第2話 ユニーク
明らかに異常だった階層主に、俺は一度ダンジョンを離れることにした。
このまま進んでもいいが、これ以上はウルフ系も出るし防具が欲しい。
この斧を売るか迷うが、天然遺物など滅多に手に入らない。
通常魔物は武具を持たないが、稀に天然遺物を持つ魔物をネームドと呼ぶ。
きっと俺が殺したあのハイ・オークもネームドだったのだろう。
もしくは探索者を殺してレベルアップしてネームドに至るはずだったのでは?
俺なんかが殺せたのが奇跡だが明らかにダンジョンがおかしかった。
既にアイカたちが報告してるだろうが、教師に言わなければ。
戻る道は簡単で、なぜか魔物たちは俺を見ると避けていく。
おそらく俺の持つ斧の妖気が格下を畏怖させているのだ。
通常の俺ならあっさり攻撃されるはず。
ますますこの斧が手放せない。
振るうにも今の俺の筋肉では持つのがやっと。
せめて、10層でクラスチェンジしたい。
目指すは戦士系斧士か?
盗賊系なら山賊ってあるが、あれはパーティ間で殺し合いしないとなれないし、なっちゃえば嫌われ者なったなし。
眉唾だがユニークジョブクラスなんかもあるとか。
俺の知るところでは勇者という戦士系と術師系のいいところと、固有スキルを持つザ・チート。
条件はわからないが、確か俺と同じ世代がなったらしい。
そいつが先頭で60階層まで行ったとか。
その先のボスを殺して、全治の花の存在を知ったところまで覚えている。
だが妹は俺が19歳の時に死んだ。
それっきり、俺は頑張ることを諦めた。
諦めたっていうか、もう人生どうでもいい良かった。
唯一の希望だった探索者業もどうにもならず、せめて戦士職だったら強化魔法が使えた。
強化魔法が使えれば荷運びとか楽だっただろう。
治癒魔法も使えれば医療関係に進めたけど、俺は治癒魔法が使えない。
ダンジョンの2層すら越えられず、誰も組んでくれず、就職先もなく。
ただの高校中退者だった。
せめて、今みたいな踏ん張りが効けば22層までいけたんじゃないか?
だって俺はハイ・オークを殺した。
上級探索者に匹敵する偉業をしたのだ。
と言っても、俺のスキルは自己治癒だけ。
せめて攻撃スキルがあれば良かったが、治癒師は攻撃スキルを覚えない。
上位の聖術師であれば結界魔法を覚えたはず。
付与術師なら付与魔法で人気になったかも。
だけど俺は治癒魔法が使えない欠陥治癒師。
こんな俺に組んでくれるやついるか?
戻っても
俺を見たシズクは吐いてたし、マイもアイカも肉壁にしかならない俺を仲間として受け入れるだろうか?
不安があるも、ようやくゲートに辿り着く。
出た先では、血相変えたカオル、疲労でヘトヘトの同級生たち。
パーティメンバーは疲れ果ててゲンナリしていた。
俺を見つけたカオルは真っ先にに駆け寄る。
「唯野だよな?」
何の疑問かわからなかったが、俺もハイと答えるか迷った。
だってあれだけ脳をぐちゃぐちゃにされて、魔脳も潰されたはずなのになぜ生きてる?
蘇生や回復はあくまでゲートを潜ったら行われる。
魂のある場所、魔脳が破壊されたのに何故俺は生きていた?
疑問が深まるばかりだ。
まるで既に俺に魔脳がないような。
じゃあどこから俺の魔力が出てるんだ?
とりあえず俺はハイとしか答えられなかった。
クズニートで社会のゴミ、それが俺だ。
「それで唯野、22層クラスのハイ・オークを倒したんだよな?」
カオルのその言葉で同級生たちは騒然とする。
誰あれ?
あんな人いた?
え、上位階層クラス倒したって良ジョブだったの?
パーティに引き込みたい……
など思惑が渦巻いている。
するとカオルは俺に背負われてる斧に目をやる。
「ま、まさか武器持ち!?
そ、それって32層クラスじゃないか!?」
カオルの驚愕によりさらに騒ぎが大きくなった。
そういえば国の最高ランクが⭐︎4なんだっけ?
実質俺は⭐︎3クラスのボスを倒したってことか。
「いや、相手はネームドっぽかったですけど、あれはまだ昇級待ちですよ!
22層ランクは頷けましたが、32層には及ばないと思います!」
俺は必死に否定したかった。
もちろん偉業だっていうなら嬉しいが、クラスメイトの目は好感より妬みの目が多く感じた。
実際俺が今否定したらクラスメイトたちが安堵している。
だがカオルは俺のその意見を否定した。
「いや唯野、先に戻ってた沙霧や他クラスメイトの目撃情報だが、通常ハイ・オークは真っ赤なはずだ。
だが色が黒くなるほどさらに上位種。
ドス黒いような赤はさらに上位のハイオークマスターすら凌駕する。
そんなの40層だろうがいないだろうよ。
断言するそれは深層クラスだ」
いやそんなわけ!
だがカオルはさらに追い討ちをかける。
「唯野、お前のその斧だよ
通常32層のハイオークマスターですら石斧しか使わない。
実際私は32層を踏破して見ている。
それが明らかに精錬されて鋼鉄のようなその斧!
明らかに深層クラスの遺物だぞ?
まだ41層以上クリアされてないが、35層の資源エリアでさえ米粒程度の魔鉄しか取れてないんだ!
明らかにその斧は異質だ」
この発言により、周りの目は明らかに値踏みする目に変わる。
自分がその斧を持てば、その斧を売れば一攫千金、のような欲望を孕んだ人を騙そうとする悪意も。
俺はこの斧を手放すべきか?
下手に持ってれば恨みを買う。
だがそれに待ったをかけた者がいた。
アイカたちだ。
「みんなおかしいよ!
だってあの階層主倒したのはユウト君だよ?
強い武器が欲しいのはわかるよ?
でもあくまでそれはあの階層主に勝てる実力があるのか!
ユウト君はあのオークに勝ったんだ!
それを奪おうだなんて、人として終わってるよ!」
マイとシズクも賛同する。
彼女たちはあのオークの恐怖を間近に体感したから。
クラスメイトも一部は理性を取り戻し、確かにとなる。
だが中にはまだ諦めきれない奴らがいた。
今はなり潜めているが、俺もセキュリティを気をつけないといけないと思った。
だが俺は知らなかった。
遺物とは主人を選ぶ。
しかも武器系統の遺物は前の主人を倒した次の勝者を主人に選ぶ。
それを知らない新入生たちは持ち主でもないのに遺物を奪おうとすればどうなるか?
案の定、クラスメイトの一人の腕が弾け飛ぶなんて惨状が起きる。
そのクラスメイトには最上位ポーションが使用され、あまりの金額に実家から勘当されたとか。
そいつは早々に学園を去ったからどうなったかは俺も知らない。
ある時だった。
授業中に武器は携帯できないので、ロッカーに鍵をかけて収納していると、鍵が破壊されていた。
このクラスには斧士がいたようだった。
名も知らない斧士が何故か学校を自主退学しようとしていたらしい。
どうやら彼もハイオークに殺されてその際にそいつの斧に魅了されていた。
自分が欲しい。
俺のものだ。
あっさり殺されたけど、その執着心が彼のモチベーションだった。
だがその数時間後俺が討伐してドロップしてきた。
俺は無職と聞いていたクラスメイトはなんであいつが?と嫉妬していたとか。
そして授業中トイレと言って出て行き、ロッカーを破壊したとか。
そしてそのごっつい斧に彼はますます魅了された。
そして斧を持った時それが起きた。
斧から莫大な魔力を送られて体が耐えきれず片腕が爆ぜたのだ。
ダンジョン外の怪我はポーションや治癒魔法でしか治せない。
しかも欠損修復なんて⭐︎4クラスは必須。
この世界で最高位に近しい治癒師でサエリ先生だけ。
それでも⭐︎3クラスしかない。
そして彼はもともと有志クラス。
要は自分からダンジョン探索者を目指すと決めた無知のクラス。
選ばれた養賢クラスとはレベルが低い。
そんな低いクラスは
ABのように養賢クラスは上流階級から選出される。
CDのようなまして最下位のD程度しか入学できない家庭など資産の程度が知れている。
そんな家に最上位ポーション、数億円相当が払えるわけがない。
斧士の彼は実家を勘当されて、窃盗の罪もあり学園を追放された。
それを知ったのはダンジョン探索を調査のため閉鎖されて3週間後である。
名前を聞きするほど興味がなかったので、既に思い出程度の出来事だった。
ダンジョンは相変わらず調査のために閉鎖されていた。
ジョブクラスをチェンジすることも叶わず、時間だけ過ぎていった。
だけど俺の精神も変化した。
自傷をやめたのだ。
いくらナイフで自分を刺そうが興奮しない。
興奮って言い方も変態じみてるが、自分が傷つくとテンションがハイになる。
まるでエナドリキメたあのテンションだ。
心地よく、依存してしまう覚醒度合い。
自分をグサグサ出すほど、気持ちが高ぶった。
だけどあの日以降、ハイオークとの死闘以降いくら傷ついても気持ちの高揚がなくなった。
人間関係は、アイカとマイとシズクのハーレム?ができた。
別にデートとかしてないけど、購買に一緒に行って中庭で食べてる。
たまにアーンされたりと、これって脈アリですか?
だが時間は過ぎるばかりでタイムリミットは2年弱。
俺が19歳迎える頃に妹は死ぬ。
そしてさらに先、幼馴染は死ぬし、恩師はもっと早く俺が退学した次の年に死んだ。
今度は彼女たちが救えるか?
前回にはなかった自信が俺を勇気づけた。
俺の自己治癒も捨てたもんじゃない。
もっと自分を捨て喰らいつく。
俺の肉を餌にして魔物を釣ってやる。
その意気込みはある。
アイカパーティたちと次の攻略のミーティングをする。
他のクラスメイトたちからパーティの誘いがあったが、俺が無職だと知ると避けていった。
じゃあ何故アイカたちは俺を受け入れてくれるのか?
前回で俺は既に入学前から寝込んでいた。
おそらく俺も龍毒を被っていたのだろう。
だが治癒師の体質だったため回復した。
入学式当日過呼吸で早退してたのは覚えてる。
その後空席が3つあり、もしかしてそれがアイカたちだったのか?
俺はこの3人を助けられなかったが、心は救ったってことだろう。
本来と違う歴史で俺の自傷癖があったから。
自己治癒を早期で手に入れ、スキルレベルが上がっていたから彼女たちをバットエンドから救ったのだろう。
おそらくだが、あのハイオークなら襲っていたに違いない。
貞操を守っただけ。
でもまだ純情な彼女たちを守れた。
俺がいたからハイオークは俺の前にいたマイを偶然殺し、シズクが襲われる時庇った甲斐もあり自決の暇があり、俺が喰らいついたからアイカが襲われる前に息を引き取った。
そして不幸な記憶もなくダンジョン前で蘇生された。
俺がやり直した意味。
そして俺ができること。
自分の身が削れるだけで救える心があるなら手に届く範囲で救いたい。
だがまずはダンジョン攻略が大事だ。
在学中に60層を目指す。
そのために俺は肉を切られて骨を断つ。
ダンジョン解放がされたのはその翌週だった。
俺の住む男子寮から学園に向かう途中。
学園生がある一定に目は釘つけである。
俺もその方向を見ると、ハッと釘付けになった。
蒼く深海のような深い色に赤い目が特徴の彼女。
俺の幼馴染の姫乃華月だ。
俺と同級生だが中学の頃に才能を見定められ、Aクラスの進学が決まった優等生。
彼女の職業は戦士系レアの剣姫。
舞が特徴の剣技を使うバフも可能なチートジョブクラス。
既に大手ギルドからも注目されて、オファーが連日届いている。
俺は彼女に追いつきたくて、彼女の隣に立ちたくて。
だけど平凡な治癒師で魔法が使えない欠陥だった。
どんどん離される距離に俺は諦めた。
今なら近づけるか?
だがジョブクラスという圧倒的な才能がない俺には高嶺の花すぎた。
今の俺なら隣に立てるなど自意識過剰もいいとこだ。
実際、彼女の隣には新木アルトという同世代で既に⭐︎2ジョブクラスを持つ青年がいた。
彼は新木家という大手ギルド剣聖会の期待の跡取り。
剣士系繋がりで師匠でもある新木アルトに華月は仲間以上の感情を持っていたはず。
胸が痛む。
新木は幼少期からダンジョンに潜ってるので⭐︎2の剣豪持ちだ。
噂ではもう1つ持っているセカンド保持者らしい。
俺も贅沢言わんからこの斧が使えるジョブクラスになりたい。
学生たちと彼女たちが通る道の脇にたち、俺が進む道のりの険しさを再実感する。
一瞬華月は俺をチラリと見たが、すぐに視線を戻して前に進んだ。
あと数年後、その剣聖会のせいで彼女の尊厳が踏みにじられるとは思ってもないだろう。
彼女がA級(⭐︎4)に到達しそうな頃の事件だった。
その後廃人になり衰弱死する。
俺は欲張りだ。
俺の勝手な好意だけど、救えるなら救いたい。
だけど俺の今の気持ちは彼女に届かないだろう。
今日からのダンジョン攻略をより一層気合い入れたい。
授業は淡々と終わり、自習の時間になる。
あれからアイカたちは装備を新調して一線の探索者のような風貌になる。
ちょっとごってりしてるが、あの件で危機感を持ったようだ。
念の為自決用毒薬を買うなど用意周到になった。
俺は、毒薬を見てニヤリと笑う。
実は今ガムを噛んでるように見せて毒薬は食んでいる。
治癒体質にあってか毒耐性を得た。
これで自決は難しくなったが、42層は状態異常を使う魔物らしいので今のうちにレベルを上げていく。
俺たちはダンジョンに向かうと、既に列ができていた。
どうやら無職とされている俺が中層ボスクラスをソロ討伐したので、我ならできると言ったような自信家たちが競って来た。
実際にオークの脅威を知っているアイカたちは、前の奴らみたいに浮かれていない。
むしろ、今度こそ地道にダンジョンを攻略していきたい。
そんな意気込みだ。
俺は使えもしない斧を背負い、いかにも俺は攻略したか見せつける。
すると後ろから黄色い声援が聞こえて来た。
後ろを見ると例の華月のパーティがやって来た。
俺らみたいな質の低い装備に比べて、彼らは上質な魔物の素材を使っている。
きっと金にもの言わせて上級探索者から買い取ったのだろうか?
剣士の華月と新木アルト。
さらに魔導士が二人、斧士?が一人の5人パーティ。
俺たちは関わらないように静かに並ぶ。
だがいかにも上から見たいな威圧する口調で話かけられる。
「おい、その斧はなんだ?」
相手は華月パーティの斧士の少女?
少女にしてはムキムキだ。
アマゾネスって感じの戦闘民族感を感じる。
斧を持った彼女は俺にだろうか?高圧的だ。
俺がなんて話すか迷っていると、斧の少女はグイグイ話を進める。
「へっ、良い斧持ってんじゃねーか?
いくらだ?」
買取に話をしている。
俺は何を馬鹿かと呆れていると、後ろで華月と駄弁っているアルトが口を出して来た。
「ほう、それは深層クラスの遺物だね。
偶然にしては良いものドロップしたじゃないか?」
あからさま俺の実力はないような、見下した目。
俺はこいつらが好きになれない。
華月の方を見ると、しらーっと、巻き込まれないように離れていた。
「ちょっとあんたたち何よ!」
アイカが苛立ったのかキレた。
「ん?何を怒っているんだい?
それより君のような低級探索者が持っていては気が気じゃないだろう?
どうだい?僕が買い取るけど、いくらなら良い?」
なるほど、そもそも俺らは眼中ないのか。
前列では、最優のパーティと噂のネームドを倒した俺のやりとりに今かとワクワクしている。
もちろん俺は斧を手放すわけにはいかない。
安全に冒険するならこの魔物避けは必須だから。
「いやこれは売り物じゃないんだ。
俺が自分で手に入れたし、誰にも譲る気がない」
俺はキッパリ断言すると、アルトは呆れて肩を竦めて、後ろの取り巻きの魔導士女子たちはヒソヒソ悪口をいう。
てか
まあ俺もだけど、こっちは良いやつがいればスカウトするつもりだ。
次のメンバーは男子で決定。
っとそれよりこっちだったな。
なんか斧女子は顔が真っ赤でプルプルしてる。
「テメェ、よっぽどの自信からしいが、うちらはこれでも12層クリアしてんだ!
しかも今は17層攻略中だ!
テメェらは何層だよ」
「ん?2層?」
まあ2層しかクリアしてないよな?
それにしてもこいつらもう中層間際なのか。
流石最優のパーティだ。
だがますますアマゾネス女子は真っ赤になってプルプルしていた。
「テメェ!
その程度でその装備使ってるってのか?
テメェなんかには宝の持ち腐れだ!
うちが貰ってやるって言ってんださっさとよこせ!」
自分の骨斧を構えた
すると笛が鳴って待ったがかかる。
「ピピー!
その決闘待った!」
バタバタ砂煙を起こして駆けてきたのはヘアバンドをした清楚な少女。
遺物かのようなホイッスルを持ち、片腕には腕章がある。
そこには決闘委員会と記載されていた。
「決闘委員会です!
その決闘、私がジャッジします!」
彼女がパンと手を叩くと突然枠ができる。
これは商人系の⭐︎2ジョブクラス審判だ。
商人系ジョブクラスは変わり種で、さまざまな特殊スキルを持つ。
審判は、何かの対価に等しい対価を賭けることはできる。
しかも審判のスキル【決闘】はダンジョン内と同じ効果を持つ。
決闘中のダメージは終了後回復するのだ。
「っけ、余計なことを……
まあ良いだろう!
うちがけちょんちょんにしてやるよ!
うちは勝ったらその斧を貰う!」
「了解しました!
それでは価値判定スタート!」
斧が審判のスキル、【等価判定】にかけられる。
オーラできた魔法の天秤が現れ、
するとそれは、何故か華月に光が当たった。
何が起こったか意味不明の俺ら。
だが決闘委員の女子がニヤリと笑い、説明してくれた。
「それはですね?
唯野氏の持つ斧と剣姫殿が同等の価値ってわけです!
んじゃ、早速決闘しますか!」
決闘委員女子はホイッスルを鳴らそうとした時、アルトは急に焦ったように止めに入る。
「待った待った!
流石に華月さんはないだろう!
他に等価できるものはあるんだろう?」
すると決闘委員女子はため息を吐く。
「はぁ、いいとこなのに!
まあですね?姫乃華月殿は既に数千億相当でオファーが続出してるってわけですよ!
ってことはその価値に該当するものが必須!」
「な!?その斧にそんな価値があるのか!?」
「そりゃ、実質深層クラスの天然遺物ですからね!
んじゃ何賭けるんですか?」
アルトは想定してないその金額に頭を悩ませる。
するとアマ女が自慢げに言う。
「若、要はこいつに勝てばいんですよ!」
「そ、それはそうだが何を賭けろと?」
「そうっすね、じゃあ剣聖会の至宝、全治薬とかどうっすかね?」
「ぜ、全治薬だと!?」
ん?全治?
それは何かわからないが、それを聞いたアルトは血相を変える。
「ふ、ふざけるな!
ただでさえ落ちこぼれの
この件で至宝を失えば俺の評価が駄々下がりだ!」
だがアマ女の自信は変わらない。
「若、この私、井出リリナはこの世界で唯一の⭐︎U武闘者持ちですぜ!
若ですら無い唯一無二のユニークジョブクラス持ちだ!
しかも
楽勝っすよ!」
ユニーク持ちだったのか。
実際にいたなんて。
それより俺が戦うのは決定している。
俺の取り柄は自己治癒だけだが負けるわけにはいかない。
「それじゃ!両者見合って!レッツ
俺とリリナはスキルの土俵に立つ。
別にやることは相撲じゃない。
ガチの殺し合いだ。
お互い武器を構えて様子を伺う。
「へっ、短剣かぁ?
てめーのその斧は飾りみてーだな!
さっさとうちに寄越しな!」
「断る!
それに俺は負けない!」
リリナの方は先にアクションを起こした。
強化魔法も使わず、自前の脚力で踏み込んだ。
斧を両手に下段に構えて駆け出す。
「へっ!
武闘者は全ての武器の適正と、武技スキルが使える!
てめーにはスキル使わなくても十分だ!」
俺の脳天を割ろうと力を込めている。
隆起してる筋肉がパンプして膨らんだ。
「おらよ!」
斧が振り落とされる瞬間、俺は頭をずらした。
そして、そのまま首が胸まで袈裟斬りに割れる。
血が吹き出し、見ていたシズクは顔が青い。
慣れない人にはどこまでも慣れないらしい。
リリナは勝った!と確信して笑みを浮かべる。
そして後ろを振り向きガッツポーズをした。
歓声が沸くと思ったのか、自分の拳を見せびらかすように。
だが歓声どころか悲鳴が聞こえた。
「リリナ!後ろだ!まだ終わってない!」
外野からのアドバイスはダメだろう。
だけど気づいてももう遅い。
俺は骨斧が刺さったまま、彼女の首を切り裂く。
え?っと驚愕した表情と共に彼女は倒れた。
winnerの字幕が貼られた。
アイカたちは俺が勝つと見越したようにハイタッチ。
アルトたちは驚きと絶望で口がガン開き。
華月は、へーと意外そうな顔で俺を見ていた。
土俵が消えて治癒がかけられる。
骨斧も最初から刺さってなかったように地面に転がっていた。
アルトの顔が変な汗だらけ。
リリナは何故負けたか理解が追いつかない。
「ま、待て!うちは負けてねー!
も一回だ!もう一回やれば勝てる!」
そりゃな、相手はスキルを使わなかった。
ユニークジョブクラスといえば最下位ランクで既に⭐︎2以上あるとか。
そんなん最初から勝てるわけがない。
すると決闘委員女子が深いため息を吐く。
「あのですねぇ!
同者との決闘は年に1回だけ!
学園のルールですよ?
それともそれを覆して退学なりたいですか?」
ぐう、と言葉を引っ込めたリリナ。
ぐう音とはこれのことか?
「ちなみに、既に学園から剣聖会の方には連絡してますので、明日には全治薬が届くと思いますよ?」
決闘委員女子が俺のウインクする。
ガクッとアルトは項垂れた。
リリナはアルトを見てか、やばいやばいと焦ってる。
彼女の井出家はダンジョン名家だが新木家に仕えている。
沈んだ雰囲気のアルトたちはトボトボ帰って行った。
「ふう、やっと邪魔な奴らいなくなったわね!」
アイカはホッとしたのか、胸を下ろした。
「あれ?姫乃さん?」
マイは何故か帰らない華月に疑問を持つ。
一触即発のような雰囲気に、シズクはオロオロ。
だが沈黙の華月が言葉を発した。
「よかったね、ユウト」
ん?
「よかったって、決闘に勝ったことか?」
「うん、それもだけど。
全治薬」
「あ、ああ。
これで
「そう」
すると華月は気が抜けたのかしゃがみこむ。
よく見てみると涙を流していた。
「よかった、よかった」
どういうことか?
だが彼女の涙で理解してしまう。
「なあ、華月、お前剣聖会入ろうとしてだろ?」
するとハッと俺を方を振り向いた。
「どうして?」
「もしかしてって思ったけど、剣聖会から全治薬貰うためにじゃないのか?」
すると華月はコクンと頷く。
「うん、私が中学の頃剣姫になった時。
変なおばさんに占ってもらった。
ユウナを助けるには全治薬が必要だって」
「んでお前は俺とユウナのためにダンジョン学園に来て新木に近寄ったのか?」
「うん、でも嫌だった。
ベタベタしてくるし、ユウト以外に手を触られるなんて気持ち悪かった」
やっと重荷が取れたのか彼女の涙が溢れ出す。
彼女が未来で何故剣聖会に入ったか。
それはユウナを助けるため。
そして僅か19歳でこの世を去ったユウナに彼女は目標を失った。
それでも俺の住所宛に謎の生活費。
ケースワーカーには生活保護だって言われた気がした。
そして華月は剣聖会で弄ばれて、最後違法ドラックを使われ壊れた。
それっきり、生活費がガクッと下がったのを覚えている。
おそらく未来で俺を24歳まで生かしたのが華月だった。
なんか自然を俺も涙が溢れた。
ありがとう、ありがとう。
感謝で溢れた。
状況を察してか、探索は今回打ち切りになった。
その後病室に向かった俺と華月は、毒がなくなり元気になったユウナと再会する。
意識のなかった彼女は最初こそ両親の死に気を落としていたが、俺たちが彼女の治療を助けたことを知るとありがとうと何度も感謝された。
そして俺のパーティには新しく剣姫の華月が加わった。
ますます女性ハーレム。
少しは男子を分けてくれと、同室の佐藤ってやつに懇願するもの拒否される。
その後、俺たちは新しいチームでダンジョンに向かった。
前衛は女子3人。
後衛はシズクだけ。
俺はいざってときの切り札。
早速2層についた時、通常のホブゴブリンが現れた。
あっさり華月が切り裂いてしまいアイカたちは消化不良である。
ブツクサ自分も戦いたいと文句言うマイとアイカに流石に華月も苦笑いした。
実際一番火力高いのは華月だから。
魔法が使えるシズクも正道の剣士のアイカもスキルを磨き強くなっている。
実際、6層と7層すらあっさり攻略してしまった。
残り8層と9層。
出てくる魔物はウルフ系。
黒のウルフはシャドーウルフ。
緑はエアーウルフ。
ウルフ系(8層以上)は色によって得意な魔法を使う。
威力が弱いが、とても盾士のマイがいなきゃ女子の誰かは怪我を負っていたはずだ。
全くもって俺は無能である。
俺も少し貢献しようと、肉骨で腕に噛ませてる間殺していたが、やめるように懇願された。
特に華月の方は、俺が肉骨戦法した時絶叫したのだ。
流石に幼馴染の俺が傷つくのがショックだった様子。
9層もクリアしてようやくセーフティに辿り着く。
「さて、あそこの白い神棚が神殿ね?
クラスチェンジする人はユウトだけ?」
アイカが確認をとり、他のメンバーは特に変える気がないらしい。
俺は神殿の前に立ち、玉に触れる。
色のついた大理石を切り出したようなその球体は人知れずオーラを出してるような?
玉から触れた手に何か流れ出る感覚がある。
視界に文字が表示された。
『転職可能クラス
無し』
は!?無しってどういうこと?
俺は焦ってるのを見たのか、シズクにどうしたか聞かれる。
「いや……無いって……」
ポカンと半開きになるメンバー。
計算外だっただろうか、リーダーのアイカが焦り出す。
だが俺の目の文字にバグは入ったような。
すると視界の表示が突如変わる。
『副職可能一覧
狂戦者
暗殺者
死霊術者』
「え?」
俺は明らかに毛色の違う職業に驚く。
「どうしたの?」
華月が心配そうに聞く。
「あ、ああ。
どうやらセカンドクラスが手に入るらしい」
「セカンドクラス!?」
彼女たちが驚いている。
「え?ユウトって無職なんだよね?」
俺はここでゲロルことにした。
「あ、えっと実は治癒師っす。
ただし治癒魔法が使えない」
「なるほどね。
ってことは治癒魔法ができないから隠してたわけか」
「みんなを騙していたようで申し訳ないです。
はい」
怒りってよりは納得している感じ。
「怒ってないの?」
と思わず思ったことを口にしてしまった。
「いやだって、あの治癒力だよ?
明らかに治癒属性持ってないとできないし」
「でもあの脅威の治癒力は異常です。
何か裏技でも?」
俺は彼女たちに自傷してスキルを上げたことを話した。
すると何故かどんよりしてる。
華月に至っては、精神崩壊しそうだ。
「ま、それよりさ!
セカンド選ぶならどれがいい?」
何せ初めてのユニーククラスだ。
何一つ聞いたことがない。
どれを選ぶか。
すると選択って表示じゃなくて、修得という表記だった。
ってあれ?全部取れるぞ?
何でかフォースクラスまで決定できてしまった。
今の俺、⭐︎Uジョブが3つ、使えない⭐︎1が一つ。
合計4つ職業を持ってる。
そう言えば修得条件はなんだったんだ?
記載されてることが見えたので読んでみる。
(えっと狂戦者の獲得条件、死を恐れぬ狂気?
暗殺者は?死を知っている(リアルで)
死霊術者は?既に死んだことがある(リアルで))
何この獲得難度高い条件。
狂戦者はまだ取れるだろう。
だけど死を知ってる?死んだことある?しかもリアルで?
ってことは未来の俺はやはり死んで巻き戻ったのか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます