プロジェクト・カイカ前編 第07輪 | 逢条 陽 vs キサキュウ
4月29日 9:28
喜咲 游(きさき ゆう)。
略して、「キサキュウ」。
その、小動物の鳴き声のような略称が象徴するように、キサキュウは、何とも可愛いらしい「男性」だった。
恐らく160cmくらいの、こじんまりとした体型。
ぱっちりお目目に、くるんとした、つけまつ毛。
髭など一つも生えていない、キラキラにして、ツヤツヤの顔面。
外にぴょんぴょんとハネた、センター分けのミディアム・ヘア。
加えて、髪全体を染め上げる、大胆なレインボー・カラー。
そのレインボー・カラーが思い起こさせるのは、性的マイノリティによる主義主張、および社会運動。
恐らく、キサキュウが纏う七色は、単なるファッションではなく、そうした意味が込められたものなのだろう。
ところでキサキュウも、これまで会ったマンプク、阿片、美究と同様、純白のローブを着用している。
しかし、それらと一線を画するように、そのローブの裾には、虹色のグラデーションが拡がっている。
まるで、キサキュウが、虹の上に佇んでいるかのように。
その華麗なる他との差異は、「教頭先生」であるキサキュウが持つ、特権のようなものを象徴している。
「さあてっ♪それではいきなりですが、即興で1曲失礼しまあす♪」
「・・・ん?」
-キサキュウがあらわれた♪
カイカ・ガッコー、た~い~い~く~か~ん♪
ま~よ~え~る~み~な~さ~ん前にして~♪
生まれるのは~♪
あふれるのは~♪
やさしさと~♪
あったかい~か~ん~じょ~♪
それは~♪
それが~♪
センセー思いの!教頭先生!
キサ~キュ~~~~♪
「皆さん!愛してます♪」
「・・・」
その「愛してます♪」は、大人気女性歌手が、スタジアムの真ん中で、数千人の観客に向けて言い放つ「愛してます♪」だった。
少なくとも、キサキュウの精神の内側においては、そうした世界が完成していると思われた。
そこに生まれ、溢れたのは、やさしさと、あったかいかんじょ~ではない。
戸惑いや、憐れみですらない。
「恐怖」に近い感情だ。
「さあて♪それでは早速ですが!」
-ピン
そこで、後ずさりをするこちらの意識を、むんずと引き戻すように、キサキュウが高らかにその声を上げた。
「ゾーンについて説明できればと思いまあす!」
ゾーン。
さっきのチュートリアルでも、登場した単語。
「ずばりズバっと、文字通りっ♪ゾーンとは、皆さんに「ゾーンに入っていただく」場所でございます!お持ちの才能を、ソラソラに披露いただく環境と言っても良いでしょう♪例えば、バスケット・ボールの才能をお持ちの方は、体育館がご自身のゾーンになるでしょう。科学の才能をお持ちの方は、理科室がゾーンになるかもしれません♪」
そこで、ふと気付いた。
カイカ・ガッコーの説明時に聞いた、空の旅で聞く上品な機内アナウンスのような声と、このキサキュウの声が、同じものであることに。
そうか。
さっきのアナウンスで話していたのは、このキサキュウだったのだ。
「ゾーンには、ご自身の才能を披露いただくにあたり、必要なバーチャル・アイテムをご用意しています♪例えば、絵描きの才能だったら、画材やキャンパス!ボクシングの才能だったら、ボクシング・グローブや架空の対戦相手!ゾーンは、皆さんの才能をキラリと光らせ、その輝きでソラソラを惹きつける場所なのです♪」
ゾーン。
己の才能を、ソラソラに披露する場所。
とすれば恐らく、自分のゾーンは「剣道場」。
キサキュウの言うバーチャル・アイテムは、竹刀や木刀、兜と防具に身を包む対戦相手になるだろう。
「このバーチャル・アイテムはですね、ご自身のゾーンで、両手を斜め上に掲げながら、「サズカル!」と言っていただくと出てきますので!ちなみに、バーチャル・アイテムにも、「サズカリモノ」という正式名称がございます!何故なら、才能って、神様からの「授かりもの」ですから♪あ、ゾーンにソラソラがいないときでも、サズカリモノを常に出し、「ゾーンに入る」ことを心掛けてくださいね♪そのご様子をソラソラが感じ取り、皆さんのゾーンを訪れるかもしれませんので!」
授かりもの。
特に信仰心はないが、才能が「神様から授かりしもの」であるという発想は、なかなかに素敵だと思った。
「さて!皆さんそれぞれが、お持ちの才能。ソラソラには、その才能の「芽」がございます♪すでにご覧いただいた募集要項に、「プロジェクト・カイカへの貢献度により、勝者を選定する」とありましたね?ズバリ申し上げますと!ご自身のゾーンでソラソラを魅了し、ソラソラの才能の芽を、いち早く開花へと導いた方が、プロジェクト・カイカの勝者になるのです♪」
「あの、すんません。質問してもいいですか?」
そこで突如、質問を挟む参加者が現れた。
それに呼応し、黄金色のスポットライトが、その参加者を照らす。
「はい♪何でしょう?」
「では、「ソラソラには剣道の才能も宿っている」、ということで良いんすね?」
自分自身が、一番驚いた。
その質問者が、自分であったことに。
この日まで、何度も頭の中に流れた、ソラソラが剣道に臨む映像。
時として、その映像はぐにゃぐにゃと寄れ曲がり、軌道を失って消えた。
その歪曲と消失が、望まざる結果を示唆するようで、何とも気持ち悪かった。
だから、確かめておかねばならなかった。
その映像が、現実に起こり得るということを。
「ソラソラには、皆さんがお持ちの才能をプログラムしております♪」
自分の焦燥とは対照的に、キサキュウは、まるで子供に絵本でも読み聞かせるように、さっきの言葉をゆっくりと復唱した。
「ですので、ご安心ください♪」
ともあれ、時に不格好に歪み、失われていた映像は、才羽研究所の副所長であるキサキュウの言葉によって補修され、醒めるようなリアリティを帯びた。
「分かりました。ありがとうございます」
ソラソラが、剣道に臨む未来。
その未来が、これまでになく鮮明に頭に浮かぶ。
「はあいっ♪それでは、あらかたゾーンについてご説明したところで、1曲失礼しまあす♪」
-ゾーンのうた♪
ゾ~ン、ゾ~ン、ゾ~~~ンッ♪
入っちゃってるう!
ゾ~ン、ゾ~ン、ゾ~~~ンッ♪
見つめちゃってるう!
ゾ~ン、ゾ~ン、ゾ~~~ンッ♪
溺れちゃってるう!
ゾ~ン、ゾ~ン、ゾ~~~ンッ♪
ビンッビンッに、キちゃってるうう!
あなたが!ゾーンに!入れるっもの!
それこそが!あなたの!才能!
さけぼう!サズカル!
さいのう!カガヤク!
そしたら!きっと!
ソラソラ!めざめる!
花びら!満開!カイカするううう~~う♪
「あはぁっっ、わたくしがゾーンに入っちゃいましたぁ!皆さん、だ・い・す・き♪」
「・・・」
そして、鉛のような沈黙が、体育館を支配した。
4月29日 9:34
喜咲 游。
キサキュウ。
その髪型も、その体型も、その顔立ちも。
ついでに言えば、その名前も。
それら全てが、男女という二極の中間にある、曖昧な領域に位置している。
バイナリーではなく、ファジー。
二者択一ではなく、そこからの逸脱。
キサキュウの全構成要素が、そんな価値観を主張しているようだ。
「はああいっ♪では、説明を再開します!まずは、さっきのアナウンスでも触れました、「センセー」についてから!センセーとは、他ならぬ皆さんのことです♪何せ皆さんは、このカイカ・ガッコーの「生徒」であるソラソラを魅了し、才能の開花へと導く「先生」に他なりませんから♪そして、その皆さんによる「魅了」、および「導き」を、まとめて「教育」と呼ばせていただきます!」
センセーに、教育。
まさか、高校を中退した矢先、教員デビューするとは思わなかった。
ところで先生と言えば、「母校」の間晋経政高校では、生徒を才能の開花に導くような先生に出会うことはなかった。
あそこにいるのは、生徒を社会の歯車と見立て、いちいち規格に沿ってるか検品する、ルール・マニュアル至上主義の、工場員のような教師だけだ。
もっとも、こんな大人になってはならないと思わせてくれる、「反面教師」としては申し分なかったが。
「先ほど申し上げました通り、ソラソラには、皆さんの才能の「芽」が眠っています♪しかし、現時点でソラソラは、それを自覚しておりません。自分に何の才能があるのか知らない、まっさらな状態なのです!言葉を変えれば、プロジェクト・カイカは、皆さんに対して平等にできているのです♪」
平等。
そう言えば、剣道も平等にできている。
大人は大人同士で試合して、男は男同士で試合して、有段者は有段者同士で試合する。
審判は、どちらの選手にも肩入れすることなく、常に公正な判定を心がける。
しかし、そうした平等性は、何も「人類、皆平等であるべき」だとか、高邁な思想に基づいているわけではない。
単に、条件が不平等だと、競争が成り立たない。
だから、わざわざ条件が平等に整えられているのだ。
つまり、その平等性は、競争するお膳立てのようなもの。
キサキュウの「平等」という言葉の裏には、「我々が条件を整えましたから、皆さん、存分に競争してくださいね♪」という含みがある。
そう、思った。
「さて!次の点も重要ですので、よくお聞きになってくださいね♪ソラソラは、まず最初に、皆さんのゾーンを順番に訪れます。分かりやすく、これを「ソラソラの挨拶回り」と呼びましょう。何しろ今日は、ソラソラの登校初日ですから、自分のセンセー全員に、ソラソラが挨拶に回るわけです♪挨拶回りの時間は、各センセーに対し3分。そして、それは逆に、「皆さんがソラソラに対して」挨拶できる時間でもあります。ソラソラに自己紹介をしたり、ご自身の才能を披露したり、その3分間を有効に使ってくださいね♪」
3分間の、ソラソラとの接触。
それは、必ず平等に訪れる。
「しかし、それはあくまで挨拶回りにつき、そこで決着がつくことはありません。それ故に、ソラソラは皆さん全員に、もれなく挨拶することになるのです♪そこでソラソラが刺激を受け、興味や好奇心をそそられれば、皆さんのゾーンにリピートするかもしれません。逆にそうでない場合、二度と訪れない可能性もございます。ですので皆さん、素敵な挨拶になるよう頑張ってくださいね♪」
そこで、質問を投げかける参加者が現れた。
「あの、すいません。質問よろしいでしょうか?」
今回の質問者は、自分ではない。
アコースティック・ギター。
こと、亜桜 ヒビキだ。
4月29日 9:40
「はい、ご質問!どうぞ、是非とも♪」
「挨拶回りの後、ソラソラが自分のゾーンをリピートしてくれたとします。その2度目の来訪で、ソラソラの才能がいきなり開花する可能性はありますか?」
「良いご質問ですねえ♪答えは、イエスです!」
その亜桜の質問からは、「さっさと勝負を決めてやろう」という意図が透けて見えた。
やはり一線級のプロミュージシャンだけあり、相当な自信があるらしい。
「なるほどね。ソラソラの才能は、最短どのくらいの時間で開花するんですか?」
「最短時間がどれくらいという設定は、特にございません♪まずですね、皆さん一人一人に与えられたゾーンは、「皆さんがゾーンに入る場所」であると同時に、「ソラソラがゾーンに入る場所」でもあります。しかし、ソラソラがいつどのようにゾーンに入り、才能を開花させるのかは、私たちにとっても未知なのです。つまり、3日間かかる可能性もあれば、3分間でそれが起こる可能性もあるということです。たった3分間の楽曲が、とある少女に衝撃を与え、ミュージシャンの道に導くことも世の中にありますよね?それとおんなじです♪」
「ふーん、なるほど」
それに対し、不敵な相槌を打つ亜桜。
一体、その腹の内で何を考えているのだろうか。
「あ♪未知であるという点に関連してですが、注意事項が一つ。今から、ちょっとネガティブなことを言いますけれども」
その「ネガティブなこと」とやらが誰の心も傷つかないように、ふわふわのクッション言葉を置いた後、キサキュウは続けた。
「才能の芽は、咲かずに終わる可能性もありますのでご注意を♪皆さんによる教育が十分でない場合、何も開花しないまま終わってしまう可能性もございます。これは現実世界でもよくある、残念なお話ですよね?その場合、申し上げにくいのですが、勝者はなしとなってしまいます!」
勝者、なし。
つまり、全員が敗者となる可能性。
「へえ、そうですか。ただ、その心配は不要だと思います」
「あら♪それは、何故でしょう?」
「必ず、僕が勝つことになるからです。他のセンセーは、相手にならないんで」
一瞬、シンと静まり返る体育館。
その静寂の中に、センセーたちの動揺や警戒が、ぎゅっと凝縮されている気がする。
勿論、自分自身のそれも含めて。
亜桜 ヒビキ。
こいつ、今何て言いやがった?
4月29日 9:42
「うふふ、必ず勝利ですか♪心強いお言葉ですね。是非、ご活躍に期待しています♪」
まるで、無謀な自信に溢れる子供をあやすように。
もしくは、野心ある若者を激励するように。
亜桜の傲岸不遜な勝利宣言にコメントするキサキュウ。
いずれにせよ、亜桜の一言の衝撃は、キサキュウの柔和な応対により、少しだけ和らいだ気がした。
とは言え、これでハッキリとしたではないか。
亜桜は、「新たな世界」を早々に征服しようとする敵。
それも恐らく、かなりの強敵であることが。
「それではここで、プロジェクト・カイカの「ちょっと面白い部分」に触れさせていただきます♪例えばソラソラがAセンセーのゾーンを訪れ、そこで教育がうまく進んだとしますよね?普通に考えれば、それはAセンセー「だけ」にとってのチャンスです」
その、至って普通の説明を、含みを持たせたような口調で行うキサキュウ。
「しかぁぁあし!それは、他の「Bセンセー」にとってもチャンスになり得るのです♪何故だか、お分かりになりますか?」
酸素を失ったように、シンと静まり返る体育館。
「助手賞というものがあるからです♪と言うのは、BセンセーがAセンセーの「助手」となり、Aセンセーの教育を、サポートすることができるんですね。その上で、Aセンセーが勝者となった場合、「助手」のBセンセーに助手賞という賞金が出るのです!ですので、ご自身のゾーンにおいて「ソラソラの教育に失敗した」とお感じになったら、他のセンセーの助手に「ご転職」いただくことも可能なワケです♪」
「なるほど。しかし、助手とは具体的に何をすれば良いのでしょうか?他のセンセーのゾーンというのは「知らない分野、不慣れな分野」を意味しますよね。そこでできることは、かなり限られていると思うのですが」
その女性の声は、誰もが見たことのある形の凹凸を浮かべる、コンピューターのキーボードから発された。
恐らく、この女性はプログラマーか何かなのだろう。
「とっても良いご質問です♪早速お答えしますと、専門的なことをしていただく必要はありません!そのゾーンに「いるだけ」で良いのです♪と言うのは、ゾーンに助手が集まれば集まるほど、「お、人がたくさん集まってる!覗いてみよう」という感じで、ソラソラの来訪率が高まりますから!その場にいるだけで、十分な「助手作業」になるのです♪もちろん、ご自身の勝利を諦め、助手に転職されるかどうかは、皆さん次第ですけれど♪」
助手。
つまりは、引き立て役。
その説明を聞いた時、燃え立つ心に、ざばざばと冷水を掛けられたような気がした。
そんなものになるために、プロジェクト・カイカに来たのではない。
「あの、質問が2点あります」
再び、素早く、キーボード。
「質問1-自分のゾーンで、ソラソラの教育にしくじってしまった場合、ソラソラがリピートしてくれる可能性はどの程度ありますか?質問2-助手のBセンセーへの賞金はいくらなのでしょうか?」
キーボードの質問の意図は、明らかだ。
「Bセンセー」になるのは、「あり」か、「なし」か。
その判断材料を集めるための、質問だ。
「素晴らしいご質問です♪それでは、各質問にお答えしていきますね。まずは、一つ目のご質問から。教育がうまくいかず、ソラソラがゾーンを去ってしまっても、リピートする可能性はございます!しかし、その可能性は、教育が失敗するに度に下がっていくと思ってください。皆さんは、何度通っても面白いと思えない習い事にリピートしますか?それと同じことです♪」
「なるほど」
「そして、二つ目のご質問。助手役Bセンセーへの賞金は3万ユーキミになります!本日のレートで言うと、300万円くらいですかね♪」
キサキュウの話から察するに、二度も三度も教育にしくじった場合、もはやソラソラのリピートは期待できないだろう。
つまり、その後ゾーンでソラソラを待ち続けたところで、待ちぼうけを食らう可能性が高い。
これに対し、さっさと諦めゾーンから出て、他の有望なセンセーに助手として取り入れば、300万円ゲットできるかもしれない。
そこに、他の助手がいたとしても問題ない。
助手が多ければ多いほど、ソラソラの来訪率が高まると言うのだから。
「ありがとうございます。理解しました」
「いえいえ。こちらこそ♪他にどなたか、ご質問はお持ちですか?」
なるほど、この条件なら「Bセンセー」になる者も出てくるだろう。
そしてそれは、自分にとって都合がいい。
勝利を諦める腰抜けが増えるほど、「Aセンセー」の数が減り、自分の勝率が高まるではないか。
「すみません。質問をもう一点。一度、誰かの助手になってしまうと、もう自分のゾーンに戻ることはできないのでしょうか?」
さっきより早いスピードで、キーボードが質問を重ねる。
これだけ質問があるということは、Bセンセーも捨てたものではないと考えているのだろう。
「おお、これはまた良いご質問ですねえ♪結論からお伝えしますと、一度どなたかの助手になられても、またご自身のゾーンに戻っていただくことが可能です。ただし、助手先は変えられませんのでご注意を!」
「なるほど」
「後、助手に関してもう一つ♪助手になられるときは、助手先のゾーンで「タスケル!」と言ってください!その際は、手を差し伸べるみたいに、掌を上に向けながら、右腕を前に伸ばしてくださいね♪」
タスケル。
その仕草を、自分がすることはないだろう。
「ちなみに、そんなことが起こらないことを願いますが・・・助手は「クビになる」可能性もありますので、あしからず。センセーと助手との間にトラブルが生まれたときのために、一応設けているルールです。助手をクビにされたい場合は、その方を指差し、「サヨナラ!」と言ってくださいね♪」
「なるほど。指差して、サヨナラですね?」
「はい、その通りです!ちなみに、クビになった場合に限り、新しい助手先を探していただくことが可能になります!再就職というやつです♪」
「あの、一つ皆さんに言いたいことがあるんですけど」
そこでキーボードとキサキュウの会話に割って入ったのは、再びの亜桜 ヒビキ。
今度は、何だ?
「おや♪何でしょう?」
「今この場で、僕の助手を募集します。僕の名前は亜桜 ヒビキ。多分、聞いたことある人もいますよね?日本の音楽業界のスターです。当然、僕のゾーンは音楽室になるだろう。さっきも言いましたけど、僕が勝利する「Aセンセー」なんで。だから皆さん、音楽室に助手として集まってください。要は、僕の演奏の「観客」になってもらうだけ。僕の音楽聴いてるだけで、300万円ゲットできますよ?自ら勝利を狙ったり、他のゾーンを覗くのは、時間とエネルギーの無駄だと思います」
「ちょっと待った!自分も言いたいことがあります!」
突如、その高慢な助手募集をぶった切る声が、カイカ・ガッコーの体育館に響き渡る。
勿論、それはキサキュウではない。
他ならぬ、自分の声だ。
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