プロジェクト・カイカ前編 第05輪 | 逢条 陽 vs サイバリアルム

4月29日 8:50


「どうぞ。こちらが逢条様の、8番ブースでございます」


そして美究の案内のもと、8番ブースとやらの扉を見つめる。


遠くからだと、蒼を基調としたステンドグラスのように見えた、その四角い扉。

しかし得てして、物事の真相は、遠くからだと分からない。

その美しき四角を近くで見ると、それが透明なプラスチックカバーに守られた、巨大な「マザーボード」であることが分かった。


ステンドグラス風のモザイク柄に染め上げられた、縦置きマザーボードの上には、CPUやメモリーと思しきパーツがある。

ゆっくりと明滅する蒼きCPUは、その新種のマザーボードが「稼働」していることを示していた。


どうやら、その上に位置する、紫基調のステンドグラスも、同じくマザーボードであるようだ。

何をしているか知らないが、ここは、20枚のマザーボードに囲われた、サイバー神殿であるらしい。


しかし実際、それに輪をかけて印象的であるのは、マザーボードとのハイブリッド扉に設けられた「小窓」の方。


その小窓は丁度、扉の向こうの囚人に、食事を配給するにあたり、ぴったりな大きさをしている。

しかし、そこには蓋が被さっていて、中の様子を覗き見ることはできない。


「(まさか・・・この奥、牢獄とかじゃねえよな?)」


「どうぞ、そちらに取っ手がございますので、扉を引いてお開けになってください。逢条様」


マザボ以降の世界について、心に湧いた一抹の不安を、美究の丁重な案内が和らげる。

そう-どちらにせよ、扉の内に何があるかは、扉を開けることでしか分からないのだ。


-ガジィィーーン


「うお・・・!」


スッパリ。


扉の内にあったのは、何も置かれていない、何も掛けられていない、6畳ほどの簡素な空間。

しかし奇妙なことに、その空間の色彩は、中央からスッパリと、真っ二つに分かれている。

まるで、二つの味を楽しめる、ある種のケーキみたいに。


右は、木の色。

左は、真っ白。

まるで、それら二つの色たちが、互いのテリトリーを拡張し、この場所を染め上げようとしたところ、丁度中央でぶつかり合ってしまったような。

そんな、不思議な空間だ。


「な、何すか、ここ?色が真っ二つに分かれてんすね」


「はい。この8番ブースは、「二つのお部屋」で構成されております。「真室」と、「別室」。それぞれが、全く異なる役割を担っております。こちらは、その二つのお部屋の、中間地点でございます」


「・・・なるほど」


「二つのお部屋が組み合わさることで、はじめてここが、参加者様のブースとして機能するのです」


「ふーん・・・同じビルの同じフロアに、歯医者と不動産屋が入ってるみたいなことすか?」


「はい?」


「いや、全然違う二つの部屋で構成されてんすよね?」


「ああ、それは・・・まあ、そうですね」


その美究の微妙な反応を見て、例え話を続けるのを止めた。


気を取り直し、2色混合空間を見渡す。

右の領域の素材は、アラスカの深い森に生えていそうな木々。

左の領域の素材は、近未来のサイバー国家が開発したような、白いゴムのような何か。


右の領域は、味のある木目を浮かべている。

左の領域は、波紋のような、ひだのようなものを浮かべている。


極めて異なる、二つの領域。

そこに、それぞれの世界観が反映された「扉」が、一つづつ設けられている。

それらの扉は、正面から向かい合い、お互いの個性を見つめ合っているようだ。


まずは、右側のアラスカ領域に設けられた、逆さまのU字みたいな形の、赤茶色の木の扉。

日本ではあまり見ない、その湾曲的デザインは、ヨーロッパのそれを彷彿とさせる。


しかし、それ以上に目を奪われたのは、その正反対。

左側の、近未来サイバー領域に設置された、もう一つの扉だ。


その扉。

それは恐ろしいまでに白く、無慈悲なまでに鋭角的。

向こう岸にある木の扉が持つ有機性を、木っ端みじんに打ち砕くかのような、メカニカルかつミニマムな見た目をしている。


その暴力的な白は、「Cyberealm」との黒文字を中央に掲げ、自らの役割を不愛想に説明している。


「・・・ここが」


「はい。8番ブースの「本室」であり、内側はサイバリアルムとなっております」


この、白い扉の向こう。

そこで自分を待ち受けているのは、ホログラムとリアルによる協奏と、ライバルたちとの熾烈な競争。


肩周りと、膝裏に生まれた、ぶるるという振動。

それはまるで、武者震いのよう。


「・・・上等だよ」


心の中でそう呟き、木刀袋を握りしめ、Cyberealmの文字を睨みつけた。


4月29日 8:52


-ピッ


そこで短い電子音が鋭く鳴ると、黒い孤島のような「Cyberealm」の文字が、大海のような白の端へ、ゆっくりと消えていった。

サイバリアルムの扉が、自らスライドしたのだ。


そして、扉が開き切った瞬間。

既存の世界がパズルみたいに崩れ去り、すぐさま異質なピースでパズルがつくり替えられた気がした。


「これが・・・サイバリアルム」


それは、「タコの頭」を彷彿とさせる、妙な形のサイバー空間だった。

まるで、中身がくり抜かれ、空洞になった「タコの頭」に足を踏み入れたような。


タコの頭の内側は、曇りガラスのような、もしくは半透明のビニールのような、実に不思議な色合いをしている。

その近未来的な様相は、どこかしらUFOの内部を彷彿とさせた。

もしくはそれは、タコの頭の形をした、半透明の水槽みたいだ。


そんな、UFOテイストな、タコ型水槽の向こう側。

そこには、先鋭的なマシーンたちと、そこから麺のように伸びる、おびただしい量のケーブルが、朧げにその姿を現している。

サイバリアルムのてっぺんから、ほんのりともたらされる温白色の光が、そのテクノロジーの輪郭を、控えめに浮き彫りにしているのだ。


その、奇妙な科学実験室のような様相。

スラムの六畳一間とは、恐ろしく異なる世界に、一人ごくりと息を呑む。


「・・・スゲエな」


「逢条様。大変恐れ入りますが、壁にはお手を触れないようお願い致します」


まるで、水槽の外に興味を持った魚を、戒めるように警告する美究。


その美究の言葉をよそに、壁の付近までゆっくりと前進、半透明の向こう側に目を凝らす。

するとそこに、クリスタルのような形をした、妙な小型機器が無数に配置されていることが分かった。


文字通り、それに輪をかけて妙なのは、クリスタル群の空隙を縫いながら、サイバリアルムを周回するように引かれた、3本の黒い横線。


目の高さに1本、腰の高さに1本、膝の高さに1本。

注意深く水平に、細心なまで並行に、タコの頭をぐるりと囲う、その3本の線の表面には、見慣れない模様が描かれている。


どんな模様なのか?と至近距離まで歩み寄ると、それが模様ではなく、無数のレンズであることに気付いた。


「逢条様。申し訳ございませんが、あまり壁にお近づきにならないようお願い致します」


その美究の言葉を聞くまでもなく、警戒心で体を引く。

そう。3本の黒い線は、線状の形をしたカメラだった。

タコ型水槽の中の、魚の動きを監視する、円周型の線状カメラ。


「このレンズたちが俺の動きを捉えて、ユニ・ユニバースにその情報を送り込むんすね?」


「おっしゃる通りです」


「何か、新手のサイバー実験の被験体みてえだな」


「・・・ええ。あの、恐れ入りますが、あまり壁にお近付きにならないように」


再三言われなくても、もはや近付く気はしない。

試験管に入れられ、四方八方からカメラで撮られる、新種の微生物みたいな気分になったからだ。


ところで、気付いたことがもう一つ。

円形のフロア全体に敷かれた、柔らかいゴムみたいな踏み心地の、半透明のカバー。

そのカバーの下に、おびただしい数の球体が、みっしりと埋め込まれているのだ。


「・・・球体の集まりでできてんすね、この床」


それは、まんまるの髪が寄り集まった、大仏の頭頂部を彷彿とさせた。

この円形のフロアは、無数の球体が、同心円状に並ぶことでつくられているのだ。


「はい。それらの球体は、「プラネット」と呼ばれるものです。実に5,000個以上ものプラネットが、この直径3メートルの円形フロアを形成しております」


その、握りこぶしより小さなプラネットとやらを、カバーの上からつま先で押す。

するとそれは、雪駄越しに加えた力の方向に、中間的なスピードで回転した。


次いで、横に、斜めに力を加えてみると、球体はその通りに回転。

球体が故に、その回転方向は自由自在のようだ。


「個々のプラネットが逢条様の歩行情報を捉え、独立稼働する仕組みです。トレッドミルのように、逢条様の歩行方向とは逆向きにプラネットが回転することで、この限定的空間で、無限歩行することが可能になるのです」


「なるほどね・・・実際はトレッドミルみたいなその場歩行なんだけど、ホログラムの風景がずんずん迫ってくることで、ホログラム世界で前に進んでる感覚になると」


「おっしゃる通りです。また、ホログラム世界の地面の傾斜や段差を再現するため、この円形フロアはある程度まで隆起したり、逆に、隆起したものが沈降したりします」


「じゃあ、ホログラム世界の坂道なんかも登れたりするんすね?」


「左様です。尚、プラネットや、その下に埋め込まれた隆起するレイヤーの更に下には、無数のケーブルが繋がっております。それが、ユニ・ユニバースに逢条様の歩行情報を送り込む仕組みです。この仕組みによって、逢条様の歩行に同期して、ホログラムがリアルタイムで変化いたします」


その、知らない世界に伸び降りるケーブルは、巨大なタコの足を彷彿とさせた。

加えて異質なのは、サイバリアルムに立ち込めた空気。


「ところで、ちょっと涼しいっすね」


どこかから、季節外れの「冷気」が滲み出ている。

この影響で、タコの頭の内側は、外の世界より少し涼しい。


「サイバリアルムは、いくつもの精密機器の集合体でございます。その機器類が持つ熱をクールダウンするため、室内温度を常時22度に設定しております」


「へえ。少し寒いかもな。胴着姿だからか」


しかし、美究はそれを聞いても、温度を調整する素振りは見せない。

そもそも、空調パネルはどこにも見当たらない。


「恐れ入りますが、この冷気は、機械の温度を最適化するためのものでして、参加者様のご希望による調整は致しかねるのです」


やれやれ。

サイバリアルムの空調は機械のためのものであり、人間をもてなすものではないようだ。


人間が、機械に配慮して歩み寄らなければならない。

それが、サイバリアルムのしきたり。

そんなしきたりがこの世に存在するなど、これまで全く知る由もない。


時代は、常に我々の知らないところで進んでいく。

その進歩は、厳重に守られた研究室で、限られた人間たちにより、内密に、しかし着実に生み出される。


やがて、その狭き世界で、時代は遥かに進んでいく。

蚊帳の外の我々を、すっかり置き去りにして。


しかし数年後、時代は狭き世界を飛び出し、「やあ」などと言いながら、我々の前に登場するのだ。


このように、変わり果てた姿で。


4月29日 8:56


-パサリ


放られ、重力を受け、「プラネット」の方へ引き寄せれられる木刀袋。


そこから引き抜いた木刀を、ゆっくりと胸の前に構える。

そして、眼前に、居ないはずの相手を描く。

架空の何かを、現実の風景に加える、ある種の絵描きのように。


「逢条様・・・何を、されていらっしゃるのでしょうか?」


想定外の流れ。

動揺を浮かべた、美究の声。

その声をよそに、静かにとるのは、正眼(せいがん)の構え。


すなわち、中段を構えているのだ。

サイバリアルムの、中心で。


「剣道の形、ですよ」


「剣道のかた?」


「日本剣道形(にほんけんどうかた)。精神統一するときにやる。ちょうど、ピッタリな広さなんで」


そう言って、中段を崩さず、スッスッスッと、サイバリアルムをすり足で進む。

見えない相手に近付き、一足一刀の間合いに踏み込むために。


半透明な世界に生まれた、木刀の輪郭。

微かなシグナル音の羅列に混じる、すり足のリズム。

プログラムが支配する空間における、しなやかな筋肉の伸縮。


「あ、あの・・・逢条様?あまり、壁の近くで木刀は・・・」


美究の取り澄ました口調が、困惑で激しく歪む。

そこに一瞥をくれつつも、今度はすり足のまま一歩身を引く。


その妙な動きを止めようと、美究がこちらに駆け寄る中で。


「トオオォォォォーーーーッッ!!」


サイバリアルムに響き渡る、武道的掛け声。

再び足を踏み出して、両手で振り抜く「胴」一線。


その渾身の太刀が、サイバリアルムを満たす冷気を切り裂き、気合が生んだ熱をその裂け目に送り込んだ。


「きゃっ!!」


吃驚し、のけぞる美究の叫び声。

それを聞いた瞬間、純白のローブの内側にある、美究の「性」が露わになった。


いかにも女性的な叫び方だったから。

それも、ある。


しかしそれ以上に、美究のローブを締める紐に、木刀の剣先(けんせん)が当たり、その紐を豪快に吹き飛ばしたのだ。


-シュルリ。


1秒ほど宙を舞い、やわらかな音と共に、ゴムのフロアに不時着する紐。

その瞬間、はっきりと露わになったのは、ローブの下に秘められていた、下着姿の美究の体。


「あ・・・」


予想に反し、それは色気づいていた。


ブラジャーは桃色に彩られており、そのひらひらとした輪郭は、それが花をイメージしてつくられたものであると理解させた。

その二つの花の内側にある果実たちは、さながらグミのように、柔らかさの中にもぷるるとした弾力を感じさせる。


シャイなへそとは対照的に、パンツの両脇は大胆にも白紐であり、それが豊満な太ももの存在を強調している。

肌は、若さがもたらす天然の輝きを放っており、それが美究の裸体を眩いものにしているようだ。


「きゃ、きゃあ!!」


自らの体の大半が暴き出されてしまった事態に、のけぞりながら驚く美究。

しかし、美究にとっては不都合なことに、のけぞった影響でローブがはだけ、その身体がより露わになってしまった。


「あ、あの・・・スンマセン。まさか、当たると思ってなかったんで」


羞恥心により、その顔を真っ赤にする美究。

アイシャドウの紫に彩られた、切れ長の猫目に、動転の光が灯る。


美究は、赤と紫が混在する顔を、世界から隠すように伏せ、慌ててバサリとローブを閉じた。


「あ・・・ホントすんま・・・」


「わ、わたくしは、ここで失礼させていただきます!」


こちらの謝罪をよそに、当惑で声を震わせながら、素早くサイバリアルムを走り去る美究。


「ご、ゴメンなさい。わざとじゃないんだ!」


反応は、皆無。

サイバリアルムに拡がる、孤独と静寂。

そんな中、再び叫ぶ、身の潔白。


「わざとじゃないんだって!!」


しかし、それは嘘だ。

勿論、わざとやったのだ。


例え態度を改めようとも、「失格」と言い放った時の、高圧的な応対を忘れたわけじゃない。

これは、復讐の念からの奇襲だった。


しかし、その復讐の念が、純度100%のものであるとは言えない。

そこには、不純物が含まれていた。


と言うのは、ローブの内側にある美究の姿を、単に見てみたかったのだ。

それは、秘められた女の容姿を暴きたいという本能的欲望であり、男の性(さが)。


実際、その欲望が実を結んだときの達成感ときたらなかった。

美究の恥ずかしがる反応が、そこに征服感を加え、ストレスやプレッシャーで圧迫されていた精神が、ドーパミンでどこまでも膨張していく。


「・・・いい」


気付けば、局部に血液が集まり、そこにあるものを硬化させていた。

それは性的興奮なのか、もしくは、闘争心の隆起なのか。


「くっそ、気持ちいい」


そして、剥き出しの木刀を手に掲げ、美究が居なくなったサイバリアルムで、堂々「胴」を放ってやった。


4月29日 9:00


気付けば、真っ白に変わったサイバリアルムで、円周上に並び立つ「無数の数字」に囲まれていた。


陰影すらも持たない、絶対零度のような白。

勿論それは、ホログラムによる、架空の白だ。


それが天井、壁、床の境界をぼやけさせ、サイバリアルムの輪郭を、限りなく曖昧なものに変えている。


その白の中、まるで地球儀の赤道のように、サイバリアルムをぐるりと周回する数字たち。

それは、その場に留まっている意味では静的だが、目まぐるしく数字自体が変化していくという意味では、この上なく動的。


視線の奥。

そこに浮かび上がっている黒い数字は「89」。

その右側には、ゼロコンマ以降の数字がズラリと続き、サイバリアルムを取り巻きながら、忙しくそれぞれの姿を変えていく。


そして、「89」が「88」へ、「88」が「87」へとカウントダウンしていくのを見たとき、この数字の大輪が、プロジェクト開始までの残り時間を、極小単位まで刻んだものであることに気付いた。


その大輪は、黒から青、青から緑、緑から黄色といった具合に、数秒ごとにパッ、パッ、パッと色彩を変化させていく。

まるで、カラフルな体を一斉に翻しながら、海中を遊泳する熱帯魚の群れのように。


いつしか、自分は「0」の大群に囲まれていた。


その色は、黒。

数字は、ゼロ。


その瞬間、サイバリアルムに数秒ほどの効果音が鳴り拡がった。


不思議な音だった。


緻密な計算に基づき、構築された未来都市。

そこに射しこむ、穏やかな昼下がりの光。


それらを、同時に想起させるような音。


高度な文明社会に訪れる、穏やかな昼下がり。

数千年もの昔から、人類が味わってきた午後の憩いが、その研ぎ澄まされた未来世界を弛緩させていく。

そして、その世界の住人たちがこちらを向き、柔らかな笑みを浮かべたところで、その妄想はスッと消えた。


いやいや、プロジェクト・カイカが、優しい世界のはずがない。

そう思ったのもあるし、実際、効果音がフェードアウトしたのだ。


-ボン!


「うお!」


すると、サイバリアルムの風景が再び一変した。

0の大輪が、「0」と「1」の羅列に変わったかと思うと、いきなり花火のように拡がり、それら無数の01たちが、サイバリアルムを遊泳していくのだ。


隣合った0と1たちは結合し、曲線的とも直線的とも言えない形に、その姿を変えていく。

やがて、それらは「羽」の形に変貌を遂げ、ひらひらと真っ白の空間を舞い始めた。


無数の、羽。


そう言えば、その人物は、「羽」を名前に冠していた。


「さて。この度は、プロジェクト・カイカにお集まりいただきありがとう」


その、声。


それは、18年の人生において出会い、会話してきた、どのような人間のものとも似つかない独特な声だった。

まるで、この世界の端にある、およそ独房にも似た場所で、ひっそりと育んだ独自の思想が、その周波数を生み出したような。


そして、その周波数が再び、サイバリアルムの空気を震わせる。


「私が、才羽 宗一郎だ」




両の鼓膜が捉えたのは、およそ衝撃波のような空気の振動。


「(・・・やっと、やっと、やっと・・・!)」


しかし、その衝撃波は、すぐさま脳内でいびつな形に歪んでしまった。

と言うのは、これでは何も分からないではないか。


才羽 宗一郎が、男なのか、女なのか。

若いのか、老いているのか。


いや、そもそも、人間であるのかすら。


目の前に現れたのは、1羽の大きな「鳥」だったからだ。

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