一章幕間「一方その頃、地上では」

「支部長! これ! 見てください!」


 ギルド池袋支部、二十階で、受付嬢がノックも無しに支部長室に踏み入ってくる。

 大多野は、受付嬢の青ざめた顔を見て、状況の深刻さを察して答えた。


「なんだ、何事だよ」

「大変なんです! これです、これ!」


 言って受付嬢は、手にしたスマホの画面を大多野に見せる。


「なんだよ、仕事中に動画か?」

「いや! そんなことはどうでもいいんですよ!」


 どうでもいいことはない、と思うのだが。

 大多野は、視線を下げてスマホの画面へ。


「あぁ──? なんだこれ、どうなってる」


 困惑する大多野に、受付嬢が声を上げる。


「これ……クエスト出した方がいいんじゃ……」

「そうだな、事務員にも周知しろ、俺は……、エントランスで直接協力を仰ぐ」


 支部長室を飛び出して、エレベーターホールに走る。

 乗り込むと、ボタンを連打した。


 実力不足は確かだ。だからこそ、二人で行かせた。

 それが分断されている様子だったのだ。

 虎雄は、オーナーを追ってホールを抜け出し、日夏はホールに残っている。

 スマホの配信からでは、日夏の状況がわからないのだ。


 エレベーターを降りる。

 そして受付カウンターからバタンと扉を乱暴に開けて、飛び出して周りに目を向けた。


「……誰なら、いい……?」


 虎雄と関わりたいと思う配信者なんてそういない。

 だからと言って、騙すのは筋違いだった。

 そんな時、背後から声が鳴る。


「支部長! できました! 緊急クエストです」


 報告してきたのは、支部長室に乗り込んできた受付嬢だった。


“【緊急依頼:ヒナチャンネル、デッドマンチャンネル捜索】”


 依頼分のタイトルもそうだが、何より報酬金額の三千万円が気になる。


「おい、こんな金額出せないぞ……」

「大丈夫です、この二人がうまくいけば、三千万円なんて余裕で回収できます!」


 何を根拠に言っているのだか、しかしこれなら食いつく探索者もいるかもしれない。

 大多野はその眼光で、辺りを見渡す。


「え? なに、エントランスでなんかあった?」

「あれ、大多野支部長じゃね?」

「まじ? あの剣聖?」


 そんな声が周囲から漏れ始めたとき、大多野は背後に気配を感じて振り返る。


「おお! お前、インフェルノとかいう坊主か!」

「……え? は、はい、ひぃ!」


 大多野はガシッと肩を掴む。

 そして尋ねた。


「いつも一緒にいる保護者は? どこにいるんだ! 緊急事態なんだ!」


 春太は、おずおずとカウンターで仕事の依頼を受けている井戸部を指差した。


「おい!! 井戸部!!」


 エントランス全体に響き渡るような声で、井戸部を呼び出す大多野。

 ギョッとしてこちらを向くと、依頼の手続きをする受付嬢に何度も頭を下げてから、大多野に近づいてくる。


「し、支部長殿。どうしたのですか……?」


 その目は怪しげな何かを見るような目をしていた。

 でも否定しきれない部分があるから、追求できないだろう。


「井戸部、これをお願いしたいんだ!」


 言って深く頭を下げた。


 大多野は普段から意識的にしていることがいくつかある。

 その中に、人に頭を下げない。というのがある。その言葉だけ聞けば、傲慢極まりないものだが、大多野なりの理念がある。

 それは、伝説として存在する大多野、故のものだ。


 探索者の代表として、人を助ける存在であり、人に助けられる存在にはならない。


 と、いうものだ。

 しかし、今はそんなことを気にしている状況にない。


「頼む! 依頼を受けて今から出発してくれ!」

「いやいや、頭を下げないでください! 周りが恐縮しています」

「頼む! 受けてくれ!」


 上下関係を重んじる井戸部が、それを最も嫌がることも知っている。

 だが、これが急を要する案件だと知ってもらうには、一番適していた。


「──わかりました! わかりましたから、頭を上げてください!」

「いいのか? ありがとう、そうしたらメンバーの人選は任せる、詳細は彼女から聞いてくれ!」

「へ……?」


 いうと、大多野は、受付嬢を前に出す。

 そして続けた。


「そうだ、十分で準備してくれ! 頼むな!」


 言って大多野は、その場から去っていく。

 訳もわからず捕まった数人を残して。


──────────────────────────────────────


 ここまで読んでいただきありがとうございます。

 この先は、ラストまで一気に駆け抜けていく予定となっています。

 楽しんでいただけると嬉しいです。


 今後ともよろしくお願いします!



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