第4話



王都の民たちは戦々恐々な日々を送る。

それはどこから漏れたのか……

箝口令が敷かれたはずの『アレグリア嬢の最期のことば』が一言一句たがわず広まったのだ。

フォンデン侯爵家一族の公開処刑を見に行った王都民は全体の実に八割強。

さらに仕事を理由に者は1割。

……まったく興味がなかった者は僅か数十人だったという。


「どうしよう……オレ、石を投げちまったぜ」


そんな声は多い。

庶民の娯楽でもある公開処刑に間に合わなくても、晒された罪人の遺体に石を投げる行為は庶民の鬱憤晴らしとして認められている。

しかし……フォンデン侯爵一族は

幼な子を、特に赤子を選んで石礫いしつぶての的にした彼らの罪は…………


「うわぁぁぁぁぁ、あああああああああああああああああああああああああああ!!」


「許してくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


まるで、自らが的にした幼な子たちに許しを乞うように手を握り合わせて謝罪を口にする。

彼らの前に現れる血塗れの幼な子たちはホンモノか、彼らの後悔がみせるマボロシか。


哀れな一族の消せない記憶は彼らを無言で責める。

中には冤罪に気付きながらも黙っていた人たちもいる。

偽証とも言いがたい、「見たような見てないような」や「その日は休暇をもらっていたため、来たかどうか知らない」がすべて「見た」もしくは「来ていない」という、王太子たちに都合のいい証言に塗り替えられていた。


それを抗議しなかったのは、抗議をした誠実な店主の末路が彼らの心を闇に落としたからだ。

「フォンデン侯爵家の犯した罪に加担した」として店主を処刑、残った家族も営業権を取りあげられて国外追放処分。

……どこぞかで野党に襲われたとおぼしきも見つかっている。

そのような状態で、正義をかざすことはできなかった。


という自己正当化を何度も繰り返して。

「仕方がなかった」という言葉を免罪符に。


とはいえ、胸に罪悪感という名のを残している彼ら。


あちらこちらで聞こえる悲鳴と後悔と謝罪。

店の多くは扉をかたく閉め、店主は部屋に閉じこもって頭からシーツを被って震える。

彼らは仕事を終えると人がまばらとなった刑場に赴き、死しても美しい女性や若者たちの顔を狙って潰し回った。

そして指をさして笑ったのだ…………自らの投じた石が命中して遺体に向けて。



いま王都はゴーストタウンと化していた。

人は減っていない。

誰もが息をひそめて生活をしているだけだ。

活気以前に人の姿を見ることも少ない。


果たして、彼らは人としてと言えるのだろうか。

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