断章二
六月二十五日、午前二時過ぎ。
私たち三人は、真夜中の山道を登っていた。
風は生ぬるい。草木や土は、ぷぅんと強く香る。近くの茂みでガサゴソ音がするたび、私は身を竦めた。
昨日までの長雨のため、山道はずいぶんと
それでも私たちは心許ない明かりを頼りに、暗い山道を歩きつづけた。
先頭を行くミカの息も、私同様に荒くなっている。あの真新しかった靴は、とっくに泥だらけだろう。
「あと……どれくらい?」
そう訊ねると彼女は少し間を置き、硬い声で「もう少し」と答えた。
一時間ほど前と同じセリフ。それでも私は、迷いなく進むミカを信じ、ついていく以外なかった。
彼の方はといえば。もう、なにも口にしない。ずっと無言を貫いている。私とミカの選択に身を委ねている。
「もう少し」
再びミカが繰り返した。山道に喘ぐ私や、彼に向かってというよりは、自分自身に言い聞かせているような声音だった。
「もう少しだから」
私たちは三人で、ともに登っていた。
次の更新予定
ロリポップ・ローティーン 渡馬桜丸 @tovanaonobu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ロリポップ・ローティーンの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
シュヴァリエ―リオンの理由―/渡馬桜丸
★0 二次創作:第2回冲方塾対象… 連載中 2話
シュヴァリエ―アニーの理由―/渡馬桜丸
★0 二次創作:第2回冲方塾対象… 連載中 2話
アンドリュー博士の妄執/渡馬桜丸
★0 二次創作:第2回冲方塾対象… 連載中 4話
子羊の再演―プロローグ―/渡馬桜丸
★0 二次創作:第2回冲方塾対象… 完結済 2話
sting/渡馬桜丸
★3 二次創作:第2回冲方塾対象… 完結済 2話
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます