第3話 職員室でパーティ🍖

 一時間ほど待っただろうか。


 俺は心配で教室内をウロウロしていたが、隣から悲鳴のようなものは聞こえない。きっと大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かせていた。


 突然、隣の部屋の扉が開いた。


 驚いたことに、見たこともない艶やかな黒髪の美少女が現れた。


 ——七瀬…… さん?


 どうやら七瀬さんがおさげを解き、メガネを外して、少し化粧をしてきたのだ。まるで別人みたいだ。


 メガネを外した七瀬さんは、真っ白で透き通るような肌、黒目がちの大きな瞳が輝いて見えた。


 ツヤツヤのリップがうっすらと朱に染まり、制服の襟元を少し緩めていた。胸の谷間が見えて、ついドキッとしてしまった。


 息を呑んていた俺に気づいたのか、彼女がもじもじと恥ずかしそうに言った。


「変じゃない? その……初めて化粧したんだけど」


 その声で、俺はようやく彼女が七瀬さんであることを実感できた。普段の地味で真面目な印象からかけ離れた彼女はとても華やかで魅力的に見えた。


「七瀬さん……なの?」


 彼女はうつむきながら、小さくうなずく。その様子がすごく新鮮で、胸がドキドキする。


「だいぶ盛り上がってきたな」

 モニターの男が、不気味なほど満足げに笑みを浮かべながら言った。


「じゃあ、次は職員室に行ってもらおうか」


 俺と七瀬さんは顔を見合わせたが、断る余地はない。仕方なく二人で廊下に出た。


 七瀬さんは緊張しているのか、先ほどとは打って変わり、ピッタリと俺に寄り添うように歩いている。


 彼女が変貌してしまったので、俺は変に意識して距離を取ろうとした。でも逆に七瀬さんはさらに近づいてきて、ぎゅっと腕を組んできた。意外と大きな胸の感触に内心焦った。


 ——こ、これは校則違反だろっ!


「ここだね」


 職員室の扉を開けると、俺たちは思わず声を上げた。


「……何これ、すごい」


 部屋の中には、まるで立食パーティの会場のように豪華な料理が並べられていた。


 香ばしい鶏の丸焼き、しっとりとしたローストビーフ、籠いっぱいのパン、色鮮やかなサラダ、そして宝石のように美しいフルーツやケーキ。料理の香りが鼻をくすぐり、思わず喉が鳴る。


「好きに食べるといい。職員室でパーティなんて、いいアイデアだろう。これも立派な校則違反だな」


 モニターの男の声が響いた。


「食べるだけなら…… まあ、大丈夫かな」俺がそう言うと、七瀬さんは一瞬躊躇した後、こくりとうなずいた。


 俺たちはテーブルに近づき、目の前の料理を一つずつ手に取った。ローストビーフは驚くほど柔らかくてジューシーで、ケーキは甘く口の中に幸せが広がる。


 あまりのおいしさに二人は無言で食べ進めていたが、突然、校内放送が流れた。


「なんか物足りないな。そうだ、いいか、よく聞け、互いに、食べ物を食べさせ合うんだ」


「……え?」びっくりした七瀬さんが俺の顔をじっと見る。


 沈黙が続く中、七瀬さんは黙ってフォークを手に取ると、困惑した表情で見つめていた。そして、決意したように顔を上げる。


「……やるしかないですよね」


 彼女は顔を赤らめながら、一口分のケーキをフォークで差し出してきた。


「はい……あ、あーん……」


 いつもの彼女とギャップがありすぎて、俺はドギマギしたが、彼女の真剣な顔に押され、フォークのケーキを口に入れた。ケーキの甘さが口の中に広がるが、それよりも彼女の視線が気になって仕方ない。


「……おいしいよ」


 俺がそう言うと、彼女はほっとしたように微笑んだ。その笑顔がまた、胸をドキドキさせる。


「あれ…… 食べたいな」


 七瀬さんがぼそっと呟く。俺は慌てて別のケーキをフォークに刺し、彼女に差し出した。


「はい、あーん」


 七瀬さんは嬉しそうに、そして頬をさらに赤く染めながら、ゆっくり口を開けてケーキを食べた。


「おいしい」

「よかった」


 一瞬だけ二人の間に笑みが交わる。その瞬間だけは、校則違反だの不気味な男だの、すべてを忘れていた。


「さて、次の指令だが……」


 モニターの男の声が再び響く。俺たちは顔を引き締め、次の展開に備えた。

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