第4話 意義

自分の前に現れた狼は、確かユウトたちが討伐して隷属したやつ。


するとスッと風が頬を撫でると、そこにはユウトがいた。



「ん?どういう状況?」


縄で縛られる胸を出したユキト。


ギルガに食いつかれてるおっさん。


「え?ユキト女だったの?」


自分の姿を再確認したユキトは顔を真っ赤に羞恥心で悶えている。


おっさんは痛い痛い泣き喚く。


何故俺がいるか説明しよう。


今日、決闘が終わった後。


ユキトにに一度パーティ戻らないか誘おうとした。


だけど早退していなかったらしい。


なので、匂いをギルガに嗅がせて隠密ダッシュした。


まあおっさんが可哀想だしそろそろやめておくか。



「ギルガ、ハウス!」


「ハフハフ!」


尻尾を揺らしてこっちに来たギルガはまるで犬のよう。


おっさんは牙で裂かれた腕を庇い俺を睨む。



「って、てめぇ!

魔殺会に手出していいと思ってるのか?」


「ん?摩擦会?暑そうね」


「そうそう、ゴシゴシ消しゴムで擦って摩擦ファイア、って違うはボケ!!」


まあきっと裏ギルドかなんかだろ?


こんな汚ねぇおっさんがまともなわけがない。


「ま、とりあえず逝っとく?」


俺は短剣構えて、おっさんの動脈目掛けて切り裂いた。


「えぺ?」


咄嗟で理解できなかったおっさんはそのまま生き絶えた。



「おう、ユキト大丈夫、ではないな?」


放心状態の彼女と傷だらけのお姉さんを介抱するため、ユウナたちの到着を待った。


すると2分経たないうちに息をゼエゼエがいた幼馴染組が到着する。


「ひ、酷い!」


それはおっさんの死体ではなく、このメイド服のお姉さんに対して。


ユウナはすぐさま治癒を使った。


ユキトは特に怪我がないが、哀れな姿ですぐ俺が目隠しされる。


一方、メイド服の女性の方は乱暴されたようで頬が腫れ、目は青タンができてる。


それ以降は名誉に関わるので割愛するが、この縄使いのおっさんに乱暴されたことが伺えた。


おっさんの死体はギルガに処分させる。


魔物は不死者化したからか、血肉が好物である。


ハフハフと、うまそうに腹を裂いて内臓を食べ、肉と骨をバキバキ食う。


裏ギルドなんてヤクザ集団が代等してからは、殺人なんて日常的に起こる。


法律なら俺は裁かれるかもしれないが、ここのメンツでチクろうなど考えるやつはいない。


このメイド服の女性、アキラさんは治療を受けた後何事もなかったかのように振る舞っている。


強い人だ。


俺が女性なら多分消えない傷ができたかも。


アキラさんは汚れを自ら落とした後、俺たちに飲み物を用意してくれた。


心配そうにユキトが接するが、これは仕事ですので、と彼女は平然としている。



「ところで、ユキトさん女性だったんですね?」


知り合ったばかりのユウナが、俺からは男性を聞いていたから何故男のふりをしていたか疑問に思っていた。


後からやってきたアイカたちは既に知っていたようで、知らなかったのは俺だけ。


何故か朴念仁と言われる。



「仕方ないんだ。

僕の家では男児が剣聖会を継ぐことになっている。

最有力はアルトなんだけど、僕は前当主のお祖父様のお気に入りなんだ」


剣聖会の前当主、新木信人。


彼は一般人な俺でもわかるダンジョン攻略者の第一人者。


確か世界最高と呼ばれる⭐︎4の剣王だったか?


日本に新木ありと言わせた伝説的人。


そんな人にユキトは気に入られてたわけか。



「うちのギルドでは男尊女卑が鉄則。

アキラさんも僕の従者的位置にいるけど、元々うちで酷い目に遭っていたんだ」


懐かしそうに思いふけるユキトは、その酷い目ってのが朧げにしか話していない。


だがおおよそ、大手ギルドといえど腐ったやつはいるんだとわからされる。


「ですので、私のことは思い悩まなくて結構です。

既に貞操などありません。

坊ちゃまに拾っていただき感謝してます」


新木の配下の家に生まれたアキラさんは剣士の才能があろうがギルドの決まりでクラスアップを受けさせてもらえなかった。


しかも得意な剣を持たずに格上の縄使い⭐︎2に蹂躙されてしまった。


ちょっと不憫だが、女性だからって理由で同情するのは酷い話。


だけど、ユウナや仲間たちがそんな目に遭えば俺は理性を保てるだろうか?


俺は別にどうとでもなればいいが、守りたい人たちが傷つくのは見たくない。



セキュリティがしっかりしているマンション。


しかし今回は身内が囮にされるという胸糞悪いことがあった。


俺はユキトにギルガを護衛させることに。



「ユウト、僕にここまでしてくれるのはとてもありがたい。

けど君の方も気をつけないといけないよ?」


「俺たちがか?」


「うん、きっと奴らはユウトたちも僕の一派と認定してるはずだ。

みんなは実力者だけど、相手は⭐︎2クラスがズラリといるギルドだ。

もう一度だけどダンジョンに潜らないか?」


突然の提案に、お!と内心歓喜する俺。


「ってことはユキトも来てくれるよな?」


「うん!僕でよければ!

それにアキラさんも一緒にいいかい?

クラン申請出せば7人超えても探索できる。

早く20層行ってランクアップしよう!」


新しく仲間が二人増えた。


合計8人で、学校規定のパーティーは7人しか無理。


だけど俺らはダンジョン探索者の資格があるので、一般ダンジョンを潜ればいい。


時刻はまだ午後前半。


学校はダンジョン自習で自由時間。


終わりごろにカオル先生に点呼取ればいいのだ。


荷物は予め持ってきてるし、早くジョブクラスを進化させよう。



ということでやってきましたダンジョン。


ここは学園からやや離れた県庁所在地近くにある。


駅前ダンジョンだ。


ダンジョンは階層によって強さが違うが、どのダンジョンも難度は等しい。


深層に行けば行くほど難しくなるが、20層程度ならある程度実力あればいける。


俺たちの仲間も既に⭐︎2以上の実力を持っていた。


何故なら俺たちは⭐︎3以上の異常を倒している。


初心のうちに遭遇したからか、皆度胸がついていた。


ユウナとユキトは追々でも問題ない。


てかこいつら元から肝が座ってる。


例え腕がちぎれようが突っ込んできそうだ。


まあ俺は突っ込むけど。


肉がちぎれても進むことだけが俺のできることだった。


駅前まではアキラさんがワゴン車で送ってくれて、安くない駐車料金を彼女が出してくれる。


これが大人の余裕かぁと思ったが、実はアキラさんは世の中で珍しくセカンドクラス持ち。


そっちの方は宝飾師というレアクラスらしい。


それは魔物ドロップの魔石を加工して装飾品系魔道具にする。


人工遺物を作るのはまだランクが足りないとのこと。


クラフト系は専門外だが、本来は国立大すら行けたとか。


中学の頃から既に暴行されていて奴隷扱いだったらしい。


聞いてただけで剣聖会の印象がダダ下がりだ。


アキラさんの容姿はポニーテールにメガネをかけたお姉さん系。


胸が大きくくびれている。


同級生とはまた違う魅力だった。


例えば、アイカは赤毛のポニーテールに女子高生のような発展途上。


マイは身長高くスタイルがいい。


シズクは控えめでロリロリしてる。


俺がゲスな目で見ると3人はジトーと目を細める。


まあ流石に異性としては見られてないか。


だけど3人とも顔がちょっと赤い。


気のせいか。



幼馴染組みの華月とユウナ、高校で知り合った3人娘。


追加で入ったアキラとユキト。


それぞれ系統は違うがガチの美人たち。


俺は?なんか目が死んでるし、狂気じみてる。


最近パーティー以外の女子から避けられるんだよなぁ。


俺の装備は斧と短剣。


肉骨予定なので装備は質素。


他のメンツはそれぞれの職業に合った装備をしている。


最近ユウナがメイスにハマったらしく、棍術のスキルを取ったとか。


俺の持つスキルは、自己治癒・5(MAX)、毒耐性・3、狂化魔法(通称)、短剣術・1、斧術・1、隠密・2、死霊魔法である。


元は強化魔法だが、ユキト命名で狂化魔法と呼ばれる。


誰が何を狂ってるというのだ!名誉毀損だ!


でも何故かクラスメイトから狂鬼と呼ばれる。


まあDクラス限定だけど、誰が狂ってるだ!



駅前ダンジョンは迷宮省の探索協会が管理しており、真横には素材買取所と情報掲示板。


あとは中小ギルドが立ち並んでる。


県庁の近くにダンジョンがあるので地域密着型だ。


何せ、うちの学区が日本で最初にダンジョンが見つかった。


よって東北の田舎だが第一高校と呼ばれてる。


関東は第二高校があるが、そもそも校長が第一人者でもあり、憧れて入学する人は多い。


意外と県外の名家なんかも入学する。



ダンジョン入り口付近で食べ物を買い揃え、リュックに詰めて入場しようとした。


すると俺がコンビニに行ってる間にパーティーメンバーが男どもに囲まれていた。


チャラいような遊んでいそうな、ナンパをするので忙しい。


「あ、ユウト!」


なんか避けたかったが、アイカに見つかり名前を呼ばれた。


「あ?誰だよこいつ?」


戦闘のナンパ師Aが俺にガンをつける。


「誰ってうちのリーダーよ!」


マイも強気で返事を返した。


え?いつリーダーになったの?


リーダーはアイカだろ?


「そうです!ユウトくんがいるから他の異性は結構です!」


シズクも挑発するようにプリプリ怒ってる。


すると男たちはハハハハ!と笑い始めた。


「は?こんな陰キャが?

言っとくけど俺ら、⭐︎2の先鋭なんだぜ?

騎士ギルドって聞いたことない?」


騎士ギルドとは、全国展開されている⭐︎2探索者が多く在籍してるギルドだ。


確かこの時期にこの地区に設営されたような。


支部数が多く、最高位探索者はいないが、十分優秀な部類だ。


でもちょっとウザいな。


威圧するにオーラ出すなら切らなきゃあかん。


なんか俺の斧にも興味あるようで、数名欲の孕んだ目で見てる。


慣れてはいるが、他にダンジョンはない。


流石に学園に近いところを選んだが、人が多いってこんなデメリットがあるのか。


痺れを切らした華月は抜刀しそうだ。


このナンパ師たち引かなそう。


すると突然声がかかる。


「おい、お前ら何やってんだ?」


鎧をつけた大剣を持った男性が現れる。


髭は生えてて渋い。


「あ、権藤さん!?」


権藤と呼ばれた男、俺から見ても強者の風格。


「お前ら、問題起こす気か?

彼らは学園生だろ?」


すると目を泳がせてヘラヘラ誤魔化す男たち。


「い、いや〜高校って知らなかったなぁ?」


「いや私たちが学生ってわかると余計にナンパしてきましたよね?」


ユウナはズバリと言い返す。



「お前らなぁ、いくら若くて実力あるからって未成年はダメだろ?」


「い、いや〜」


呆れている権藤はため息を吐くと俺らに向き直り謝罪する。


「悪かったね君たち。

騎士ギルドといえど、ニュースに載りたくないからね。

詫びといっちゃなんだが、地図持っていかないか?」


「え!?いいんですか?」


ダンジョン地図は売買されてるが、一財産でもある。


それを譲ってくれるって、なんか裏があるのか?


「いや、先行投手だよ。

君らは学園に入るほど優秀だし、ここで恩売っても悪くない。

もし何かあればよろしく頼むよ!」


権藤は複製したらしい地図をくれた。


「それと、最近異常イレギュラーなんているらしいじゃないか?

気をつけるに越したことないからね?」


「いえ、情報ありがとうございます」


俺たちはお礼を言ってダンジョンに潜った。


俺たちがいなくなった場所で、ナンパ師たちに権藤が忠告していた。


「いや〜危なかった」


「え?なんかあったんですか?」


権藤は冷や汗をかいていたようで、引き気味に息を吐く。


「お前らさ。

相手の実力ぐらい測れって常日頃から言ってるだろ?」


「え?」


ナンパ師から見れば、圧倒的美少女ハーレムに囲まれた陰キャそんな印象。


女子の方は鍛えてるようで実力がありそう。


男の方は、頼りない印象だった。



「うん、女の子たちも相当鍛えてるけど、特にあの少年がやばい」


え?と顔を見合わせる男たち。


あのガキが?


「まあね?以前俺が⭐︎4パーティに混じって遠征行ったことある。

そん時に異常主ってのか?

そん時は羽のない龍のような魔物だった。

そいつをパーティは何なく追い詰めたんだけど、問題はそっからだった」


男たちは真剣に話を聞いた。


「手負の龍は赤黒く燃え盛ったんだ。

俺たちはあれを狂化なんて呼んだが、なにがやばいかっていえばその狂った感じ。

おかしくなるんじゃなくて、むしろ今まで手を抜いてたんじゃないか?ってぐらい強くなったんだ。

それでパーティは全滅した。

それが最高到達地点42層のボス。

狂った龍なんて呼ばれてる。

あの少年は明らかにそんな感じだ。

まるで魔物みたいな、そんなオーラを隠してた」


男たちはなんとも納得いかない顔をしていたが、⭐︎3の権藤はあの少年、ユウトの狂気を見抜いていた。


何せ、普通を装ってるが、ナイフを隠し持ちいつでも彼らを刺そうとしていたこと。


事件にならなくてよかった。



「あれはきっと、ユニーク持ちだな」


権藤のつぶやき。


だが実は自分を刺していつでも戦えるようにしていたとは本人とパーティメンバーしか知らない。


男たちは、白けた空気を宥めるようにまたナンパしに行った。


それを止めるのは、騎士ギルド仙台支部長の権藤の役目である。



***



迷宮を潜って、最初に抱いた印象。


なんか安全じゃね?


学園迷宮のような狡猾な知性を持った魔物に比べて、ただポヨンポヨン移動するだけの魔物たち。


既に経験しているユキトとアキラ以外は、やりがいを感じずもはや作業だった。



「うーん、つまらん!」


俺は格下の魔物たちにナイフを刺して殺すだけ。


よほどの雑魚は斧の存在感に負けて逃げるけど、それ以上にバカな魔物は気づかないのだ。


噛んできても赤ん坊に甘噛みされるようなもの。


弱いものいじめのようで気が引けた。


そのまま2層のスライムエリートを倒して、次に進む。


やりがいを感じないダンジョン攻略に正直飽きている。


資源階層なんかはアキラが装飾を作るのに寄ったが、専門外すぎてなにがなんだかわからん。


とりあえず言われた通りの鉱石を採取して次の進んだ。


12階層はスライムエリートマスター。


ちょっと大きめのスライム。


服を溶かすなんてことはせず、戦士系娘たちの錆びになった。


どんどん進むことができて20層につく。


ここでは数人パーティが休むぐらいで異常はなかった。



「んじゃ、クラスアップするわよ!」


まだジョブクラスが⭐︎1な俺たちがまずはノーマルクラスの4人。


剣士だったアイカは剣豪に。


盾士だったマイは重騎士に。


水魔導士だったシズクは名称は変わらず⭐︎2に。


強いて違うならセカンドクラスで火魔導士になったこと。


これで相反する2属性を手に入れた。


シズクの魔力も上がった気がする。


レアクラスのユウナと華月は⭐︎2になる。


そしてユキトの方だが?


「あ……」


ユキトの表情は喜んでるんだか、悲しいんだか。


事情を聞いてわけを知る。


「僕のクラスが、剣の奏者ってなったんだ。

使い方もなんとなくわかったよ」


ユキトは自分の剣を離す。


すると宙に浮いた。


浮いた剣は彼女の腕で自在に泳いでいる。


「今の段階だと、2本までかな?

両手を使って動かす感覚なんだ。

ようやくスキルは取れたけど……」


彼女の言いたいことは、あれだけ苦労して磨いた剣技は反映されなかったこと。


そして、どうやらこれは念力に近しいスキルらしい。


持てるのも剣限定だ。


何とも使いづらく、威力に欠ける。


彼女はもしわけない顔をした。



「ごめん。

みんなに手伝ってもらったのに。

あれほど欲しかったスキルが後衛向きだったなんて……」


だけどアイカたちが否定した。


「ユキトには悪いけど、ぶっちゃけうちらはよかったって思ってる。

うちのパーティ前衛ばかりじゃん?

剣を操作するだけって言うけど、めっちゃいい職業じゃん!

それって離れたところからも攻撃できるんでしょ?」


そして俺が続けた。


「なあユキト。

お前は今までしたことが無駄になったって言うけど、そのスキルって素人が扱えるのか?」


そこでユキトはハッとする。


「そうか!

手で握るって工程じゃないけど、これは剣先の延長!

要は剣の長さが伸びたってことか!」


頭のいいユキトはすぐに気づいた。


それに、どうやら強化魔法とは違う感覚があるらしい。



「なんて言うんだろう。

力が増えるってより剣に力が送れるんだ!」


そこで彼女は試し斬りに振ってみることに。


操作を誤って壁に触れてしまったが、すっぱり切れてしまった。


ダンジョンの壁が材質が未知で最硬と呼ばれてるけどそれを切ったのだ。


このあと22層のボスに挑んだが、秒も3秒で真っ二つにした。


彼女は力を手にした。


「よかったなユキト!」


「うん!まあこれでギルドは継げなくなっちゃったけど、でもこれで力を得たんだ!」


「え、継げなくなったって?」


ユウナが聞き返した。


「うん、剣聖会は剣士としての力量が評価されるんだ。

僕には剣を使うだけの職業だから、多分ギルドは継げないかも」


彼女はちょっと落ち込んだ。



「なによ!

明らかにユキトは強くなったわ!」


「うん、でも仕方ないよ。

お祖父様の代で決まったことだし、僕の父も本来は弓兵だったけど継ぐために剣士になったんだ。

でもよかったよ。

これでみんなに協力できるね!

目指そう、ダンジョン攻略!」



目的は達した。


あとは古巣学園に帰るだけ。


その後ユキトは女子として再設定され、アキラさんも付き人として学園の寮に住む。


女子一同は親睦を深めて、一人だけ男の俺はちょっと寂しかった。



ちょっと日が明ける前。


興奮して目が覚めた俺は珍しく裏庭に出る。


すると一人黙々素振りしてる奴がいた。



「あれって……」


あいつは新木アルトだっけか?


ユキトの双子の弟で、華月にベッタリだった。



俺はこっそり木に隠れて様子を伺う。


すると数回振り終えて汗の掻いたアルトがこっちに背を向けて話した。



「見てたんだろ?」


気づかれてたようで、俺は陰から出る。


「あ、なんか悪い」


「それは何に言ったことだい?

僕の当主次期継承を不利にしたこと?

それとも華月さんを奪ったことかい?」


「いや?お前が努力家だってこと見ちまったこと」


「な!?」


するとアルトは顔を真っ赤にした。


「君ってやつはな!

それよりだ、ちょっと付き合ってくれ」


俺はこいつのもう一本の剣を渡される。


「そう言えば聞いたよ、ユニーククラスだってね?

無職と偽ってても実は治癒師で、しかも治癒魔法が使えない。

それなのに前代未聞のユニーククラスを3つかい?

同級生でも話題になってたよ。

と言ってもそれは妬みによる蔑みだけどね」


アルトは学生のレベルの低さにため息を吐いた。


「いや?でもお前は見下してないようだな?」


俺の挑発じみた言い方に、でも彼は肩をすくめただけ。


「ユニークに選ばれる、それだけでも偉業なんだ。

しかも君は30階層以上のレベルを持つ異常主を倒した。

まぐれだって最初は思ったけど、リリナとの決闘で違うってわかったよ。

正真正銘君の実力だ」


そういえば、あの筋肉女子どうしたんだ?


「いや、あれってあっちが油断してくれただけさ」


「油断、と言っても彼女は本気だった。

君は狡猾だとしてもそれを逆手に勝利して見せた。

僕は思うんだ。

最強が強い?いや違う、勝ったやつが強い!

例え泥臭く無様でも勝ったやつが強いんだ!」


熱弁のあまり剣を握る手が強張っている。


俺はこいつの印象が変わった。


こいつは才能だけの男じゃない。


正真正銘努力の男だ。



「さて、剣を握れよ唯野ユウト。

僕が勝てば華月さんをもう一度僕のパーティに入れる。

そして僕は30層、いや40層を超え!

真の後継者になるんだ!

父を降し、僕を認めないあのジジイを屈服させてやる!」



訂正しよう新木アルト。


お前はただのおぼっちゃま探索者志望なんかじゃない。


お前は攻略者だ。


だが俺もせっかくできた仲間華月をみすみす手放すわけがない。


もう華月を失うわけにはいかないんだ!


得意獲物じゃないこの剣を、俺の腕に突き刺そうとした時。



「ハイハイ!ちょいとお待ちを!!」


颯爽と現れたそいつ。


またお前か!


「決闘委員会です!」


早朝間際だというのに顔にパックしたままパジャマ姿。


寝ていたのか服が捲れてへそが出てる。


「やあ葉月先輩」


アルトが審判女子に挨拶する。


え?葉月?そんな可愛い名前なの?


「はいはいアルトくんおはようさん!

えっと、アルトくんは華月ちゃんの移転希望だね?

等価は〜……

じゃじゃん!

ん?アルトくん?」


何故かこいつは光ってる。


「いや、まさかBL!?

うっひょー!吾輩大好物です!!」


葉月先輩は鼻血を出して喜んでいる。


誰がホモやねん。



「ぼ、僕は対価とは驚いたけど、唯野くん、君は僕に何を望む?」


望むこと?特にないけど?


「いや、ないって」


素直に言ってしまった。


だがアルトが機転を効かせてくれる。


「なら僕は君に貸しができる。

それでいいだろ?」


「ああ、まあいいんじゃね?」


「「決闘デュエル!!」」


俺は慣れない剣を構える。


アルトのやつはいつも二刀流だが片手剣だけ。


お互い不慣れな状態に変わり無い。



アルトは強化魔法をした。


だけどそれは通常とは違う。


オーラの出力が桁違いだ。



「ふふ、驚いたかい?

傾向の同じジョブクラスのスキルは重複できるんだ。

これを僕は強化魔法2ndと呼んでいる。

もちろん通常の倍の出力。

扱うのは一苦労だけどね!」


剣を振るったアルトの一撃に思わず重くて膝が挫けた。


まるで異常主の筋力すら上回る一撃に、ただ感服している。


俺は、剣を一閃。


だけど軽く受け流される。



「僕のスキルは二刀流なんだ。

昔から剣術は苦手でさ!

ユキト姉さんが継ぐって期待してたけど、彼女は剣士じゃなかった!

他にも分家から当主候補はいたけど、よそ様にうちのギルドを乗っ取られるなんて見てられなくてね!

僕に剣の才能はない。

だから人一倍振ってきたんだ!!」


彼の連撃はスキルがこもったものじゃなかった。


だけどその強化魔法だけじゃない重みは彼の意志の重さなのだとそう錯覚した。



ただ俺は素直に終わるやつじゃない。


なんのために過去をやり直した?


偶然だったかもしれない。


たまたま俺が選ばれただけ。


だけど救えるものがあれば。


1度目で届かなかった彼女たち。


だけど今なら届く。


俺に特別な力やチートはない。


だけど、なんのために自分を何度も殺してきた?


ただバカみたいな快楽にため?


違う!


俺が傷付けば救える命があるなら!


手の届く範囲なら伸ばして掬う。



「狂化魔法!」


俺は剣で自分に腕を刺す。


突然の愚行にアルトの剣が止まった。



「何を……?」


突如現れる気の暴風。


さっきまで才能の片鱗を見せなかった唯野ユウトから赤いドス黒い気が溢れている。


それは古来武術の名家だった新木家なら知る邪気の一種。


それは狂気。



当の俺はランクアップにより進化した狂戦者の特殊アビリティ。


狂気。


ジョブクラスとは稀に自分の経験からアビリティという特殊な才能を発現させる。


俺は狂気という力を得た。


効果は、精神が狂えば狂うほど力が増す。



「fはhdばjdbdbshfhdhdhwhdhdhdbwhdhsbsjswdんdん??????!!!!!!!????????」


俺は声にならない奇声をあげて、常人がしない動きをする。


その気色悪さは、まるで悪魔だった。



「そうかい。

それが君の強さなんだね?

だけど僕はそんな君を倒して次に進む!!」


「えゔぁーーーーーーっl!!!!!!!!」



俺とアルトの剣がぶつかった。


とても⭐︎2が出していいような衝撃じゃない。


二人のオーラがほと走る。



洗練された剣技を持つアルト。


それと対比するように、何も持たずにただ狂う俺。


理性が勝つか本能が勝つか。


俺はただ自分の持ってる凶暴性を晒してるだけだ。


俺が傷つくほどオーラが増していく。


耳が削がれ、指を失おうとオーラが止まらない。


一方アルトは、剣に徐々に亀裂が入った。


俺とアルトの力任せな渾身の一撃はぶつかる。


そして、彼の剣が砕けた。


俺の方も乱暴な扱いに剣がへし折れる。



俺は再生が始まり狂気が治った。


あれだけ使ったオーラに代償か体が重い。


アルトも限界を超えたオーラの消費に体から血が吹き出した。


「どうする?まだやるか?」


すると彼は構えを解いて首を横に振った。


「いや僕の負けだね。

もう余力がない。

それに君はまだ戦えるだろ?」


確かに俺には狂戦者の他に暗殺者と死霊術者の力がある。


ギルガを使えば、こいつの頭ぐらい一瞬でもぐことができる。


「まあな。

奥の手だけどあるっちゃあるよ」


アルトは手をひらひらさせて降参した。


winnerの表示がされる。


夜は既に明けて明るい。


学生たちもちらほら起きている。


俺たちを見かけた生徒は何事か?と覗いていた。


葉月先輩は終わったのを見届けると帰って行った。


俺は地面に尻をつき、体をほぐす。


再生が終わったようで傷はなくなる。


だが悔しい。


結局あいつに傷一つ与えられなかった。


これが武を極めた剣士。


俺の動きは素人丸出しだ。



汗を拭いてスポドリを飲んだアルトは俺に忠告をしている。


「ユキトが世話になってるとこ悪いけど、最近後継争いが怪しんだ。

僕がやらかしたせいで分家がでしゃばってきた。

しかも最近、有力候補がこぞって襲われてる」


「それってユキトの件か?」


「ああ、君には助けられたみたいだね。

域部って知ってるかい?

彼には気をつけた方がいい。

元は僕を持ち上げる一派だったらしけど最近鞍替えしたんだ。

それで、どうも裏ギルドを繋がってるらしい」


「それって魔殺会の?」


「証拠はない。

だけど最近なんかやらかすって耳にしてね?

一層用心することを薦めるよ」


アルトは俺に背を向けて自室に戻った。


俺は、強くなった気でいたがまだまだだと実感させられた。

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2024年12月13日 12:00

欠陥治癒師のやり直し〜肉を切らせて骨を断つ!!〜 花下内アンクル@瀬井鵺 @nikucake0018

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