第5話 選択

 質が悪りぃ。俺は思わず毒づきそうになる。



 選択肢がほとんどない。この世界の脱出方法は分かった。多分嘘はついてないだろう。でも寝るって言われて、はい寝ますなんて出来る奴はそういない。つまり寝るための環境を整える必要があるんじゃねぇのか。



 しかもナイトメアという魔物がいるなんて話もプラスされている。しかもそれだけじゃねぇ。俺の予想があたってりゃこの辺りじゃあのスライム擬きよりも同じ覚醒者の方が質がわりぃ。


 そう頭を悩ませていると俺の頭を由井浜がコツコツ叩いている。


「どうしたよ」

「名前変えた方がよさそうです。私はこれからリリアと名乗ります。ゲームでよく使うんです。そっちどうします?」

「……ならディズで。俺もゲームじゃその名前を使うんだ」

「わかりました。ディズ君」



 そういって笑う由井浜……いやリリア。それを見て俺は思う。



 多分あの連中を見た感じだとこういう女の子の姿をしているリリアが危険な目に遭う可能性が跳ね上がる。寝るって事は無防備な姿をさらすことにもなるんだ。流石に今更リリアが酷い目に遭うのはみたくねぇ。



「ここからは好きに行動してくれ。人型の覚醒者に話しかけてみてほしい。いろんなギルドがあるからきっと気に入る場所があるだろう。ちなみに私が所属しているギルドは特に人の募集はしていない。ギルドの方針的に初心者は歓迎していないんだ。さ、私はここまでだ。後は皆に任せるよ」



 そういうとキーウはその場から離れていった。そして直ぐに声掛けが始まった。



「敵と戦って強くなりたい奴! それを一緒に体感しよう! 興味がある奴は来て欲しい!」

「戦うのが怖いという人たち! アイテムの回収、管理や販売をやってみない? 魔法みたいな面白い物が沢山あるわ!」


 

 最初は戸惑っていた人たちも徐々に動き始めている。動くなら今だ。ここまでくれば流石に分かる。俺の身体は他の覚醒者と随分違っている。面倒ごとの気配しかない。ならどうする?



「リリアはどうする?」

「少し考えていましたが、多分私たちはかなり珍しいタイプっぽいんですよね」

「そりゃ俺も思ったな」

「どうします? どこかのギルドに入りたいです?」

「……こういう逃げ場をなくすようなやり方は正直嫌いだ。だが――」



 俺がそう言いかけるとリリアは笑った。


 

「なら必要な話を聞いてここから離れちゃいますか」

「おい、いいのかよ。俺はともかくリリアは……」

「正直他の人は怖いんです。なんていうか短い付き合いでしたけどディズ君は良い人だと思います。でも他の人はまだ信用できないんですよね。なら欲しい情報だけ仕入れて後で考えましょう。幸いこの辺りに危険はないようですしね」

「そうだな。最悪変な野郎が来ても俺が何とかしてやる。それでどうするよ? 誰に話をきくんだ」


 俺がそう聞くとリリアはニヤリと笑った。



「キーウさんです。勧誘はしないと言ってましたし何かしら聞けば教えてくれるかもです」

「なるほど、じゃいこうぜ。リリアは俺の後ろに隠れてろ」

「うーん。ではお言葉に甘えて」

 

 そういうと俺の首の後ろにある鎧の隙間に収まるように身体を隠した。

 


 すぐ移動するか。キーウは……公園の端に移動して煙草を吸っている。っていうか煙草もあるのか。俺たちが近くまで来るとキーウはこちらを睨むように見ている。なんだ、随分警戒されてるな。




「君か。まあいい。どのみち話してみたいと思っていた。それで何者だい? 12月ノ国で見たことがない。他国の覚醒者か? 1月ノ国じゃない。まさか11月ノ国かな」




 1月に11月だと? ほかにも国があるってのかよ。




「何か勘違いをしているみたいですが、俺はついさっきこの世界に来たばかりの覚醒者って奴ですよ」 

「何? いやそういう事もあるのか。確かによく考えたら今は他国との移動は不可能に近い。ここまで目立つ覚醒者を見たことがないことも考えると確かに新規の覚醒者と考えるべきか」

「移動が出来ない? どういう意味なんです。普通に移動すればいいんじゃないですか」

「見えるかい? 向こう側だ」



 そういうと遥か向こうを指さした。何も見えない。何かあるのか?




「見えないだろうけど壁があるんだ。不可侵、そして破壊不能の壁だ。それが第10階層まで続いている。だから他国へ移動しようと思ったら第9階層まで行く必要があるんだよ」


 ん、でもさっきは他国に移動できないっていってなかったか?


 

「でも今はそこまで移動出来ないって言って……」

「ああ。無理だ。おかげで私も母国に戻れず困っている。それで何か聞きたい事でもあるのか? その様子から見てギルドに入りたいって雰囲気じゃないね」



 話が早くて助かるな。




「くく警戒しているね。いいんじゃないか。そうだね、君名前は?」

「ディズです」

「私はリリアです!」



 後ろに隠れていたリリアが俺の頭に乗り出してきた。



「こりゃ驚いた。妖精か。参ったね勧誘したくなる」

「いやお断りです」

「だろうね。でもここで知り合えただけでも今回来たかいがあったな。気を付けなさい。君も人の事を言えないだろうが覚醒者にもいくつかタイプがある。その中でも幻想タイプはかなりレアだ。その様子から見てここへ来るまでに手ひどい勧誘を受けたんじゃないかな?」



 ふうん。覚醒者にも種類があるのか。確かに見た感じ動物や虫なんかが多い。なら幻想タイプって奴は何かあるって事か。

 


「君の包帯の中も気になるね。どうだい。2つなんでも質問に答えよう。だからその包帯の中が知りたいな」

「……何でだ? 普通の人の顔の可能性だってあるでしょう」

「いやそれはない。完全な人の姿をした覚醒者を見たことがない。逆にそれならそれで非常に興味深い所だ。私が所属するギルド月桂樹はタナトス内の情報を集めていてね。すべての国にギルドメンバーがいるんだ」



 2つ。この骸骨頭にどんな情報の価値があるか分からないけど、今は何でも情報を仕入れたい。




「なぜ2つなんです?」

「君たちは2人組だろう」

「ああ。なるほど」




 つまり俺とリリアで1つずつ質問って事か。




「リリア。俺はそういう考えるのは苦手なんだ。だから質問は全部リリアに任せていいか」

「いいんです?」

「ああ、構わねぇ」

「ならキーウさん。幻想術ファンタズマってどうやって覚えるんです?」

 



 リリアの質問にキーウは今度こそ目を大きく見開いた。




「驚いたな。来たばかりの初心者から出る言葉ではないよ。なぜそれを知っている?」

「それを答えたら質問を増やしていいです?」

「……いいだろう。幻想術ファンタズマは覚醒者が使う能力の事だ。ナイトメアを見たことは?」

「スライムみたいな奴なら」


 そこは俺が答えた。

 

「ああ。あれは安全に倒せるだろう。なら色を覚えているね。漆黒のような色をしていたはずだ。その生き物がナイトメアだ。形は様々だが凶暴な奴はとことん凶暴だ。そしてナイトメアを倒すとフラグメントというキューブをドロップする。それを一定数体内に入れる事によって発現する。それが幻想術ファンタズマという力だ。もっともどの程度獲得すれば力が発現するかは個体による。青い奴だと大体100個くらいだったかな? 強いナイトメアから出るフラグメントなら話は別だがね」



 なるほど。ゲームで言う所の経験値みたいなものなのか。いや待て。なら何で俺は最初から使えるんだ?



「それでなぜ幻想術ファンタズマを知っているんだい」

「……リリアが夜魔湖というギルドのメンバーに追われてたんだ。それでそいつらそんな言葉を使ってたんだよ」

「なるほど……よりによって夜魔湖か」




 その反応からすると面倒なギルドだったらしい。自分から喧嘩は売りたくないんだが、襲ってきたらまた返り討ちにしてやる。





「面倒なギルドなんです?」

「それが質問かな」

「ならやめておきます」

「はあ。……有望な新人を潰すのは避けたいしいいよ。おまけで教えてやろう。夜魔湖は現在12月ノ国を最前線で戦っている武闘派ギルドの1つだ。とにかく血の気が多いことで有名でね。まあ近づかないようにすることをお勧めするよ。それにしてもよく逃げられたね」

「それにしちゃ妙に弱かったんだが……」

「あそこは人数が多いからね。覚醒者の質もばらつきはあるだろう。それにしてもなるほどね……」





 さて、質問はあと2つか。リリアはなんて質問をするんだろうか。



 

 

「じゃ、キーウさん次の質問です」

「なんだい」






「仲間を見つける事がこの国で生き残るための必須条件。そう言っていましたね。なぜではなく、、なんでしょうか。その理由を欲しいです」


 

 リリアがそういうとキーウは少し驚いたように、だがどこか嬉しそうにニヤリと笑った。

 

 

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