欠陥治癒師のやり直し〜肉を切らせて骨を断つ!!〜

花下内アンクル@瀬井鵺

第1話 ニューゲーム

死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい



「死にたい……」


死にたいけど死ねない。


それは死ぬ気がないってことだろうか?


何度もナイフを自分の手の甲に刺す。


滴る血液。


だが避けた肉はすぐさま修復された。


この世界で唯一の自己再生のスキル。


不甲斐ない俺が唯一極めた自傷覚醒スキルだった。


幼馴染を守れなかったことか?


恩師を助けられなかったことか?


病で苦しむ義妹を救えなかったことか?


好きだった人、もしくは俺のヒロインだったかもしれない彼女たち。


俺は誰も救えなかった。


歳積もることはや15年。


こんな俺は32歳のおっさんだった。


やり直すこともせず、才能を磨こうとせず。


後悔に押しつぶされて自傷する日々だった。


ナイフで刺して血を流せば上がるスキルによって死ねない体になる。


いや、死のうとしてないだけだ。


まだ人生なんとかなるなんて淡い期待をしてるかもしれない。


俺をまともに戻そうとしてくれた女性もいたが、最後俺が拒絶した。


俺の苦しみ、俺の後悔、誰も理解できるわけないだろう。


死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい


またナイフで自分を突き刺す。


覚醒したスキルはこれ以上上がらず、ただ自傷によって得た傷がじわじわ再生するばかり。


俺は彼女幼馴染を守れなかった。


俺は彼女恩師を庇えなかった。


俺は彼女義妹を救えなかった。


そして彼女友人を拒絶した。


俺に一体何が残っているのか?


人なら誰でも持つ才能をまともに扱えず、副次効果の治癒力だけ。


極めたと言っても、何度も精神的に苦しみ自殺しただけ。


誰も救えなかった。


死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい


死にたい


「死ねない……」


死にたいと思うけど、また別の後悔があるんじゃないか?と恐怖してしまう。


前を向け?


誰か助けてくれ……


心の中で願おうが誰も助けてくれるわけがない。


彼女幼馴染彼女恩師彼女義妹が失ってよかったものなのか?と自分の後悔に問いかける。


俺に何ができた?


俺は欠陥治癒師だ。


治癒師なら誰でもできる他者への治癒魔法ヒールすらできない。


誰でも当たり前のことができない。


情景ばかり浮かんでしまう。


あの時俺に力があれば。


あの時俺に勇気があれば、また変わったかも。


後悔が俺を支配する。


死にたい、死に……



「あ、そうだ!

まだ試したことなかったな!」


血を流しすぎてスッキリ悪い気が抜けた俺は届いたばかりの小銃を手にする。


ダンジョン産業の今必要とされない旧式の兵器。


兵器なんて概念はもはやこの世界にはないに等しい。


バカな話だろう。


人が走り、殴る方が殺傷力が強いなんて。


むしろ俺の持ってるナイフの方が価値があるかもしれない。


旧世界の遺物である元素できたのにより、魔力を纏うダンジョン資源でできたもの。


銃撃スキルなんてあれば価値はあっただろうが、所詮護身道具だ。


むしろ治癒師なら杖で殴った方が早いかも。


俺は治癒魔法が使えないだけで諦めた。


治癒師が殴る?


そんな覚悟あるわけがない。


それに、そんな覚悟があれば俺はダンジョンでもう一度足掻いていたかもしれない。



爪で掻きむしる顔と腕。


傷ができようがすぐ再生してしまう。


血を流してもすぐ俺のスキル自己再生が増血した。


俺の腐った血など価値がない。


輸血すれば便利だろうが、惚れた女も救えない俺が誰かを救おうなど思えなかった。


死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい……



じゃあ死んでしまうか。


小銃に魔石を詰める。


聞いたことがあった。


魔石は良く燃える。


俺の頭蓋に銃をつき立てれば、引き金を引くだけ。


ああ、死ねる。


やっと死ねる。



パンと鳴り響くアパートの一室。


外壁はひび割れ草の蔦が這う。


カビ臭い黒ずんだ壁。


溢れ出る脳汁と血。


飛び散る脳の肉片。


まだ俺を生かそうと再生が休むこともなく血を溢れ出す。


だが俺の核となる魔脳は既に消し飛んでいた。


魔脳とは魔力を生み出し、魂のある場所。


体に刻まれたスキルは俺の死を否定したかった。


溢れる血は床を伝い玄関の流れでた。


俺以外誰も住まないボロアパート。


俺の死体など発見されるわけがない。


生きる生きない生きる生きない生きる生きない生きる生きない生きる生きない生きる生きない生きる生きない生きる生きない生きる生きない生きる生きない


頭は眠ってるようなのに意識は覚醒している。


何分、何時間、何ヶ月、何年経過しただろうか?


きっと俺は腐って骨になり虫の餌になったはずだ。


誰も救えない、守れないゴミなど、世界にいる価値もない。


ああ、死ねるんだな……



だが意識がはっきりすると目の前には、懐かしい光景があった。


禿げ気味た眼鏡の校長が中身もない演説を何十分も繰り返す。


作れるほど暇なのか?


新入生を迎える俺には大人など理解できなかった。


俺が大人になっても責任あることはしたくない……ん?


ここで俺は意識の誤差があることに気づく。


あれ?俺って誰だっけ?


ゴミ、社会のお荷物、NEET。


ん?あれ?俺は唯野ユウト。


ただのユウトである。


何者でもないが、俺は唯野ユウト?


すると記憶がバックアップするかのように流れでてきた。


無惨な死を遂げる彼女たち。


疎まれ、憎まれ、蔑まされ。


挙句善意を悪意で踏みにじられる。


大切だった、追いつきたい、感謝した。


彼女たちが人の悪意で散っていった。


俺は何ができた?


ただのうのうと自分を劣等だと蔑み諦めていた。


今の俺に何ができる?


俺は自分の傷をつけて魔法を唱える。


「“ヒール”」


だが傷が治ることはなかった。


当たり前のように才能がなかった。



あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ……


どうやら過去に戻ったようだった。


今から16年前。


俺が退学する前の年。


この迷宮学園第一高校に入学したばかりの時。


俺はまた無能な欠陥者に巻き戻ったのだ。


俺に何ができる?


誰が救える?


所詮俺は他人を癒せない欠陥治癒師。


過去に戻ろうが、何もできない無能なのだ。



何故神は俺を過去に戻した?


きっと俺を戻したのは悪魔だ。


治癒魔法の使えない治癒師に何の価値がある?


死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい


ナイフがないのでコンパスを取り出して針で刺す。


痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い


けど俺の心の痛みに比べれば痒くもない。


「死ね、死ね、死ね!」


俺は自分の手の甲に何度も針を刺して抉った。


血がたらり腕を伝い制服を赤く濡らす。


「ああああああああははははははあああああははははははあああああははあああはははははははははは……」


死にたい……



そんな時だった。


『損傷確認、【自己治癒】を獲得。

……

損傷確認、【自己治癒・1】にランクアップしました』


また前回同様自傷によってスキルレベルが上がった。


刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す抉る


肉など針程度ではまだ見つからず、ただ皮と血管を切って血を流す程度。


『損傷確認、【自己治癒・2】にランクアップ』


傷の治り、血の増える感覚。


また俺の死を邪魔するのか?


針で刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す


結局これ以上スキルは上がることなく、スキルレベルは2で停滞した。


次に試すならやはりナイフが欲しい。


死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい


結局死ねなかった。



入学式中抜け出した俺は探していた教師に見つかり声を張り上げられる。


だが俺の制服についた血を見て血相を変えた。


「お、おい!

君は唯野くんだったな?

その血の跡はどうした?」


教師で担任である四宮カオルは俺の肩を掴み慎重に状況を把握しようとしていた。


「転んだだけですよ」


俺は単に転んで擦りむいた。


そう誤魔化して乗り切ろうとした。


「そんなわけあるか!

転んでその量の血を流すなんて、君の皮はちり紙かなんかか?

すぐに保健室へ行くぞ!」


俺は彼女の手に引かれて校舎の一階にある保健室へ向かった。


保健室は通常の学校と違い、道具が揃っていた。


一応ダンジョンにある学校なので道具は揃えている。


だけどダンジョンで負った傷は出る時治る。


もちろんダンジョンで死ねば生き返る。


システムってのがあるらしいけど、そんなの最深部のダンジョンマスターに合わなきゃわからない。


この時代、ダンジョン到達は42層とされている。


俺の時代では60層まで辿りついたが、それもダンジョンが発見されて70年後のことだった。


攻略したものはいるわけもなく、Sランクと呼ばれた探索者であっても60層で限界。


この時代に至っては、まだ42層。


2の数でボスが出る層でまだ32層までしかクリアされていない。


攻略しようとしたものもいたが、どこからか毒を喰らい全滅したらしい。


それも今の時代から20年の前。


黄金世代と呼ばれた時代でその程度だった。


俺が欲しい全治の花も65層でしか取れないとされていた。


あの花があれば義妹を助けられたのに。


龍毒という列強種の血の呪いを受けた妹はその毒で苦しんでいる。


俺の両親もその毒で死に、俺は国の補助制度を利用して迷宮学園に入学した。


探索者は国の国家事業。


危険もつきものなので学園が国立だろうが補助金が出た。


俺はその金で妹を延命している。


ハイポーション上級治癒薬ですら1本100万は下らない。


俺の食費自由費全て抑えてその程度なのだ。


なのに治癒師で治癒も使えないなんて。


優秀と呼ばれるA級探索者で国で数人程度。


ましてS級?無理だ。


迷宮学園では学生のうちから探索者ライセンスはもらえるが、俺はFより上には至らなかった。


「おい、聞いてるか?

唯野?」


意識が引っ張られるように呼び戻された。


心配そうに見るカオルと養護教諭が俺の顔を覗き見る。


「あ、いや、ぼーっとしてました。

すみません」


「お前なぁ、人が心配してるのに!」


カオルはプリプリ頬を膨らませ怒っている。


なだめるように養護教諭がまあまあと言った。


「それより不思議ですね

まるで傷が最初からなかったよう……

あ!スキル!?」


何か気づいた養護教諭とそれを聞いたカオルはマジか!?のように驚いていた。


「唯野、頭に声が響かなかったか?」


「ああ、スキルを得たことを知覚しましたが……」


「それだ!」


すると教師二人は喜んでいる。


俺は何故?としか思えなかった。


俺のスキルは自己治癒、たかが傷が治るだけだぞ?


「ちなみ唯野、スキル名は?」


「自己治癒・2ですが?」


「「何だって!?」」


二人の女教師は歓喜している。


キャピキャピしてる様子がまだ女子だなぁって思えるぐらい若い。


養護教諭の方はわからないがカオルの方は24歳だったと思う。


世間で言えばいい歳だが、俺は壮年の32歳。


彼女たちがまだ若い少女にしか思えなかった。


まるで親が子を見るように(童貞です)暖かい目で彼女たちを見る。


ん?だが何故そんな喜んでいるんだ?


「先生方、何故そこまで喜ばしいのでしょうか?たかが自己治癒でしょう」


するとカオルはいやいや、とまるで世間知らずかのように俺を疑う目で見る。


「いや、まだジョブクラスの査定も受けていないのに自己治癒だぞ?」


「そうよ!もし戦士職だったら良スキルもいいとこよ?

治癒できる戦士職なんて聖騎士ぐらいよ!?」


聖騎士とは戦士系の上位職業。


戦士職なのに治癒魔法が使えるチートクラスだ。


「そうだ!今ここで査定しないか?

もうクラスじゃ査定終わってダンジョン自習だけだ。

すぐに教頭から許可を得てくるぞ?」


カオルは足早に保健室を出ていった。


俺と養護教諭だけが残される。


養護教諭の名前がわからないけど、これから世話になるのに知らないのは無礼だろう。


「すみません先生」


「なあに?」


「あ、あの、お名前をと……」


すると彼女はあっけらかんと間抜けな顔になり次第に笑顔になる。


「あははは、そうよね!

あなた教員紹介の時抜け出したんだもね?」


見られていたのだろうか?


俺はこそっと抜け出したと思っていた。


まるでイタズラっこような彼女の笑顔は精神年齢をいくら取ろうが引き込まれた。



「サエリ、伊倉サエリよ。

一応術師系の聖術師(⭐︎3)

ここだけの話、昔私とカオルはパーティだったの。

これでもB級探索者なんだから!」


B級探索者、国内でも上澄みの階級だ。


B級であれば大手ギルドのエース級。


「そうだったんですね!

俺は唯野ユウトです!」


「よろしくね?」


「はい!」


相手は男勝りに見える美人のカオルとは一味違く、妖艶な雰囲気ある美女。


その服の上から主張する胸とくびれた腰つきが男性なら性欲をそそられるだろう。


俺も女性とこれまで付き合ったことがないのでドキドキしていた。


するとゼエゼエ行きを切らして保健室のドアをバタンと開ける。


「ま、待たせたな!」


赤い長髪が燃え盛るような女性、四宮カオルはその片手に虫眼鏡?のようなアーティファクトを持っていた。


「これが鑑定器ですね?」


俺は初めて見るようなリアクションをとる。


ダンジョン資源で作られたその魔導具は鑑定のスキルが発現されている。


とても高価で7大迷宮学園と迷宮省しか保有していない道具である。


「よし、早速見てみるぞ!」


カオルは俺を査定するために、レンズを俺に合わせた。


すると浮かび上がる文字。


それを見た女性教師二人は気まずい顔になり、俺はやはりな、と納得した。



「治癒師か……」


「悪い職業ではないんだけどね……」


二人はお通夜のようだった。



治癒師が自己治癒を持つ。


治癒魔法を使うのに自然治癒して意味あんの?である。


だが俺は治癒魔法など使えない。


だからこそ、自己治癒は俺の唯一のスキル。


もちろん、治癒師なら治癒が使える前提。


俺は治癒魔法が使えなかった。



「まあ、治癒師だったら、先達の私が教えていいけどね?」


サエリはえへんと大きな胸を張って、ドンとこいと構えになっている。


「そうだな、まあ無職なんて職無しもいるっていう。

治癒師であればどのパーティも引っ張りダコだろう。

よかったな!」


カオルは褒めてくれるけど、俺は内心曇っていた。


自己治癒だけでどうしろと?



結局俺はサエリの治癒魔法のレクチャーを受けずクラスへ向かった。


教室は既に誰もいない。


どうやら迷宮自習に向かったらしい。


俺も乗り遅れないように、管理庫から短剣をレンタルしてダンジョンへ向かった。


こんな俺に何ができるだろうか?


校舎から比較的離れていない倉庫のような外観。


これは無断にダンジョン内に侵入されないようゲートとして存在している。


生徒なら誰もが配られる生徒証を掲げで、ゲートの認証に顔を写した。


どうぞお通りください、のようにゲートの扉が開く。


既に生徒は侵入していて、中で死んだだろう生徒が息を切らして自分の生を実感していた。


患部であろう首に手をやり、生きてる、とつぶやく。


ダンジョンで死んだものは何故か生き返る。


傷を負っても出る頃には回復している。


どうせ治るのに自己治癒だけでどうしろと?


でもふと頭によぎる。


また才能がないと諦めて引きこもるか?


またあの時のようにさっさと退学して人生と才能に絶望するか?


そんな暇はない。


足掻くなら本当の死が訪れるまで足掻いてやる。


今の俺が夢だあろうと、いい夢で死んで行きたい。


今度こそ、後悔を変えるんだ!



ダンジョンに潜るとそこは洞窟のようだった。


まだ魔物は出ないようで、いつ襲われるか緊張が走る。


前回の知識であればおおよそ魔物が出る場所は予測できた。


刃こぼれすらしてない短剣が素人丸出しだけど、運が良かったとも言えるだろう。


すると先行していた学生のパーティが休息をとっていた。


「ん?誰?」


パーティの中で長剣を持つ少女が後ろから近づく俺に疑問を投げかけた。


「ほんとだ!もしかしてクラスメイトかな?」


「いやあんな子いなかったでしょう!」


パーティメンバーの盾を持った子杖を持った子が駄弁りながら様子を伺っていた。


「あ、俺は多分クラスメイトだよ。

唯野って言うんだ」


「あ、君が唯野くん?

私、沙霧アイカ、戦士系の剣士(⭐︎1)よ!」


「私は秋元マイ、戦士系盾士(⭐︎1)」


「わ、私は海屋シズクです!術師系の水魔導士(⭐︎1)です!」


「お、俺は……」


治癒師なんてとても言えなかった。


治癒魔法が使えると思われて期待されても相手を不快にさせてしまう。


「俺は無職だよ」


え!?と驚く彼女たち。


きっと俺は蔑まされる、前回同様。


だが彼女たちの反応は違った。


「へえ珍しいね!」


「無職か……、どんまい?」


シズクとマイは蔑みよりも同情的だった。


するとアイカは顎に手をやり思考している。


すると決心がついたように俺に声をかけた。



「ねえ、唯野くん、唯野くんで良ければうちらと組まない?」


「え!?」


それは俺の驚愕だった。


だって無職だぞ?誰好き好んで組むやつがいる?


「いや、俺は無職だからスキル覚えられないんだぞ?」


俺は何故そんな結論に至ったか困惑でつい声を荒げてしまった。



「ん?だって無職でしょ?」


彼女たちは何言ってんのこいつ?みたいな小馬鹿にするような視線を向ける。


「いや、無職だぞ?

こんな俺と組むやつ、ぶっちゃけアホだ!」


俺はなんの役にも立たないんだぞ?


だが彼女たちの言葉は俺の考えを否定した。



「え?だって10の数の層にはクラスチェンジできる神殿あるんだよ?

別にそこで別の職業選べばいいじゃん!

うちらの職業はルーレットみたいなもんじゃん?

だったら唯野くんも後から職業変えればいいでしょ?」


「いや、だってだな!

俺はなんの役にも立たないんだぞ!?」


お前らになんの得がある?



「んまぁ、打算があるかって言えばYESだね!」


マイがアイカの意を汲むように言葉を発する。


「打算って、言っとくが俺はスキルが使えないし、役に立たないって何回も言ってるだろ!」


するとシズクもまたおよおよと弱々しく挙手して話した。


「あの、アイカちゃんは唯野くんに恩を売りたいんだと思います。

私たちはまだ3人ですけど、到達記録塗り替えたいんです!

だから、信用得られるなら、唯野くんに協力して、後から私たちにも協力してほしいんです!」


弱々しい彼女の印象を払拭する強い主張。


だがバカな俺でも理解できてしまった。


「本当に俺でいいんだな?

今あったばっかの見ず知らずの俺に?」


するとアイカはうんと頷く。


何が根拠でここまで俺を信用するかわからなかった。


だが、こんな俺でも協力してくれる仲間がいれば……


だが俺たちの冒険は圧倒的邪悪によって無様に切り捨てられる。



俺は荷物持ちとしてアイカたちのパーティに加わり、今日中に1層を攻略した。


そして2層。


2の数字には階層ボスが待ち構えている。


扉の向こう。


⭐︎1の俺らでも十分攻略可能な難度らしい。


先頭は盾士のマイ、その後ろにはアイカと魔導士のシズクは後衛だった。


俺は役立たずで一番後ろで短剣を持つだけ。


普通ここにはホブゴブリンがいる。


ホブゴブリンは10層あたりに毎回出没する魔物だが、ランクアップすれば楽勝な雑魚だ。


だが⭐︎1の初心者には初心者殺しとして有名である。


だが異常な空気が俺たちに緊張を走らせた。


紫にも見える妖々した瘴気が呼吸を詰まらせる。


息を吸おうにも肺が吸収しないような。


まるで今の俺たちでは受け入れられない高位の魔素のようだ。


だがこれには心当たりがあった。


12層のホブゴブリン・マスターより先の階層22層の今までと毛色が違う強さ。


まるでハイ・オーク……



ぎゅぴ、と声にもならない悲鳴の断末魔。


盾士のマイの盾が縦に切り裂かれ、当のマイは脳が二つに割れ、血と脳汁が溢れていた。



「い、いやー!」


アイカは悲鳴をあげて、シズクはヘタリ混んだ。


いくらダンジョンとは言え初めて人の死を見たのだ。


まるで絶望のような表情で彼女たちは顔を青く、冷や汗をかく。


マイの死体はずさっと倒れて光となって溶けていった。


これで彼女はダンジョンの入り口に戻されたのだ。


俺たちの目の先にする赤黒い色を纏った大柄の邪鬼。


それは緑色のオークを大幅に上回る上位種ハイ・オーク。



アイカは剣を構えると、強化魔法を発動する。


戦士系なら定番スキルで、深部まで使える優良なスキルだ。


新入生で既に使えるとは、もしかしたら天才かもしれない。


だがあっけなく彼女の剣は掴まれ折られる。


逃げようとした彼女をハイ・オークは羽交締めにして腕をへし折った。



「いぎ!?」


アイカは悲鳴が潰れて、カエルの断末魔のような。


脂汗をかいて、痛みが壮絶なことをうかがわせる。


放心しているアイカはそのまあオークに床に押し倒された。


そしてハイ・オークの股間を見ると、人ではあり得ないほど膨張させ鼻息を荒くする。


だが気を取り直したシズクは、水魔法の氷の槍を発動させた。


普通のオークなら致命傷だっただろう。


だがハイ・オークは呆気なく腕を振るっただけで氷の槍を砕き落とした。


「アイカちゃん!」


シズクはアイカに当たらぬように慎重に操作して魔法を発動する。


だがハイ・オークにダメージがない。


行為に及べないオークはうんざりしたのか、アイカを離してこっちを向きやった。


睨まれるシズクは過呼吸を起こして息を切らす。


近づくオークを見ては小便を撒き散らす。


乙女の純情など今のこの暴虐に保つなんてできやしない。


俺は無能だが、俺と組んでくれた彼女たちをほっと置けなかった。


短剣を振りかぶってオークに切りつける。


だが傷はなく、イラとしたオークの剛腕に俺の胴体が殴りつけられた。



「唯野くん!」

「唯野……く……」


シズクの悲鳴と声に出せないアイカの悲鳴が重なる。


当の俺は肋が何本もイカれていた。


自己治癒が間に合わない。


オークはまずは俺を痛ぶる事にしたのか、壁に叩きつけられた俺に何度も拳を振るう。


血が飛び散り、もしかしたら肉片かもしれない。


それを見ていたシズクはグロさで吐いた。


アイカも自分たちと組んだせいで俺が痛ぶられる様子に涙と後悔した。


そして俺は力尽きたのか、ダラリと手が床に落ちる。


飽きたのかオークは唾を吐いて、彼女たちに向き合った。


シズクはこれから嬲られることを想像してか、既に氷の刃で自害していた。


アイカは舌を切る気力すらなく、自嘲気味に笑った。


自分の純潔がこの悪鬼に裂かれるのか。


まるでこの世の絶望のようだった。


だが、突如オークの歩みが止まる。


何かが、自分を締め付けてるのだ。


既にメス2匹とオスは始末したはず。


すると、そこには脳を破裂させ肉塊のような俺がいた。


『損傷確認、【自己治癒・3】

……

損傷確認、【自己治癒・4】

……

損傷確認、【自己治癒・5(MAX)】』



どうやら自己治癒がカンストしたらしい。


流石に覚醒スキルの自己再生には至っていないが、俺の失われた肉や骨、血が治っていく。


今の俺の風貌は頭が半分ない盛り上がった肉が目立つ。


目が充血して、鼻血も出てる。


口が裂けていてまるで悪魔。



「いぎゃーーーーーーーーーー!!!!!!!」


俺は声にならない絶叫でオークに這い登り、首に巻きつく。


オークは俺を振り落とそうと何度も腕で俺をミンチにしようとする。


だが治癒されいく俺の肉はダメージを上回る。


オークの眼に何度も短剣を刺した。


悲鳴をあげるオークはすぐに俺を消そうと何度も殴打。


だが俺はしぶとく離れない。


俺はその隙を何度も顔中心に攻めて穴だらけにする。


すると、カチンと眼の奥を通り過ぎた場所の眼骨を砕いたようで、そのまま脳をぐちゃりと潰した感覚。


オークはそのままうつ伏せに倒れた。


アイカはというと、してやったりというような嘲笑う顔で目の光が消えていった。


光となって消える。


俺の足元には、ハイ・オークが使っていたような斧が落ちている。


これは天然遺物と呼ばれ、ピンキリだが価値がある。


人工遺物の方が凡庸だが、買う金がないのでこれを使っていこう。


俺は、折れた短剣を捨て、斧を背負った。



〜〜 追記 〜〜


初めましての方もこんにちは、かかないおじさんです

今作は10万文字到達目標で書かせていただきます


んでも読まれなきゃ意味なくなーい?


ということで、まずは先行5万文字


後半5万文字は私のモチベーション次第です


どんどん 星とハートとフォロー

どんどんくださいませ!


悪口はいらないのでどんどん通報します!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る