第7話 12月ノ国の現状
「いいね。そこに気づく人がどのくらいいるかなと思っていたけど君がそうか」
キーウさんは楽しそうにそう語った。それを聞いて俺も思い出す。そういえばそんな言い方していたな。でもなんでそんな質問を?
「うん、いいよ。おまけで色々教えてあげよう。少し長くなるが我慢してくれ。恐らく気づいているだろうけどこのタナトスは円状に広がった世界だ」
俺はさっぱりだったが黙っておこう。そういえば1月とか11月とか言ってたな。時計、確かに時計みたいな形ならあり得るのか。
「ここ第13階層はタナトスの一番外側。そして内側、つまりこの世界の中心部分が最深層って事ですね」
「そうだ。最深層、つまり第0階層。そこがこの世界の中心であり、何か大きな秘密がある場所。先に行っておこう。私はそこに何があるか知らない。私の所属している月桂樹のギルドマスターなら知っているらしいけど話す気がないらしくてね。酷い話だろう? 同じギルドメンバーにすら話さないんだ」
中心か。やっぱり昔見た夢と何か関係があるみたいだな。
「でもその最深部の事を知っているなんて……キーウさんの所のギルマスはすごい人なんですね」
「すごい人だよ。なんせこの世界が始まった時の第1覚醒者の1人だからね」
「え!? それはすごいなんてもんじゃないです!」
言われてみればそうだ。俺たちが第13覚醒者なら当然最初の覚醒者だってそりゃいるか。
「まあずっと人探しをしていてね。あまりギルドに関りが少ないんだ。だからこの世界の秘密を紐解くべく作られたギルド月桂樹は現在副マスターが主導となって動いている」
「思った以上に色々教えてくれてますが、こっちはこのディズ君の顔くらいしか情報はないですよ」
「構わないよ。これはギルドの方針のついでだし、君もこの話を最後まで聞けば理由は分かるだろうからね」
「ギルドの方針ですか……?」
ちょっと違和感を感じるな。聞いた感じ月桂樹というギルドはゲームで言う考察班みたいな組織だろ。なのに初心者の支援なんてしてるんだ?
「君の意見ももっともだ。いっちゃ何だか私たちからすると新米覚醒者たちに割く時間は必要ない。もっともこの国は例外だがね」
「なら何で……?」
「放浪癖の強い我がギルマスが唯一必ず参加するのが初心者支援に対する報告会だからだ」
「例の人探しに関係するから……ですか」
なるほど、だからこんな事をしてるのか。確かに善意じゃねぇな。
「その通り。巫山戯た話だがあの御仁の知識は本物だ。話す機会すら貴重なんだよ。だからこぞってメンバーはこの支援活動をしているってわけだ。少し脱線したね。少し核心的な部分に触れよう」
少し溜めてキーウは言った。
「このタナトスは1年に1度、その世界が拡張される」
「1年に一度……まさか年をまたぐこの時にですか?」
「そうだよ。そして新しい覚醒者が増えるんだ。さらにこのタナトスでは世界が拡張された影響か中心に近い階層のナイトメアの強さが跳ね上がる。他国の最前線は今は第5階層辺りだ。だがナイトメアが強くなり多分前線が押される場所もあるだろうね」
「そんなに強いんですか」
「強いよ。第2階層までナイトメアはいるんだけど今じゃ第5階層辺りにいるナイトメアに苦戦している。想像してごらん。漫画やアニメのような超人的な能力を持った覚醒者ですら未だ第5階層辺りで苦戦しているんだ」
うん? 待て。どういう事だ。第2階層まで?
「なんで第2階層までなんですか?」
「そう。そこがこの会話の本質、いや本題だ。さっきも話した通りこのタナトスは広がっている。必然的に最初期に覚醒した者たちは中心の方を知っているんだ。なんせ数十年前はまだ狭い世界だったからね。その奥に、第1階層に何がいるのか知っている」
何でだ。心臓の鼓動が早くなる。
「……ディズ君、大丈夫です?」
「ああ。大丈夫だ」
キーウは手に持った煙草をもう一度吸って煙を吐きながら言った。
「12体の化け物。
何かが頭の中でフラッシュバックする。でも完全に思い出せない。
「そしてさっきも言った本題だ。ここ12月ノ国は、本来第1階層に留まっているはずの化け物。
ちょっと待て。そりゃどういう事だ。
「どういう……意味ですか」
リリアも困惑しているらしい。そりゃそうだろ。そんなヤバい奴がなんで暴れてんだ。
「そのままの意味だ。奴は既にこの国の第11階層まで攻め込んでいる。年々その速度が加速しており、予想だと今年中にこの第13階層まで奴の侵略を受けるだろう」
「ほ、他の国は……?」
「1月と11月のトップはこの事実を知っている。幸いなことに奴は国を跨ごうとしない。恐らく国境警備が随分手厚い事になっているだろうさ。だが救援には来ない。いや来れない。下手にやぶを突いて自分の国まで同じ目に遭いたくないからだ」
「も、もしここまで侵攻されたら……?」
「終わりだよ。殺され、また何も知らないままこの世界へ召喚され殺される。そんな地獄みたいな悪夢が続くだけだ」
頭が痛くなる。この話が本当ならもうこの国は……詰んでいるんじゃねぇのか?
「た、対策は何かあるんです?」
「とにかく侵攻を止めるために奴をラナゲーナルを倒すしかない、だが現状それは不可能だ。例えるなら、ゲームで最初の村を出て次に行くダンジョンにラスボスが待ち構えているようなものだからね」
「そんなの……どうするんですか」
「一部のギルドはまだ奴を討伐する事を諦めていない。だが現実的に不可能なんだ。私も一目見たがアレは倒すとかそういう次元の話じゃない。だから次の作戦のため準備を進めている」
「それは……?」
キーウは煙草を捨てながら遥か向こうを見た。
「
「出来るんですか? そんな事、だって第9階層ってもう……」
「倒すより遥かに確率は高い。もう追い詰められている。だから既にギルド会議で決定しているんだ。スタンピードが始まる3月末まで鍛え上げ実行するとね」
「なぜスタンピードの時まで待つんです? 逃げるなら早い方が……」
確かにそりゃもっともだ。ただでさえナイトメアが増えるスタンピードを何で待つんだ。
「簡単な話だよ。数百、数千近いナイトメアで溢れた方が遥かに安全なのさ。ナイトメアが増える事によって少しでもあの化け物の身動きを阻害出来るからね」
Side キーウ
しゃべり過ぎたかな。だが必要な情報だ。私の勘だが彼らは何か知っている気がする。眠気覚ましの煙草をもう一本吸おうとすると猫耳を生やした女性が近づいてきた。
「お疲れ様です。キーウ。彼らを行かせてよろしいので?」
「構わないよ、イル君。あと他のギルドのけん制も助かった」
「ほとんどのギルドが彼らを狙っていました。ここまでする必要があったんですか」
「あるね。ああそれと後をつけてもいいけど見つかってはいけない。もし見つかったらすぐに撤退して今後は近づかないようにした方がいいね」
「そこまでしますか」
「妖精の子は怯えているように見えて状況がよくみえていそうだ。それに彼……ディズ君って言ったかな。普通じゃない。あれが初めてここへ来た覚醒者? 有り得ない。なら何だ? ふふ疑問が多いね」
彼の姿を見たことは一度もない。出入口が封鎖されたこの国では他国からの訪問はまず不可能だし、仮にそうならもっと早く話題に上がる。だがそれもない。状況的には間違いなく新規の覚醒者だ。だがそれはないと確信できる何かがある。
「夜魔湖とひと悶着あったらしいからしばらく様子を見よう。もしかしたら面白いものが見れるかもしれない」
「守らなくても良いので?」
「この程度で終わるようならどのみち後はない。私は期待しているんだ。まったくいつも嫌々参加していた支援報告会にここまで出たいと思った日はないな」
「どのみち参加できないじゃないですか」
「そうだね。まったくもどかしい」
そう言いながらキーウはあの包帯の下に隠された頭蓋骨を思い出しまた笑った。
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