からかわないでよ

大星雲進次郎

からかわないでよ

「おはようございますですわ!」

 私の朝の挨拶がフロアに響きわたる。清々しい朝ですわ!

 昨日、何とはなしに家系を調べてみた。そしたら結構良いとこのお嬢様であるはずだった私。まあ、落ちぶれてこんな会社に入らなければ、先輩とも会うことは出来なかっただろうから、結果オーライという奴ではある。……ますわ。

 だからそれに見合った話し方というものがあるのですわ。私だけではなく、会社の皆様にも。

 フロアを見渡すと、なかなかどうして、皆さんキャラが濃いですわね。先ずは役職というのが分かりやすくて良いですわ。

 部長は「めった」。何かで聞いたことがありますわ。おい!課長君お茶が温いでめった!止めておこうですわ。あの人お堅いんですもの。

 課長は当然「ゲス」。部長!これ間違ってるでゲス!ああ、合う合う。ちなみに課長はすごく良い人だ。仕事も思いやりも人三倍くらいのイケオジ。でもあなたが課長だから悪いんですわのよ!

  

 先輩はそうね、「ヤンス」とか「ゴンス」で良いと思うわ。だって平民なんですもの!

 今日の昼飯は、餃子定食でヤンス!そのまんま先輩だわ。でも私、「飯」って言い方イヤのよね。しかも餃子……私を何だと思っているんだろう!

「先輩、本当に困った方ですわね!」

「え?おはよう?」

「おはようございあそばせ!」

「今日も朝から飛ばしてんな!元気の秘訣はなんだ?」

 先輩に逢えるからです!当たり前だぁ!

「それは、乙女の秘密ですわ!それより、先輩の語尾は「ヤンス」ですわよ?」

「俺、そんな小物扱いなの?お前の中では……上位認定されてると思ってたんだけど」

「でも!先輩は平民だし……」

 先輩が分かっていない感を出してくる。

「お前たち、仲良しなのは良いが、朝礼の時間だぞ。席に戻れ」 

 違うでしょ?

「課長の語尾は「ゲス」ですよ?……それで、部長は「めった」が語尾なんです、のよ」

 ダメダメ、私朝礼の間笑わず済むかしら。

「あ、主任はボーイッシュで可愛いから、「っス」が語尾ね」

 朝からなんて楽しいんでしょう! 


「お前、先輩として何とか納めてこい。早退していいから。定時ってことにしといてやるから……」

「はあ……でも今出勤したばっかですよ?」

 あら、悪役感出ちゃってたかしら?お嬢様口調は悪役令嬢と紙一重だからね。それよりも指導せねばなるまい。

「お二方!「ゲス」は?「ヤンス」は?……主任!「っス」に決めたばっかりではなくて?」

 あら課長。朝から胃もたれかしら?課長も若くはないんだから食生活に気をつけて下さいね。

「早く連れて行け……行くゲス」

「繋がりが下手ですわ!」

「……じゃあすんません。あがらせて貰い」

 い、で終わったらきれいに「ヤンス」には繋がりませんですわよ!

「……貰うでヤンス」

 ベリギュー。

「では皆様、ご機嫌あそばせ!」

 先輩に腕を引いて貰ってオフィスから出る瞬間。

「あいつ等はどうしたんだ?」

 部長が訝しげに課長に尋ねると、課長が少し笑ったのをはっきりと見た。


「こんな時間じゃ、店なんか開いてないしな……」

 良いお天気ですわ。先輩と二人で朝の公園、もうこれで十分でございますのに。

「とりあえず、ホテルでも行くか?」

 ニャ、ニャニ?

「そ、そういうことはまだ早いですわ……!」

 あれ?ここは望むところですわ~!っていう勢いでしょ、私!

 ……先輩がニヤニヤしてる。からかわれた。

「ファミレスでも行くか」

「……お嬢様には、カッフェですわよ」

「良いけどよ……そっか、お嬢様ごっこだったんだな」

 ごっこでもなりきりでもありません!

 あと。

「す、好きなのは分かってて下さいね」

 

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