第5話
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王宮が門を固く閉ざして月日が経った。
アレグリアが毒杯を賜った翌日から3日の内に、王都外の人々の間である話が囁かれるようになった。
『王都に住む者たちは王太子の身勝手な恋を成就しようと、清廉潔白な婚約者に冤罪を着せて殺しただけでは飽き足らず、婚約者の一族をも皆殺しにした』
そんな言葉がどんどんと国内外に広がり、王都に向かう商人たちは王都民に対して白い目で見ていた。
口が裂けても「事実無根だ」などとは言えない。
噂に間違ったことは何ひとつないのだから。
何より【悲劇の一族】が滅び、かつての領地にある一族の墓地に埋葬された。
その哀しみの葬列はフォンデン家の領まで続き、一族の墓地には真新しい多数の
通常なら名と生年月日と死亡日が刻まれる墓石には、申し訳程度に名と生年月日が刻まれているだけだ。
死亡日なんて刻む必要がない。
アレグリア以外は全員同じ日が命日なのだから。
ここは使用人たちが自主的に整備している。
管理する者すら処刑されていなくなった一族の墓地。
「今までどおりにお仕えしよう」と思うのも、フォンデン侯爵家の人柄からだろう。
【私に冤罪をかけた者、それに同調した者に加担した者。協力者にその家族や一族。私の家族を皆殺しにした者、見殺しにした者に同意した者たちよ。
それが罪なき我らの生命を奪った代償だ】
この箝口令のしかれた言葉が知られたのは、あの場にいながら『我が家に罪はない』と思い込んでいた子爵家の当主が原因である。
「王太子とその取り巻きたちが呪われた。我が家のように王家に逆らえず、あの場に呼び出された者は関係ないのさ」
子爵は妻子にそう話した。
しかし、悲しいかな。
その場には使用人たちもいた。
彼らは口を挟まなかったものの、その言葉をはっきりと脳裏に焼き付けた。
彼らもまた、貴族に連なる者。
自身が行かなくても、家族が処刑を見に行った可能性があったのだ。
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王都を出て行くことができたのは一部の行商人たち。
そしてフォンデン家に仕えてきた者とその家族だけだった。
宰相の指示で、一族を埋葬するために王都を出た者たちは……王都に戻ってのちは他者と同じく、何故か王都をでることが出来なかった。
大小様々な偶然が重なり、『王都から出る必要がなくなった』ともいえる。
ある伯爵は毎年自領に戻っていた。
今年に限ってその予定が変更されたのは、愛娘が来年から王立学園へ入学する。
事前に受ける学力テストと健康検査のために王都へ来るからだ。
そのため、帰領して家族との時間をとるはずだった予定が王都で一緒に過ごすこととなった。
ある男爵は社交界の時期が終わったため帰領しようとした。
しかし妻の妊娠が分かったため、馬車による移動が見送られた。
ある元公爵は、娘の愚行により自領を王家へ返すとともに降爵となった。
王族である娘のために毒杯を賜ろうとしたものの、子爵にまで降爵した上に娘は王族籍を剥奪された身。
毒杯を賜ることができず…………思いあまった父親は娘の胸に短剣を差し込んだ。
「貴様のせいで」という侮蔑の言葉を最後に贈って。
罪を問われた子息や令嬢たちは、王城に集められた。
元公爵のような親や家族による殺害を封じるためだろう。
父親が子爵に降爵した元公爵家の娘は一命を取り留めた。
しかし彼女は……鉱山労働者相手の娼館に奴隷として終生働くことが決まった。
彼女はマジョルカの一番の親友であり、アレグリアの冤罪をつくったひとり。
胸が痛むのは、父親に刺されたときの傷か。
自身の愚かな行為を後悔して…………はいないだろう。
降爵されたことで「罪は償った」と思っていたのだから。
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