第2話 理由



「ねぇ、なんでそんなこと言ったの? もしかしてまた誰かに言わされた? 言ってきたの誰? 僕がその人と直接話すよ」



「い、いやいや。言われてないから! 大丈夫だからその目をやめてくれ! 目が笑ってないからすげー怖い!!」



 笑っていない目のまま近づいて来るアリエスを俺は慌てて止める。



「じゃあ、なんでそんなこと言ったの? もしかしてこのパーティに不満でもあった?」



「いや、そんな不満っていう不満はないけど」



 確かに、パーティをやめろとかはよく言われたりするけど、それが原因ではない。いや、それも原因ではあるか。



「じゃあ、何が不満なの? 僕たちが何かした?」



「…………たいんだ」



「なんて?」



「………心臓が保たないんだ」



「「「………え?」」」



 3人の声がハモった。くそ、恥ずかしい。俺は3人の顔が見れずに逸らしてしまう。



「いや、3人はめっちゃ良い人なのは分かってる。けどな? お前らってさ、強いし冒険者ランクも高いし、おまけに3人とも美女と美少女だから目立つ訳よ」



「あ、あはは。面と向かって褒められると、少し恥ずかしいね」



 アリエスは頬をかきながら目を逸らす。他の2人は表情などは変わってないが俺から目を逸らす。面と向かって言われるのは慣れてないようだ。



「それでな? そうすると自然と俺へのヘイトが高くなるんですよ。この前なんかハーレムくそ野郎とか言われたし。女の人とまともにデートすらしたことがない俺が」



「ふふっ、それは、確かに可哀想だね」



「はいそこ、笑わない! だから小市民の俺からしたら心臓に悪いんですよ。周りからの視線は凄いし、舌打ちなんかもやばいし。だから、パーティ抜けたら変わるんじゃないかなって思って」



 それが俺の考えだ。嫉妬されるのも中々にしんどい。そろそろストレスで胃に穴が空きそうになる。俺は注目されるのは慣れていないんだ。やめてくれよ。



「だから、そういう訳だから。俺の胃と心臓の為にも抜けて良いか?」



「「「…………」」」



 3人は顔を見合わせる。そして、何のコミュニケーションを取ったのか知らないが3人がフッと笑って俺を再び見る。



「「「それでも駄目」」」



「なんで!?」



 ここまで言ってもパーティから脱退出来ることを認められない。え、もしかしてこいつら。俺のことが!?



「前にも言った。私はラルクに真名を教えた。もし、ラルクが何かの拍子に私の真名を教えたら私の命に関わる」



「………」



 思った答えより100倍ドライな回答が飛んできた。確かにリーファから真名を教えてもらった。はいはい、なるほど。だから俺が抜けることに反対って訳ね。



「えっと、イレーゼは?」



「私は君が面白いからかなぁ。わざわざ面白い物を手放すなんて出来る訳ないじゃん」



「………」



 おっと、こっちは俺をおもちゃとして見ているようだ。確かにこいつは俺をよくいじってきてたな。面白いおもちゃがどこか行くのは嫌っこと? そう言うことでよろしいか?



「……えー、じゃあ最後にアリエス」



「………それは、君が好きだからだよ」



「え!?」



「「…………」」



 え、え!? 最後の最後で!? もしかして? アリエスは俺のことが好きだったのか!? だから引き留めてくれているのか!? 俺の心の中で内心盛り上がっていると。



「うん、君みたいに信用して背中を預けられる味方は中々いない。僕は仲間として君を好ましく思っている。だから手放したくない」



「嬉しいけど! 思ってた反応と違う!!」



 俺は四つん這いになって地面を叩く。確かに嬉しい、仲間としては最高の褒め言葉だけれども!! 期待してた答えとなんか違う。



「だから、僕たちとまだ居てくれるかい?」



「うっ、うぐぐぐ!」



 アリエスの差し出された手。握るか迷ってしまう。どうしよう、取るべきなのか、それとも取らない方がいいのか。



「……僕たちとはもう一緒にいたくないってこと?」



「うっ! お、お前。その顔は卑怯だろ」



 アリエスは悲しそうな顔をする。いつものようにキラキラとした王子様のような雰囲気ではなく、少女のような儚げな雰囲気で俺を見る。



「わ、分かったよ。分かったからその悲しそうな顔をやめろ。お前にそんな顔は似合わん」



「ふふ、ありがとう。これからもよろしくね」



 俺はアリエスの手を取って立ち上がる。いつの間にかアリエスは普段のキラキラを纏っていた。



「はぁ、胃薬でも買おうかな」

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