と秘密の撮影会をすることになった 八星 こはく @kohaku__08
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