第6話 閑話 捜索
「ふざけてんじゃねぇぞ!!」
ギルド夜魔湖の第8チームが使用している1つのビル内で怒号が飛ぶ。
「ひ、ひぃ! すみません、すみません!」
「貴重な幻想タイプの新人を逃したあげくに他所者に仲間をのされて逃げただと!? どんだけ腑抜けなんだおめぇはよぉ!」
激高しているのは鶏のようなトサカを生やした男だ。嘴をカチカチならし周囲にある物に当たっている。
「落ち着け、ドウザン」
「これが落ち着いていられるか!サカモト、てめぇはなんで落ち着いてんだ!」
ドウザンという鶏に似た覚醒者を嗜めたのはサカモトという大きく垂れた犬耳を持った男だ。
「ここで怒鳴り散らかしても仕方ないからだ。それでカイウス。レオナルドの
「は、はい。それはもちろん!」
ネズミの覚醒者カイウスはそう答えた。
「ちょっと待てコラ。このネズミの名前カイウスってのか!? なんつう名前だよ。しかもカエルの方はレオナルドだと……」
「はあ。ドウザン。もう少し仲間の名前を覚えてやれ」
「いや、名前負けしすぎだろ! よし改名しろ。お前はチュータロ。カエルの方はケロスケだ。明日リスポーンするだろ、さっさと回収しろ」
「うぇ。チュータロですか。カイウスの方がかっこいいのに」
「お前なんかチュータロで十分なんだよ、ほらいけや!」
もう一度大きく床を蹴り、それに驚いたカイウスは逃げるように出ていった。
「まったく。幸いなのは今回の説明会でそれなりに新人を勧誘出来た事か」
「どんくらいだ?」
「チーム全体で52名だ」
手元の名簿を見ながらサカモトはそう答える。
「上々じゃねぇか。今回の新規覚醒者は何人いたんだよ」
「詳しくは月桂樹に聞くしかないが、恐らく数百名はいたはずだ」
「まあまあか。くそ時間がねぇな。次はそいつらを鍛えねぇと」
「幸い、指示通りここを異世界だと勘違いした主人公気取りを多く獲得できた。レベル上げは積極的にやるだろうさ」
世の中に異世界転生などの娯楽が流行ったためか、こういう異常事態に巻き込まれても寛容な者が多かった。自分を特別だと信じ、現実とは違うこの世界に順応できる。
「いい兵士になりそうだ」
「ああ。早くザニアさんの助けになれる人材を補充しなければな」
「あの人がこの国のてっぺんを取れば変わるはずだ。最弱の国なんて呼ばれねぇようにきっと変わる!」
「この国の
ドウザンは目を鋭くさせ窓の外を見た。
「潰す。大事な時期にうちの名前に唾吐くような真似しやがったんだ」
「それは構わんが、奴は本当に何者だ? カイウスの話によると奴は完全な人型、つまりかなり高位の覚醒者だ。この国でそんな奴見たことがない」
タナトスの夢界へ最初に訪れた覚醒者はまず人の形をしていない。ほとんどが2足歩行もできない状態からスタートする。例外は幻想タイプと呼ばれるレアな個体くらいだ。
「奴も幻想タイプの新入りなんだろ。骸骨ってことはスケルトンって訳か」
「いや、それでも説明がつかない。幻想タイプは成長が遅いんだ。覚醒した初日に
「それも含めて聞き出せばいいさ。使える奴なら上下関係をはっきりさせて従わせる。そうでないなら潰す。まず奴の場所を探すところだろ?」
そこまで言い切るドウザンに対しサカモトはため息をつきながら答えた。
「……わかった。このチームで捜索隊を組もう。他のチームや本部に報告は?」
「必要ねぇ。ザニアの兄貴にそんな恥ずかしい報告出来るわけねぇだろ」
「なら、ある程度口が堅い連中がいいか。だが分かっているな? 時間がない。例の計画まであと3か月しかないんだ」
「わかってるさ! だがTチャンネルで俺らが何て呼ばれているか知ってるか!? その程度のナイトメアも倒せない最弱の国の覚醒者だってよ。だったこっちに来てみろってんだ!!」
そう叫び近くのテーブルを蹴り上げた。
「こんな状態で他国に逃げてみろ! 俺らは、いやこの国の全員が笑われる!!」
「言っただろう。現状を何もしらない馬鹿は放っておけ。この国は争っている場合じゃないんだ。出来れば例の骸骨男は放っておきたいくらいなんだぞ」
「馬鹿野郎が! この状況で更に国内でなめられて見ろ! 必死に前線で戦っているザニアの兄貴の評判はどうなる!?」
「だから反対はしていないだろう。だが次のスタンピードまでに見つからなかったらもう放っておけ」
「わかってるよ。だが今この国で安全な階層は限られている。すぐ見つかるさ」
「一応聞くが、例の骸骨男が他のギルドの者だったら?」
サカモトがそう聞くと懐から煙草を取り出したドウザンは火を付けながら答えた。
「はっ。今この国で俺らと事を構えようなんて馬鹿なギルドはいねぇよ。簡単に差し出すさ」
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