第3話 自己紹介
地面に腰を下ろししばらくすると気絶していた妖精の子が目を覚ました。
「あれ、ここは――そうだ。私寝てたら変な場所に来てて……変なネズミとカエルに追いかけられて……夢? いやそのあと怖い骸骨の人とあったような……ってまだいるぅ!!!」
思ったより元気な子だな。
「まあまあ落ち着け。もう大丈夫だから」
「大丈夫じゃないですぅ! 食べられる! あ、ダメ腰が抜けて動けない……食べられちゃう。私かわいいからげへへって言いながら食べられちゃう!!!」
マジで元気な子だな。
「食べねぇよ!っていうか俺そんなに怖いか!?」
「怖いです! 骸骨ですよ? なんか目が光ってますし!」
「ああくそ! あ、そうだ。ちょっと待ってろ」
俺は腰にある革袋から包帯を取り出す。これで顔を隠せばいいと思ったのだ。幸い包帯は新品だし、どういう分けかこの骨の身体は触っても痛みはない。普通の皮膚とおんなじ感じがする。だからそのまま顔を隠すように包帯を巻いた。目まで隠すとさすがに前が見えないかなと思ったけどどういう分けか包帯で覆ってもよく見える。この辺は本当に意味がわからん。
「よしできた。ほらどうだ?」
「おおー。それなら怖くないです」
「……そりゃよかった……」
いやこれでいいんかよ。包帯まみれの男も結構怖くないか?
「あ、そうだ。骸骨さん。なんか私へんなネズミとカエルに追われてたんです! こっちに来ませんでしたか?」
「あ、ああ。うん、来たけどなんか俺を見て……」
なんていえばいいんだ。殺してしまったなんて言えねぇぞ。そう悩んでいると妖精は勝手に何か納得した様子で頷いていた。
「ああ。なるほど。骸骨さんの顔怖いですもんね。そのまま逃げてしまったと……」
「ちょっと違うけど……まあいいや。それより聞きたいことがあるんだ」
「……はい。なんです?」
「ここどこよ?」
「へ……そういえばここどこです!? 夢じゃない? ならなんで私こんな姿にいいい!?」
やっぱりか。あの二人組は何か知っている様子だったけどこの子は何も知らないみたいだ。
「俺も多分お前と同じ境遇なんだ。なぁ提案なんだけどよ。ちょっと情報交換しねぇか?」
「そ、そうですね。でも私何も知らないですよ?」
「何でもいいんだよ。マジで分からない事だらけだしさ。まず俺から話すか」
俺は自宅のベッドで寝ていたはずなのにいきなりこんな姿で外にいたこと。黒いスライムがいたこと。倒したら包帯を落としたこと。そして悲鳴が聞こえてここへ来たことを説明した。
ただこの世界に昔来たことがあるような気がするという話はしていない。俺自身明確に覚えていないし話すと余計混乱する気がしたからだ。
「な、なるほど……。私も似たような感じです。ベッドでスマホを触っていて気が付いたらこんな姿で外にいました。最初は夢だと思って、空を飛んで自由にどこへでも行けるのが楽しくて散歩のつもりで飛んでいたんです。そうしたら……」
あの二人が現れたってことか。
「なんで追いかけられていたんだ」
「私を見るなり、レア個体だって騒いでて。近くに来て俺たちと一緒に来いって言われたんです。なんなんですかって質問したら、とにかく来い、これで俺たちのノルマもクリアできるし褒美ももらえるかもって言ってて、怖くて私逃げちゃったんです。そうしたら追いかけてきて、それで……」
そういいながら両手で身体を抱きしめている。怖かったんだろう。そう思うとあの決断は間違っていなかったって思えて少しほっとした。
「あ、そういえば……」
「ほかに何かあるの?」
「確か、あっちの方にある公園に沢山動物がいたんです。それに人の姿みたいなのも……今思うとあれも私たちと同じような人なんでしょうか」
指をさした方向を見る。確かにあの方角に大きな公園があったはずだ。確か――。
「一ノ瀬公園か?」
「そ、それです! あれ骸骨さん。この辺の人です?」
「ああ。近くの高校に通ってる」
「ええ!? も、もしかして海仙高校ですか……?」
「んん、もしかして――」
「わ、私そこの2年生です……」
同じ高校に通ってたぁぁ!? しかも先輩だと? 年上ならしゃあねぇ敬語使うか。
「俺、1年になります……」
「お、後輩君でしたか! なんだ、急に安心しましたよ」
そういうとようやく笑顔を見せてくれた。やっぱりまだ警戒はされていたんだな。
「それでどうします先輩。一緒に公園の方へ行ってみますか? 何かわかるかもしれないですよ」
「そうですね。そうしましょうか。あ、それと!」
先輩は小さな手を上に伸ばす。
「遅くなりましたがさっきはありがとうございます。びっくりして気を失ってましたけどきっと骸骨君が守ってくれたんですよね」
「いえ……大したことはしてないですよ」
「流石にわかります。こんな姿ですけどもう17歳ですよ? あれを見ればひと悶着あったんだろうとは想像できますよ」
そういって向ける視線の先には抉れたコンクリートに破壊された壁があった。
ああ、流石にあんな光景を見れば気づくか。
「だからありがとうございます。さていつまでも骸骨君っていうのもアレですね。名前はなんです? 私は
「俺は
「はい。崇君ですね、あれ……どこかで聞いたことあるような……まあいいでしょう! よろしくです。あ、敬語は必要ないですよ? なんていうかその見た目で敬語で話されると全身が痒くなりますし!」
「流石に先輩にそういうのは……好きじゃねぇんだがまあいいか。じゃあ由井浜さん」
「呼び捨てにしてください! やっぱり違和感がぱねぇです!」
「えぇ……じゃ由井浜。出来ればそっちの敬語もやめてくれ」
「私のは癖みたいなもんです。きにしねぇでください」
「なんじゃそりゃ……」
「はははは、崇君って面白い子ですね」
「あんたに言われたくねぇ!?」
他愛ない話をしながらも俺はどこかほっとしていた。 このまだ分からない事が多い世界で、俺は現実とは違い、気楽に話してくれる人をみつけて俺は少し嬉しかった。
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