一章15話「オークション潜入作戦1」
中層深部オークション会場、関係者入り口にて。
真っ赤なタキシード姿に、怪しげなサングラスをかけた老人風の小男が、傷だらけの体を鎖で繋がれた奴隷のような男たちに、指示を与えている。
「おい! クズ共、そこの椅子はもう少し前だろうが!」
言って、先の尖ったステッキでチクチクと、奴隷たちを刺しつけた。
「あああ! すみません、ご主人様!」
ご主人様と呼ばれる男は、次はステッキで力一杯に叩き始めた。
「お前たちがっ──! グズでっ──! ノロマでっ──! どうしようもないクズでもっ──! 私様が面倒を見てやってるから生きていられることを忘れるんじゃねぇっ──!」
五回の棒打ちで、ヒイヒイと息を切らすご主人様。
叩かれていた奴隷は、蹲って動こうとしない。
「なに、転がってるっ──!」
今度はその短い足で蹴り付けた。
しかし、一向に動く気配がない。小柄なご主人は、何かを察したように、他の奴隷に声をかける。
「おい、クズ!」
すると、場にいた残り四人の奴隷が一斉に振り向く。
「誰でもいい、このゴミを処分しておけ」
主人の言葉に、各々が唇を噛み締めたり、涙を流したりといった反応を隠すように俯きながら、押し黙って仲間の死体を運び出す。
「クズ共がっ。犯行的で、私様は機嫌が悪くなった。──あとはお前に任せるぞ!」
いうと、ステージでスポットライトの調整を行っているスーツの少年を見た。
目が合うと、スーツの少年は、その金髪の頭を深々と下げる。
それを見て、小男は満足げに、足を控え室へ向けた。
◇ ◇ ◇
一方、虎雄は日夏と共に、関係者との待ち合わせ場所で待機して、十五分が経とうとしていた。
「来ないですね……。目的バレたとか?」
「ちゃんと品は用意してるんだし、嘘はついてないわよ」
平然と言う日夏に、怪訝な顔を向けたその時だった。
「あ、遅くなりました」
現れたのは随分とガリガリな優男。
ニコリと笑っても、顔の青白さが気になってしまう。
「いえいえ、えっと会場というのはどちらに?」
「そうですね、でも、その前に……。商品の確認だけさせてもらってもよろしいでしょうか?」
言われた日夏は、あらかじめ用意していた、鉄製の右腕を差し出した。
「え? は? それ……」
虎雄はかなり見覚えのある“それ”を、思わず掴んだ。
差し出している手は、力強くその義手を離そうとしない。
「なによ、黙りなさい」
まだなにも言ってない。言うつもりではいたが、しょんぼりと義手のスペアを見送る虎雄。
「はい、お預かりしますね」
そういう優男は、義手を手に、カチカチと調整したり、仕込みの可変武器を出し入れしたりと、色々いじり倒した。
「……面白い品です。これは武器搭載型の義手ですか」
「そうですね、知り合いから高値で仕入れたので、オークションにどうか、と思いまして」
目の前で交渉する女は、ペラペラと嘘が滝のように流れ出てくる。
虎雄は感心する反面、少し怖くもあった。
知らないうちに騙されてはいないかと。
「そちらの方の、仮面はお売りにならないのですか?」
「ふぇ──?!」
間抜けな声が飛び出す。
まさかこちらに話が振られるとは思いもしなかったのだ。
「い、いえ、商売道具な物で」
「随分と正直な方ですね、面白いです。いいでしょう、会場へ案内いたします」
「は、はぁ……」
関係者は、言うと案内を始めた。
「こちらです」
待ち合わせ場所から、五分ほどの場所だった。
どうやら仕掛け扉になっている岩から、中に入ることができるらしい。
そしてそこからエレベーターで下るのだ。
オークション会場について、虎雄は思う。
(これ、闘技場の跡じゃないか?)
フィールドになっていた場所はステージとして使われ、円形の観客席は、ステージと繋がる階段状の造りに変化していた。
言うなればオークションホールといった具合に、姿を変えていた。
隣で目を丸くする日夏も、気がついたらしい。
虎雄は彼女の耳元に寄って囁く。
「これ、ドラゴンのやつですよね?」
「えぇ、そうみたいね。赤竜はどこに行ったのかしら……」
彼女は不穏なことを言う。
ドラゴンなんて戻ってきた日には、きっと今度こそ死んでしまう。
命懸けなんてもんじゃ効かない、まさに一方的な暴力だったのだから。
瞼の裏に浮かぶ、暴虐の竜を、頭を振るいかき消す。
それからオークションホールの客席に目を向けた。
「なんか人少なくないですか?」
「そりゃ、そうでしょ」
関係者の男の話だと、開始時間が押しているらしく、今は開始の二時間前。
客席にはちらほらと、探索者の姿が見える程度だった。
二人は会場全体が見渡せる最後部の席に座る。
虎雄は、仮面の横にあるボタンを押してから、スマホに指を滑らせた。
画面には視界に映っている物が映像として映し出されている。
ギルドの技術力はどうなっているのやら、欲しいものを言えば、なんでも作ってもらえるなんて、まるでドラ○もんのようだ。
差し詰め、【カメラ
仮面の縁に取り付けられた、ボタンで停止、撮影、配信。と切り替えることができるようになっている。
すると、会場の正面扉から、顔を見たことのある男が入ってきた。
「ねね、日夏さん」
虎雄はコソコソと声を飛ばす。
「……なによ」
「いや、あの今入ってきた金髪男。どっかで見たことある気がして……」
どこで見たか思い出すことができない。
でも確実に見ている。
確か、配信サイトで……。
思い出そうとする虎雄の横で、口に手を当てる日夏。
「え? どうしました?」
「レイヴのリーダーよ。アレ」
言われて思い出した。
チャンネル登録者七十万人の、ギルドに所属しないダンジョン配信者集団【レイヴ】。三人組のアイドルユニットとして活動する一方で、頻繁にダンジョン配信をする探索者でもあった。
メンバーは、小柄なリーダーのリク。美形で蠱惑的な魅力を持つウミ。熱血漢でボケ担当のソラ。
ダンジョン配信者としての実力も相当らしい。
「え! マジ?」
思わず漏れた声を、必死に手で覆うが遅かった。
観客席は、リクを含めて視線が集まってしまう。
虎雄はペコペコと頭を下げながら言った。
「すんません、すんません」
そして座り込むと、脇腹に肘打ちが入った。
「痛っ……、すみません」
「もう声出さないで」
日夏に怒られて、お口チャックで静かにする。
そのまま時間は過ぎていき、観客席はほぼ満席というぐらいに埋まっていた。
そして、オークションの開始を告げるように、先ほどの優男がステージに顔を出す。
「皆さん、今日はお集まりいただき、ありがとうございます。初めての方も何人か居られますので、オークションの説明から行わせていただきます」
優男の言葉と共に、会場が張り詰める。
ついにオークションが始まるのだ。
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