第3話 あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ

ユニーククラスを手に入れた俺は、特に攻略に拍車がかかることはなかった。


何故なら、狂戦者、暗殺者、死霊術者。


それぞれ戦士系、盗賊系、術師系とわかるが、今まで定職したものがいないのだ。


通常ジョブクラスはノーマルの戦士系、盗賊系、術師系、商人系、製作系、生産系と分かれている。



だが今までこんなユニーククラスになったものはいない。


魔力そのものを武器にする戦士系は強化魔法を覚える。


強化魔法は凡庸性があり、上位職業になろうがずっと愛用されるスキルだ。


また盗賊系は隠密に長けていて、罠感知のような察知する魔法を覚える。


術師系は幅広く、魔導士、治癒師、付与師、レア扱いされるが使役師とある。


これらは今までジョブクラスに至った先人の知恵も含めて、学園で習うことができた。


RPGではスキルをレベルアップで得るようだが、あいにくレベルなんてないし、スキルは努力でしか取れない。


狂った戦士だろう狂戦者はただ狂うだけなのか?


暗殺者は創作物でもあるから殺すに特化した職業だろう。


死霊術者は一体何をする職業なのか?


全く検討がつかない。



教師のカオルに相談するも、ユニーククラスに転職したものは珍しい。


しかし俺は前例がなく、異例の3つ保有している。


カオルもユニーククラス保持者には会ったことがあるが、あくまでそれは前保持者がいた前提。


ユニーククラスは転職した際や殉職した際に抹消される。


それから新たな適合者がいれば新たに保有される仕組みだ。


学校の記録、迷宮省に問い合わせても答えはなかった。


こちらでは把握できてません、時期追々検査を受けてください。


一度迷宮省管轄の管理協会に行けってことだろう。


管理協会では一般人が査定を受けられる。


学校より強靭な組織でもあるため、精密検査を受けろってことだろう。


特に体に異変がなく、むしろ力が張るような。


そして何故か戦士系クラス保持者たちが受ける授業を俺も受けることになった。



授業にはCDの有志クラスが席についていた。


入学式後初めて現れる俺に教室はヒソヒソ話を話した。


すると俺に話しかける奴がいた。



「あれ?君って異常イレギュラーを倒した子だよね?

確か唯野くん!」


彼はどこか見たことある雰囲気を持っていた。


「あ、僕はユキト!

見覚えあると思うけど、アルトの双子の兄なんだ。

うちの弟が迷惑かけたね!」


彼は新木アルトと顔の作りは似てるがどこか自信ない雰囲気。


ちょっと中性ぽくなよなよしてる雰囲気だった。



「あ、よろしく」


「うん!よろしくね?

でも唯野くんすごいよね!

32層以上の強さの魔物倒すなんて!

僕なんか未だにスキル覚えるので苦労してるんだ……」


ユキトは肩をガクッと落として、自分がまだ探索で成果出せないことに落胆している。


俺が一応10層到達程度だが、既に遺物を入手している。


同級生からも渇望の視線を受ける。


ユキトは剣を使うようで、レンタル用とは違う自前の剣。


使いこまれてるようで傷がいくつか目立つ。


グリップも何度も取り替えられてるようで、真新しい。


何度も素振りしたような、何度も打ち込んだような。


だというのに、何故彼は自信がなさげなのか?


すると、俺たちの後から入ってきた横暴な学生がズカズカ俺たちの方に向かってくる。


見た目は染めたような金髪のコーンロー。


脇は剃られてるようで模様が彫られていた。


学生で頭に墨入れるって治安悪いな。


学生はユキトの方を見ると見下すように話す。


「おいおい、新木家の出涸らしさんよぉ。

テメェ、未だに強化魔法すら覚えられないらしいな?」


墨入り学生略:墨学はゲスな笑みを浮かべるとニヤリと顔を近づける。


ユキトはヘラヘラ笑い。


「そうなんだ〜、域部くんよかったら教えてくれないかな?」


彼は顔ではヘラヘラしてるけど、机の下を見ると拳がギリギリ握られている。


よほど悔しいのか、爪が食い込み切れて血が滲む。


すると今度は俺の方を見て挑発する目で見る。


「テメェは異常を倒した無職だったな?

てか無職のてめーが何でここにいるんだ?」


こそこそ話をやめて学生たちは俺たちの方に注目している。


確かに俺は何故ここに?



「そーゆう域部くんだったけ?

君も何故この補習受けてるんだい?」


域部は歯をギリギリ悔しそうに睨む。


「テメェ、死にてぇようだな?

つーか、お前異常倒して遺物手に入れたからって調子乗ってんじゃねぇの?」


辺りからはフッと笑う声も聞こえる。


俺はヘイトを買ったつもりはないが、少なからず同級生の中には域部の賛成のようだ。


そいえばハーレム野郎とか変な二つ名ついてたな。


パーティ5人中4人が美少女だから、まあ7人制だから、後二人男が来ればいい。


睨む域部と呆れて白目を見る俺、俺は別に関心ないけど一触即発に見えたようで、同級生が教師を呼びに行った。


ユキトの方を見ると、自分のとばっちりを受けてしまったと申し訳ない顔をしていた。


さて、実践の時間だ。


狂戦者、おそらく戦士系だから強化魔法が使えるはず。


強化魔法を使う場合は腰を低めに踏ん張るポーズがいいと聞く。


俺はその構えになると、強化魔法を使おうとしてることを察した域部は少し焦っていた。


「て、てめー!や、やる気なんだな!?」


明らかに動揺していて、まさか俺が好戦的と思わなかったようだ。


うん、別に好戦じゃないよ?



一応脅しだ。


この戦士科の補習はまだ強化魔法できない人向け。


アイカやマイに華月は既に使えて、強化を攻撃に纏うこともできる。


俺は魔法を使ったことはないがあらかじめレクチャーを受けていた。


「はぁ!!」


俺の体から魔力のようなオーラが飛び出る。


域部は顔を青くして焦っていた。


何せ俺は異常殺し。


有志クラス程度で燻ってるこいつらに負けるわけがない。


だが。


プスーとエネルギーが消えてしまった。


ん?ガス欠?


すると周りは大笑いする。


やっぱ異常殺せたのはまぐれなんだと。


ただの運がいいやつがイキって大恥かいた。


俺のことを毛嫌いしていた奴らは笑った。


場の空気に安堵した域部は、キシシと笑い俺を無能だと笑った。


遅れてやってきた教師は事情を察してか、ため息を吐くと授業が始まった。


特に仲裁とかなく、呆れてるようだ。


一応Cクラスの担任だけど、あまり学生事に干渉したくないみたいだ。


結局最後まで笑いものだった俺はトボトボ帰路に向かう。


何もヒントがつかめず、結局俺は魔法が使えない無能だった。


やっぱやり直してユニーククラス得ても無駄なんだなぁ、と黄昏ていると俺を追うようにユキトが駆けてきた。


ユキトは俺の顔を見るなり頭を振り下ろす。


「ごめん!唯野くん!

僕が不甲斐ないばかりに君に庇ってもらって!

しかも笑いものにされるなんて……」


彼は泣きそうな面だった。


なんか可愛いな。


男にちょっと欲情するなんて俺も溜まってるようだ。


だけど男にしては妙に線が細いし、胸部と腕あたりが窮屈そう。


お尻もよく見れば安産型にも見えてますます可愛く見えてしまう。


俺きっと疲れてるんだな。


ユキトが女に見えて仕方ない。


彼が女性だったら、うちのパーティメンバーに匹敵する可愛さ。


髪を伸ばすだけでもだいぶ違う。


すると想像にふけていた俺に彼は顔を覗き込む。


ああ可愛いなぁちくしょう。


理性を取り戻した俺は首を横に振った。



「いやあれは俺が勝手に突っ込んだ事だ。

それにお前の剣見てわかったよ、お前めちゃくちゃ努力してんじゃん!

俺なんて運が良くてたまたまってのも的を射てるし」


ユキトは褒められたのが珍しいのかぽけーと目をぱちくりする。


だが嬉しかったのか顔が真っ赤だ。



「そ、そんな僕なんて努力にもならないよぅ。

だって未だに強化魔法使えないしさ!」


彼はまたヘラヘラに戻った。


「てかジョブクラス聞いていい?」


俺の突然の質問にユキトはえ、え、え、と言いづらそうにする。


「あ、悪い言いたくないならいいぞ」


「いや、いやじゃないんだ。

だけど僕の職業聞くとみんな離れちゃってさ。

今も迷宮自習のパーティメンバーがいないんだ」


「ん?ならうちくるか?」


「え!?

そ、そんな悪いよぅ。

そ、それに僕の職業知ったら……」


彼?は内股でもじもじしている。


ちょっと仕草も女ぽさが出始めた。


「ちなみに俺は治癒師(笑)な?

ついでにユニーククラス3つ持ち」


するとユキトとは唖然と驚く。


「え?無職じゃなくて治癒師?

それにユニーククラス持ちって!

……、やっぱり言いずらいな……

僕より恵まれてる」


彼は肩をガクッと下ろした。


「つってもな、俺魔法使えないんだわ。

治癒師なのに治癒魔法も使えねぇし。ユニーククラスに戦士系あるけど、強化魔法も結局使えなかっただろ?

俺って非魔法体質なのかもなぁ。

これぞ宝の持ち腐れってやつ」


俺もちょっと凹んだ。


だけどユキトは手をブンブン振う。


「そ、そんな事ないよ!

ってか、そんな欠点あるのに異常主倒したの?

凄すぎるよ!」


ユキトは興奮して俺に顔スレスレで迫る。


ちょっと花と石鹸に匂いがする。


甘い香り。


ちょっと押し倒したくなった。


やったら終わるBLだから踏ん張る。


「それで?

こっちは情報出してやったんだから、どっちも教えてくれないと誠意じゃないだろ?」


「う、うん」


ユキトは決心したかのように語り出す。


「僕のジョブクラスは一応ユニーククラスなんだ」


「は!?めっちゃ優良じゃん!

なのに何で落ち込むんだよ!」


逆にユニーククラスで何故そこまで肩が下がるか謎だ。


だが彼は、ちょっと涙混じりでいう。


「僕のジョブクラスは剣の??の卵。

きっと剣の関係あるはずなんだ!

だけどいくら剣を振ろうがスキルは取れない!

スキルも使えないし!

今の僕は無能以下だ!

ユウトくんはこんな僕でもパーティ入れてくれるの?」


彼女の目は諦めていた。


かつての俺の友人との思い出が遡る。


彼女と知り合ったのは行きつけのコンビニだった。


俺のお釣りをチョロまかそうとした店員に真っ先にキレたのが彼女。


意識がはっきりしない俺に、ようやく久しぶりに視認できた人だった。


彼女は正義感で溢れていた。


だけど友人に裏切られてどん底に落ち、それでも這いあがろうとした。


たまたまそれ以上にどん底だった俺と出会い、傷を舐め合い励まし合った。


けど結局俺の自傷癖を見られて、やめるように口論になり、最後俺の目が死んでいた事に彼女の目から光が消えた。


その時の頑張ろうとする自分を諦める目。


それをこのユキトから感じていた。



「あんな、ユキト。

テメェが使えねぇジョブクラスで悩んでるのはわかった。

だがそもそも俺はパーティに貢献できるスキルがねぇ。

たまたま俺は踏ん張れるスキルを持ってただけだ。

それ以外なんて仲間が助けてくれてる。

それでもダンジョン攻略しようって励ましてくれてる。

それはそんな彼女たちに応えたい。

一応リーダーに要相談だが、俺はお前を見捨てたくねぇ!!」


ユキトの涙腺が決壊した。


溢れる涙と嗚咽。


彼は一人で良く頑張った。


俺はこいつを見捨てねぇしきっと仲間も助けるはずだ。


案の定アイカたちに言えば、OK即答だった。


賛成意見に軽い不安を持つユキトに、俺は胸に拳を当てた。


ん?なんかぷよんってしたな?


多分こいつが胸筋不足だろうと思っていた。


女子たちはユキトを連れて話込む。


すると顔を赤らめたユキトと逆にムスッとする華月。


ちょっと面白いものを見たと笑うマイとシズク。


アイカは声高らかに宣言する。


「うちらの次の目標は20層!

んでユキトのクラスをランクアップよ!」


彼のジョブクラスは未だに謎だ。


10層でクラスチェンジすればいいと思うが、ユキトはユキトで実家の剣聖会の探索に着いてった際に転職可能職業がなかったらしい。


俺もじゃね?と思うが、俺はまだ自己治癒が使えるだけ恵まれてるのだ。



俺たちはダンジョンに向かい、11層。


いつも通りの戦士系3人が前、術師系のシズクが後ろ。


俺とユキトは蚊帳の外だった。


俺も早く強化魔法が使いたい。


だけどどうすれば手応えが掴めるか?


治癒師は治癒属性。


主に属性は術師系が持つ。


戦士系は基本無属性だ。


武侠的な気を纏うって感じだろうか?


だけど俺の中から気が湧く気もしなかった。


気だけに……



だがユキトはスキルなしでも戦えることがわかる。


てか俺より全然運動神経良すぎるし、何でこいつがスキル取れてないかわからない。


あの剣の??の卵?


その??にヒントが掴まれてるかも。


いよいよ12層に辿り着いた。


うっすらと漂う瘴気にまたか、と思った。


案の定扉を開ければ、ホブゴブリンマスターではなく、大きな狼?


毛の色はドス黒い蒼。


明らかに水属性と伺えた。


「むぅ、水魔導士の私じゃ荷が重い。

みんな、回復はするからガンバ!」


シズクは水魔法のアクアヒールを覚えていた。


治癒師として機能しない俺の代わりに回復役を名乗り出てくれた。


戦士系の3人は武器を構える。


そして俺はひっそりと短剣を腰に携えた。


まずは華月が舞により俺たちにバフをかける。


次にアイカの方を向いていた狼にマイがハウリングをする。


ヘイトは盾士のマイに向き、隙を見てバフで強化されたアイカがスラッシュを放つ。


攻撃に魔力を乗せる技術は、旧時代の奥義とされていた。


一瞬血飛沫を放つも、狼はすぐアクアヒールをした。


体が水のように流動的になり、傷が塞がれてしまう。


怒った狼はあたりに氷の槍を展開した。



「避けて!!」


マイの絶叫と共に俺たちに氷の槍が散漫する。


致命傷は避けたが、皆体に血が滲んでいる。


「やっぱ異常主はうちらにキッツイか!」


「流石に襲われることはないだろうけど、いざって時に自決する準備を忘れないで!」


負けそうになれば毒で自決。


これは自分の尊厳を守るために、昔から活用されてる術だ。


実力差があり諦めムードだが、俺たちは勝ちにきた。


ここでこいつを倒せなきゃ先に進めない。


一応剣で傷はつく。


持久戦なら勝機があるはず。


アイカ出で寝られた作戦は、狼を取り囲むように。


ユキトは自分は足で纏いだと顔が苦虫潰したようだ。


でも狼に隙はなく、ジリジリ集中力が削れてくる。


俺は駆けた。


狼の前に来ると腕を晒す。


それを見た仲間たちは止めようとするもの、今俺がやらなきゃ打破できないと察した。



狼は涎を垂らし、俺の腕に噛み付く。


痛いが既に麻痺してる俺には肉が削れようが、勝機を逃すわけにはいかない。


だが警戒は解いてないようで狼の歯が離れようとする。


だが傷を受けたからだろうか?


血を流しただろうか?


俺の気持ちが高揚していた。


これだ。


求めていたのは。


自然と俺の内側から赤黒いオーラが滲み出る。


もしやこれが強化魔法か?


力が溢れる俺は狼にしがみつく。


そして短剣で何度も目を刺す。


逃げようとする狼は暴れるが、ここが決め手だ。


皆に合図して武器を構えさせる。


俺が肉が串刺しにされようがすぐ治る。


ふとユキトの方を見たらショックで青ざめていた。


俺は両目を刺し終えて、最後アイカと華月のスラッシュが首にヒットして、狼は光となって溶けた。


ドロップ品は、なんだこれ?


なんかカードが落ちている。


すると俺の頭の中で別の力の使い方がわかってきた。


皆が疑問で首を傾げる中、俺はカードに手を当てる。


「従え」


するとカードからどんよりした瘴気と共に、さっきの狼が這い出てきた。


これは、使役なのか?


確か魔物の使役は生きてる魔物にのみ発動する。


俺は魔物の死体?に作用した?


俺の死霊術者とは死体の隷属のようだ。


狼はまるで犬のように舌をハアハア出している。


可愛げがあるが、こいつさっきガチで俺の肉食おうとしたぞ?


すると血相変えたユキトが俺に真剣な目で問いかける。


「ユウトくん、君のその再生力、それって自己再生だね?」


いやまだ自己治癒ですが?


「いやまだ自己治癒だよ?」


「っ!

スキルは事象の体感でランクが上がるとされている。

君は一体何をしてそこまでランクを上げたんだい?」


何をカッカしてるのだろうか?


別に単に刺したり殴られたり斬られたり噛まれたりしただけだ。


俺は何かおかしいのか?


「ユウトくん、君はそれ以上自己治癒のレベルを上げていけない!

自分を傷つけるスキルなんて、きっとろくな生き方しない!

僕は役に立ってないけど、そんな自分を傷つけるやり方なんておかしいよ!」


「おかしい?俺が?」


ん?なんかおかしかったか?


俺は一周目同様、刺して抉っただけ。


自分を傷つける?


これはルーティンだ。


は!と俺は気づいてしまった。


既に再生してオーラが消えていたが、短剣を再び自分に刺す。


と言っても手の甲に刺しただけ。


するとそこから赤いオーラが溢れてきた。


できたこれが強化魔法……


俺は一人でうかれていると、ユキトの目は信じられないものを見る目。


「赤い気は邪気の一種。

それは強化魔法の正当なオーラじゃない!」


他の女子たちは何を今更と呆れている。


ここ数日で俺が自傷することを辞めなかった。


この狂戦者を得る前も自分の肉を食わせて隙をついた。


俺たちはダンジョンを出ることになった。


理由はユキトがもう付き合えきれないと言ったから。


せっかくできた男友達だと思ったが、ユキトはパーティを抜けた。


クラスアップすれば戦力になるなぁと思ったが、一体何がダメだった?


わからん。


最近はシズクも慣れたみたいで吐かなくなったし、華月ももういいやって諦めていた。


でも収穫はあった。


強化魔法の使い方、死霊の隷属。


これで斧が持てるし、従魔もできたってことだ。


従魔は意思がないのが傷だけど。


俺の予測した戦略通り動いてくれた。


カオル先生からまた異常主について聞かれたけど、余裕だったと報告している。


そしてここ数日慌しかったが、落ち着いてきたと思う。


あれからユキトとは顔を合わせていない。


見かけても彼が避けていく。


結局俺たちはいつも通り、パーティで交流している。


域部からちょっかいかけられることもないし、静かな日々だ。



そんなある日。


「あー、編入生の唯野ユウナだ」


いつも通り始まったホームルーム。


教室のドアを開けてカオル先生が入ってくる。


するとひょこっと見たことあるやつが入ってきた。


クラスの男子はその美貌に度肝を抜かれる。



「ご紹介に預かりました。

唯野ユウトの妹のユウナです!

先達のみなさんには是非ご教授お願いします!」


はえぇ?


「唯野、っと、ユウトと被るな。

じゃあユウナ、お前はユウトの隣だ!

おいユウト、妹なんだからちゃんと面倒見ろよ?」


「はぇぇぇぇ!?」


俺は思わず驚いてしまっている。


「何でユウナいるの??」


俺は今生で一番間抜け面かもしれない。


「うん、ユウト兄が私のために頑張ってくれたって聞いてたし、恩返ししてあげたいんだ!」


「恩返しって?」


「ユウト兄のパーティヒーラー足らないんでしょ?

私、治癒師の癒し巫女だったの」


「え!?レアクラス??」


「そう、実は華月にお願いしてね?

鑑定器も貸してもらえたんだ」


「え、まじかよ……」


するとクラスの男どもからブーイングが、テメェはハーレムしてんだから女寄越せってことだ。


下衆な目で見られたユウナは腕を抱えて身震いした。



「ああん?俺からユウナ奪うだ?

決闘じゃ!!」


「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「当たり前じゃボケ!!」」」」」」」」」」」」」」」」」


女子たちとカオル先生は呆れて頭を抱えていた。


すると、待ってましたと言わんばかりにドアがガラリト開くと。


「待ってました!決闘委員会です!!」


前回もレフリーした審判女子が現れた。



「んじゃ、ユウナさんに対する等価価値は?ジャッジスタート!!」


ドルドルドル……と音がなって始まる魔法の天秤。


すると何も光らない。


「あれ?等価できるものがない?」


すると、ゴゴゴゴゴと音が響いた。


外を見ると、謎の署名のような紙が窓に張り付く。



「おおっとこれは!隷属権!!」


『隷属権?』


俺とクラスメイトの声が一致する。


すると、あちゃーとカオルが眉間を抑えた。



「説明します隷属権とは?

ズバリ!

等価価値と認められるまで、遺物含めた資産がトイチで借金となり強制取立てされます!」


『は!?』


クラスの男子の驚きと悲鳴。


そりゃユウナと等価価値だぞ?



「おうテメェら!

人の妹をものみたいに扱いやがって!

しばき倒したるぞゴラ!!」


俺は威圧のつもりで怒声を浴びせる。


一瞬怯んだけど、すぐさま誰かが、俺たちが束になれば勝てるんじゃね?と思い違いする。


「んじゃ決闘ですね!

レッツデュエル!」


校庭にできた広大な土俵。


クラスの男子30人、対俺一人。


一見数の暴力に見えるこの理不尽。


だが俺は最初からぶっ飛ばす。


短剣を手に突き刺す。


そして流れる血。


バクンバクンと高なる心音。


溢れ出る赤いオーラ。



「お、おい!

唯野のやつ強化魔法使えないんじゃなかったか?」


「いやこけおどしだ!

速攻で片付けるぞ!」


戦士系たちが強化魔法を使い体をビルドアップさせる。


後方では魔導士たちが杖を構える。


高鳴れ俺の心音、溢れろ俺の血!



「あぎゃぎゃぎゃぎゃ!!!!!!」



狂ったように足を踏み込む俺。


一瞬で消えて周りは目が追えなかった。


土壇場だったが、暗殺者の隠密が発動してる。


まずは一人。


盾士を一人消す。


次は魔導士。


男子たちは次々仲間が死ぬことに恐怖を覚えた。


「おい、盾士は!?」


「ダメだ死んだ!」


「魔導士は!?」


「全滅だ!!」



遅い遅い。


遅すぎね?


多分俺が格上ばかりと戦いすぎたせいか今の状況が生ぬるいのだ。


自分を傷つけるたびに高まるオーラに精神がハイになりすぎている。


奴らは学んだようで1つに固まる。


だが俺には秘策がある。



「ギルガ!!」


「グオン!!」


ギルガと名付けた元ボス狼を召喚する。


するとギルガは男子たちを蹂躙した。



「ひ、ひぃ!何で階層主クラスが!?」


また一人、男子の頭が咀嚼される。


そして分も経たずして終わった。


それを見ていたカオル先生には質問責め。


そして何故か俺はその日以降狂鬼と呼ばれるようになる。


クラスメイトは俺を怒らせないように慎重だった。



***



そしてこれはもう一つの話。


優しき努力の剣士、新木ユキトの話。



ユキトはついカッとなってパーティを離脱して絶賛後悔中だった。



「バカバカバカ、バカユキト!」


頭をポカポカ叩く様子はまるでぶりっ子。


だが実際自分の好意を持って誘ってくれた彼らを一方的に怒鳴りつけ拒絶した。


クラスが違えど、自分のしたことに後悔している。


「でもさ!ユウトも悪いんだよ!

あんな自分を犠牲にする戦い方なんてやめるべきだ!」


あの刻自分がユウトを否定した際、微かに周りの女子たちも賛成しているようだった。


なのにユウトは平気で自分を傷つける。



「でも、もうパーティじゃないしなぁ。

せめて20階層まで付き合ってもらって、ジョブクラスをランクアップさせてから抜ければよかった」


後悔先に立たず。


ユキトは自分に好意的だった彼らに居心地の良さを感じていた。


剣聖会の当主の子供として生まれ、早々に弟には抜かされ継承権は低かった。


何故自分はこんな使えないジョブクラスだったのか?


これならユウトの魔法が使えない治癒師の方がましだった。


だけど彼のように自傷を繰り返し、あそこまで自己治癒の練度を上げるなんて自分には無理だと思えた。


あんなの常人がやれば狂ってしまう。



少しでもスキル獲得に近付けるようにまた剣を振るう。


隠居した祖父から譲り受けたこの剣は、平凡だが実は遺物である。


祖父が昔ダンジョン攻略で入手した天然の遺物。


魔鋼でできているこの剣は、価値で言えば数千億する。


意匠なんかは既に使い込まれ削られているが、自分がこれを使いこなせば一騎当千。


祖父が才能のあるアルトではなく自分にこの剣を与えた意味。


今となってはよくわからなかった。



自分の住む場所は学園の領ではなく、新木家が保有するマンションの一角。


中庭で素振りをすれば誰にも邪魔されず静かだった。


ふと自分の胸を見て、ユウトにグーを当てられたことを思い出した。


「触られちゃった……」


気になる異性に触れられた自分の胸はお粗末にも大きいとは言えない。


剣の道で生きて、男として育てられた。


だけど異性のことは気になってしまう。


カーっと熱くなった顔を冷やすために凍ったスポーツドリンクを当てる。


胸もドキドキするし、自分は一体どうなった?


マンションといえどほぼ自分の自宅なので、お手伝いさんを雇っていた。


だけど、玄関前、傷だらけの彼女を見つける。



「アキラさん!?」


井山アキラ、齢35歳だがユキトのことを幼少期から世話していた。



「ぼっちゃま……ダメです!」


彼女はあからさま乱暴された後が有り、汚い体液で汚れている。


鼻についた臭いで一体誰が彼女をこんな目に合わせたのだ?


すると自分に突如巻き付くものがある。



「へへへ、新木の倅確保だな?」


男は荒くれた格好をしており、縄を自在に操っている。


「な!?誰だ!」


「おっと、動くなよ?

ん?胸?」


さらしを脱いでいたユキトの胸を強調するように縄が締め付け、程よい大きさの膨らみが強調された。


「まじ!?

新木ユキトが女??

こりゃダベロウ坊ちゃんも喜ぶな!」


ダベロウ?それって域部の名前だろう?


「っと前に、味見しておくか?」


ユキトの服をナイフで切り取る。


顕になった乳房と腹。


女性らしいさが一層目立つ。


ああ、ここで自分の貞操が終わるのか。


諦めと絶望。


誰かが助けてくれるなどそんなの創作物だ。


だけど。


突然自分の前に見覚えある狼が現れた。

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