第4話 説明会

「そこでいいか?」

「ええ、そのまま進んでください」



 由井浜は俺の頭の上に乗っている。話し合った結果、俺たちは一ノ瀬公園に行く事になった。一応警戒する必要はあるけど行かないと情報が集まらない。なら行って情報を集めた方がいいだろうって事になった。



 特にあの力。



「それにしても気になりますね。私も崇君と同じような魔法が使えるって事なんでしょうか」

「あいつらは魔法じゃなくて、確か……幻想術ファンタズマって言ってたな」

「似たようなもんじゃないです?」

「魔法って呪文とか唱えるんじゃねぇの? 俺何もしてねぇぜ」


 漫画やアニメなんかの魔法を想像するとそういうイメージがある。



「ちっちっち。それは古いですよ。最近はどうみても超能力やんけって力も魔法で片付けられるケースがあります。だから私の考えとしてはこの世界では魔法を幻想術ファンタズマって呼んでるのかもです」

「なるほど……」



 別に俺だけの特別な力だとは思っていない。この世界にない力なら幻想術ファンタズマなんて名前はついていないはずだ。という事は全員が使えるものって考えた方がいいか。



「私の予想だと人によってその能力が違うんじゃなかって思うんですよね。ほらお決まりのパターンって奴ですよ」

「ああ。漫画でよくある奴か」


 

 そんな話をしながら歩いていると公園に到着した。元々はボロボロのアパートが何棟かあった場所だったのだがそれが取り壊されて大きな公園になった。ぐるっと一周できるように道が整備されており、至る所に遊具が置いてある。そして中央には大きな芝生がある結構広めの公園だ。




「いやがるな。ただなんつうか……」

「えーっと、犬、猫に……うわ大きな鳥だ。それにうえぇ虫ですよあれ!? しかもデカいやつ! あと……ん、ゴブリン? あれは豚っていうかオーク?」



 思ったよりバラエティ豊かだ。全員バラバラってわけじゃない。動物や鳥、虫の姿をした人が大半を占めている。由井浜の言ったゴブリンやオークっぽいのはそれぞれ1人だけだ。



 何やらザワザワとしながら何故か皆ここへ集まっている。一体なんでだ?



 そう思っているとまた誰かが現れた。でも今度現れた人は今集まっている人たちと随分違う。なんていうか、そうだ。人間っぽいのだ。よく見れば頭だけ動物だったり、耳や口だけが動物みたいになっていたりする人もいるがそれでも広場に集まっている人たちに比べると全然違う。そしてこちらを値踏みするように見ている気がした。




「さて、一旦ここまでかな?」




 集まっている人々はゴブリンやオークを除いてみな人の形をしていない。だから必然的に見上げるような形でその人に注目している。

 その人は大きな黒い羽を背中につけ、口元に鋭い嘴をつけている。なんていうか鴉っぽい奴だった。



「はじめまして。私の名前はキーウ。ああ、もちろん偽名だよ。本名じゃない。ただこの世界ではキーウと名乗っている。皆も偽名を用意する事をお勧めするよ。さてここに集まって貰ったのは他でもない。現状を正しく理解してもらうためだ」

「それより!!」



 そう叫んだ奴がいる。昆虫の姿をしている奴だ。



「さっさと元の世界に戻る方法を教えてくれ! なんなんだよ、この身体は!!」


 あの人の姿からするとカブトムシだろうか。虫ってだけで苦手な人は苦手だよなぁ。そう思っているとあのキーウという人は一瞥だけしてまた視線を全体に向ける。



「ここへ来る途中説明したはずだ。まず黙ってきいてくれ。1人1人丁寧に説明している余裕が我々にはない。まずはっきりさせておこう。こうして初めてこの世界に訪れた貴方たちに懇切丁寧に事情を説明するのは我々の善意によるものだ。本来説明の義理も義務もない。そして今ここで私が説明している事を少し離れた複数個所で行われている。それほど大きな規模でこの集まりを企画しているんだ。もちろん君たちが聞きたいことをちゃんと説明する。だから――」



 そこまで言ってキーウはさっきのカブトムシの人に視線を向ける。




「黙って聞いていなさい。次騒いだらここから追い出すから他所の説明会に行きなさい。もっとも道案内までするつもりはないがね。いいかな」

「ッ――くそ」



 まだ何か言いたそうだがカブトムシの人は黙ってしまった。



「さて。再開しよう。でもそうだね。先に聞きたいことを話しておこう。まず皆がもっとも気になっているだろう事。元の世界への戻り方だ」




 いきなり来た。確かに一番気になる話だ。情報の格差から考えて向こうが主導権を握っているのは当然だ。この集まりが何だかわからねぇが元の世界の戻り方なんて一番の餌のはずだ。こっちをいいように使うつもりなら出し渋りそうだけど……本当に善意なのか?




「元の世界への戻り方。大きく分けて2つある」



 そういって指を二本立てた。




「この世界で寝るか、死ぬかだ」





 ――待て、待て待て。どういう事だ? 寝るか死ぬだと?




「崇君今のって……」

「今は黙って聞いておこうぜ」




 今の話を聞いてみんな騒がしくなった。そりゃそうだ。言っている意味がよくわからない。




「この世界は夢の世界。我々はここをタナトスの夢界むかいと呼んでいる。そしてこの場所はタナトス12月ノ国の第13階層。そしてつまり君たちは12月ノ国の第13覚醒者という事になる」




 くそ、一気に情報量が増えたぞ。タナトスの夢界に12月ノ国だって? いやでも確かにあのネズミとカエルが覚醒者とかそんな事を言っていたな。



「さて。1つずつ説明するね。まずこの世界から元の現実へ戻る方法。簡単なものは寝る事。この世界で寝ると元の世界で目が覚める。



 寝ると世界が入れ替わるって事か。それに今の話から考えて今後も寝るとこっちへ来るという事になるのか?



「そして死ぬという方法。これもシンプルだ。死んだ時点で現実世界へ戻る。そして次に現実世界で寝た時にまたこの世界へ戻ってくる事になる。ただし――すべて無くしてだ」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。死んだら終わりって訳じゃないのか……? 現実で死ぬってことじゃ無いんだな!?」

「……このくらいの質問はいいかな。そうだよ。そういう意味だと死んでも大丈夫だ。でもこの世界から解放されるということでは無い。そして当然だけど死ぬという方法は極力避けるべきものだ。詳しくは誰かに聞いてほしいけど死んだらすべてを失う。ここで過ごした経験も、記憶も、力も、すべてだ。また訳も分からずここが何処かも分からない、そんな状態になるんだ。はっきり言って貴方たちが想像する以上にかなりキツイ。仲間がいればそれを回避する方法もあるけど正直お勧めしない。……そうだね1つはっきりさせておこうか。仮に今日死んだとしても明日またこの世界へ来たときに親切にこの世界の説明をしてくれる人がいるとは思わないで欲しい。今日ここへこうやって集まったのは本当にただのボランティアでしかない。無意味に過ごし死んでいくような事を避けるために仕方なく各ギルドから有志を募って集まっている」




 ここで死んでも現実で死ぬわけじゃない。その事実に俺はほっとした。ならあのカエルも死んでないはずだ。ただ、思ったよりかなり面倒な事になっていやがるな。




 キーウという奴。それに周囲で黙ってこちらを見ている他の奴ら。そうだ。俺らを囲むように色んな連中がこちらを見てやがる。なんだ。ただ説明だけしようって雰囲気じゃねぇぞ。




「このタナトスという世界にはナイトメアと呼ばれる魔物がいる。ここは一番浅い13階層だから弱いナイトメアしかいないけど、奥へ行くほど強いナイトメアがうようよしている。そして3カ月ごとにスタンピードと呼ばれるナイトメアの暴走が起こる。次に起きるのは3月末頃だ。この期間は約1週間。はっきり言って覚醒したばかりの者たちはここで毎回死亡する。だから戦う力と仲間が見つけることが最優先になる。さて――必要最低限は説明した。ここからは選択の時間だ」






「ああ。これそういう流れですね」

「何かわかったのか?」

「多分すぐ説明されるです」



 由井浜何か気づいたらしい。だが俺はさっぱりだ。



「ここは安全な夢の世界ではない。それを理解した賢い皆ならもう気づいているだろう。仲間を見つけるのがこの国で生き残るための必須条件だ。そして君たちは運がいい。ここにこの国で生き残った数々のギルドの代表たちが来ている。さあ、どこに所属するか選ぶんだ。そこでより詳しく生き残るための知識と力を身に付ける事ができるだろう!」



 ああ、そういう事か。これはあのネズミとカエル達がやろうとしている事と同じギルド勧誘への誘導か。


 


 

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