第8話 方針

「……ディズ君これからどうします?」

「探索しよう。ここにいても仕方ないしな」



 あの後、リリアはキーウに最後の質問をした。それは寝る時この身体はどうなるのかという質問だ。



『ああ、なるほど。それなら安心していい。寝ればその身体は消える。そして目が覚める場所は寝た時と同じだ。とはいえ寝る場所は慎重に選んだ方がいいよ――あとこれはオマケだが……』



 タナトスでの活動時間は睡眠時間とほぼ同じらしい。キーウのこのオマケの情報は有難いとリリアは言っていた。となると俺が寝たのは深夜0時頃。ここで過ごしたのはまだ1時間程度ならあと7時間くらいがリミットって事だ。


「ディズ君は何時ごろに寝たんです?」

「0時頃だな。そっちは?」

「私も似たような時間ですね。なので少し方針を決めましょう」

「方針?」

「そうです……キーウさんの話が全部本当だったら、私たちは現実世界で寝ると、この世界へ強制的に呼ばれます。なので方針としては2つかなって思うんですよね」



 リリアは俺に見えるように指を二本立てる。



「この一番安全な第13階層で過ごすか……生き残るために行動するかです」

「そういっても選択肢なくねぇかな。だってあと3か月くらいなんだろ」

「まぁ……そうなんでよね。だからこの世界で戦えるようにならないといけないです。ちなみに私はこういうのからっきしなんですが、ディズ君はどうです?」



 俺は少し考えて、とりあえず拳を握り力こぶを見せるように手を上げる。もっとも鎧があるからそんなものまったく見えないんだが。



「一応喧嘩で負けた事ないぜ」

「強いんですね! あれもしかして不良さんだったりします?」

「……ちげぇよ。それにちゃんと授業も受けてるし! ただ身体がデカいせいかよく喧嘩を売られるんだ。誓って俺から仕掛けたことはないっての」




 腕を組みながら目を瞑ってリリアは考えている。うーんうーんと唸りながらしばらくするとリリアは目を開けた。

 


 

「ぶっちゃけなんですが、こういうのちょっと楽しんでいる自分がいるんです。私ラノベとか好きですし、それに自由に飛べてどこでも好きに移動できるっていうのが個人的にとっても楽しいんです!」

 


 そう言うとリリアは空中を泳ぐように飛んで大きく手を広げている。



「それに私もあの力が使えるみたいですし!」

「いいんじゃね。俺も気になる事が色々あるしどのみち逃げられないんじゃな。なら当面は俺が肉体労働担当、リリアが頭脳担当って感じでいいか?」

「お、参謀って事です? なんだかカッコいいですね。私の方が年上ですしどんどん頼ってください」

「リリアって年上って感じしねぇんだよな。妹みたいな感じっていうか」

「ちょ!? どういう意味です!!」




 そう笑い合いながらはゆっくりとした形でまた移動を始めた。




「ギルドは結局入らない方向って事でいいのか?」

「そうですね。ちょっと色々考えたんです。ギルドは一度入ったら多分レアタイプと思われる私達はどうなるだろうって。最初は優遇されると思います。でも詰みかけたこの国で間違いなく戦力としてあてにされるはずです。特にディズ君は強そうですしね。ただ情報もない、何をすればいいのかもわからない私たちはきっと使いやすい道具になると思うんです。何せ何をすればいいのかわからないですからね。だから少なくとも今じゃない。そんな気がするんです」



 なるほど。本当に色々考えてんだな。実際今の段階だとナイトメアとかいう魔物よりも同じ人間の覚醒者の方が厄介な気がするのは俺も同意見だ。



「……最終的にギルドへ入るのは視野に入れていいかなって思ってます。でも今じゃないかなって思うんですよね。キーウさんも言ってたと思うです。他の場所でも似たような事をしてるって。多分ギルドはかなり多いはず、だから慎重に選んだ方がいいかなって思うですが、どうでしょう?」

「いいんじゃね。話を聞いた感じ俺も同意見だ」



 そういうと俺の頭まで浮遊して腰を下ろすリリア。




「んでどこいくよ」

「そうですね……とりあえず大きな建物は避けましょうか」

「あ、なんでだ? 現実世界と同じ物資があるかわからねぇがとりあえず行ってみてもよくねぇか?」

「ほら、想像してみてください。ゲームをプレイしていて、新しいマップが開いたらディズ君ならどうします?」

「そりゃすぐ新し場所に……ああ、そういう事か」


 ここ第13階層は新しく増えた場所。もしゲームとして考えた場合は多分多くの覚醒者がこっちへやってくる。新しいマップが増えればやってくるのは当然って考えだろう



「キーウさんの話だと前線で戦っている人たちもいるらしいですが、多分映画とかで見る遅滞戦術みたいな状態になっているような気がするんです。そうなると少しでも安全地帯へ逃げようとする人は出てくるはずかなって……あ、となるとキーウさんに聞くべき質問を間違えたかもですね」



 リリアは何かに気づいたように様子だ。

 

 

「そうか? 聞いてた感じどれも重要な情報だったと思うけど」

「いえ、寝ると身体が残るかどうかは最悪確認できるじゃないですか。だから身体が残る前提で行動すればよかったかもって思ったんです」

「どうやって確認すんだよ」



 首を傾げているリリアに単純な答えを言った。



「ディズ君が寝る所を私が見ていればいいんですよ」

「なんか変態的な感じするな」

「包帯巻いた男に言われた!?」



 

 そういやそうだったな。



「それで代わりに何を質問しようとしたんだ」

「ああ、この第13階層の広さを聞けばよかったと思ったんですよ。どのくらい広いのか分かると色々情報が増えますからね」

「いやいや、流石にあの野郎もそれは知らないだろ」

「多分あの人なら知ってると思うです。ほら、ここは円状に広がった世界だって言ってたでしょう?」

「そういやそんな事言ってたか」



 リリアは地面に落ちている石を拾って地面に小さな円を描いた。




「仮にこれが中心だとして、この円が第1階層だとしましょう」

「ああ」

「で、多分階層の広がり方って均一なんじゃないかって思うんです。そうると……」



 リリアは円を描いたその外側に同じように円を書いていく。



「多分こんな感じだと思うんです。そしてこの円を12個で分断すると……これが上面から見たタナトスじゃないですかね」



 13個の円を描いた図形をピザのように12個に分割した図が完成した。



「ああ、なるほど。つまり……例えば第13階層から第12階層までの距離さえ分かれば……」

「はい。1つの階層がどの範囲まであるのか大よその数字が出せるはずです」

「キーウさんが所属している月桂樹というギルドは他の国にもメンバーがいると言っていました。だからこのタナトスの直径も調べていそうな気がするんですよね」

「なるほどな。直径が分かるなら中心地も分かるって訳か。現実世界と同じ広さって考えると中心地が現実のどこなのかも分かりそうなもんだが――」



 ん、待て。もしかして……。いやもう少し考える時間がほしい。纏まったらリリアに相談しよう。今はまだ……違う気がする。

 



「むむ! ディズ君、見て下さい!」



 俺の頭の上でリリアがどこか指を指している。その方向へ視線を向けると黒いスライムがいた。




「ナイトメアってやつか。よし倒そうぜ」

「いくです!」





 

 

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