幕間 「変わっていく日常と変わらないもの」
(起きて。起きてってば〜もう朝だよ〜)
「う〜ん・・・ムニャムニャ。あと5分だけ・・・。」
(もう、遅刻するよ〜。よし、こうなったら・・・)
シルは僕の真上で姿を現し、
「えい!」
「ふごっ!」
寝てる僕にのしかかってきた。
「シル・・・もっとまともな起こし方はないのか?まだ全然学校行く時間じゃないし。」
「あれ?そうだっけ?てぺぺろ⭐︎」
起きてしまったので、今日の活動を始めることにした。
僕は2階建ての一軒家に住んでいる。4LDKであるため、家族全員にそれぞれの個室がある。2階にある僕の部屋を出て一階のリビングに行く。
「おはよ〜。お父さん、お母さん。」
「おはよう〜今日は珍しく早いね。」
リビングにはお母さんとお父さんと・・・フォルティアがいた。みなテレビを見てくつろいでる。今日は珍しく両親がどちらも仕事がないようだ。まだ金曜なのに・・・
僕と冬姫は学校だ。冬姫は吹奏楽部の朝練で家にはいない。
「シルが僕にダイブしてきたから眠気がすっとんだよ。」
「ピースピース!!」
・・・シルが楽しそうで何より。
あの異変が起きてそろそろ一週間だ。
-------------------ーーー
あの後、僕を背負ったシルとフォルティアと冬姫は何事もなく家に帰れた。春樹と夏輝と愛秋はまだ家でゲームしており、そこに帰ってきたお母さんも参加していたようだ。
冬姫が上手く説明してくれたのかは分からないけど、妹がいたおかげで不審者だと思われずに済んだようだ。
そしてみんな僕の風の力を知っているため、その話をあっさりと信じてくれたようだ。
「また遊びましょう!」 「じゃーな!」 「楽しかったです。」
別れの挨拶を言い、春樹と夏輝と愛秋はそれぞれの家に帰った。帰る前に冬姫はこのことを秘密にしてくれるように頼み、みな了承してくれた。
入れ替わるようにお父さんも家に帰ってきて、同じ説明を冬姫はした。お父さんは
「な、なんだってー!」
と、驚いていたらしいがこちらも信じてくれた。
そんなこんなで激動の1日を終えた。その日僕が起きることはなかった。
その次の日、今後の予定を皆で話し合った。
「学校には行きなさい。」
お母さんはそう言い放った。
「いやいやいやいや、そんな場合じゃないでしょ!世界の危機だよ!それに異世界冒険するんだから当分家に帰れないって!」
「それなんだけど杜和ちゃん。どうやらあの世界に居られる時間は限りがあるみたい。」
ちゃん付けするなとツッコミをしたかったが、それよりも
「どういうこと?それって不味くない?」
「私この世界の日付が変わる直前1分前に、もう一度あのゲートに入ったの。あの世界の地図が欲しかったからね。それで図書館でその地図を入手したのはいいのだけれど、その直後に突然この世界に引き戻されたの。滞在できたのは6分くらいね。」
「つまり・・・どういうこと?ゲートはこの世界の時間帯によって、開いたり閉じたりするって言うこと?色々詳しそうなシルさん教えて!」
するとシルは隣で実体化した。その様子を見たお父さんとお母さんはおおって声を漏らしていた。
「呼ばれてとびでて、ぱんぱかぱーん!シルフちゃん登場〜!いいでしょう私が説明してあげましょう!」
そう元気よく喋る。そしてあのゲートについて話し始める。因みにあのゲートと言ったが僕は見たことがない。
「あのゲートはね、これから土曜日しか開かないよ。0時から24時間の間だけね。原因は詳しくは私も分からないけど、魔王がこの世界で言うところの土曜日にゲートを開けたからかな?そのせいで7日に一度周辺に時空の歪みが発生しちゃうようになっちゃった!」
はぇ〜。とりあえず土曜日しかあっちにいけないということは分かった。
それとさっきのフォルティアの発言からこっち世界とあの世界で時間の流れは違うようだ。
「こっちの1日はあっちの6日ってところね!」
僕が思った疑問をシルが答えてくれた。
契約の上書きをした結果、僕の心の声は全てシルに筒抜けのようだ。
もうあんなことやそんなことは妄想できないなぁトホホ・・・。
ーーーシル・・・ニヤニヤした顔でこちらを見ないでくれ・・・。
「話を戻すよ。土曜日にしか異世界にしか行けなくて時間が経つとこの世界に戻ることは理解した。でもこんな姿で学校なんて行きたくないよ。」
「そこで私が認識阻害の魔法を教えるわ。強い魔物になった今、あなたは風以外の他の魔法も使えるようになったのよ。」
なんと・・・そんな都合のいい魔法があるなんて。
それじゃあ習得して学校に行くしかなくなっちゃったな・・・。
ーーー別に一足先の夏休みが始まったと思ってたわけじゃないよ・・・ホントダヨ。
「ただこの魔法は本来、私がいた世界の試練を乗り越えたもののみに与えられる魔法の一つだから、今から死ぬ気で頑張らないと明日学校へはいけないわよ。」
「えっ・・・ちょっ、どこへ行くの?僕やるって一言も・・・」
僕を連れ出そうとするフォルティア。そして行ってらっしゃいと、手を振るお父さん、お母さん。あれ?今日はこれで話終わり?あ〜れ〜と言いながら玄関まで来てしまった。
起きてきて階段から降りてくる冬姫。僕はフォルティアを引き止めるように説得してくれと縋るような目を送ったが。
「ひっ・・・。あっ、兄・・・。行ってらっしゃい。」
一瞬僕の姿に怯えて、その後笑顔を作り見送る冬姫。昨日の出来事は冬姫に心の傷を与えてしまった。
それでも冬姫は上辺だけでも取り繕う。
僕は絶対にお姉ちゃ・・・クェルに仕返しをすると心に決めた。
そして僕はフォルティアと共にひとけのない公園に向かった。
僕が魔法を覚えるのに深夜まで時間をかけてしまい、次の日結局休んでしまったというのは別の話である・・・。
××××××××××××××××××××××××××××××××
私は杜和とフォルちゃんがいなくなったあと私は杜和の両親と冬姫に謝罪をする。
「ごめんなさい。私は杜和を命懸けの戦いに巻き込んでじゃった・・・。私がまだ杜和の中にいたから異世界に行っちゃって、自分の姿の姿を失ってしまったの。冬姫ちゃんも危険な目に合わせて本当にごめんなさい。」
元々私は体力を回復するためにたまたま近くいた、木から降りられなくなっていた杜和と契約した。
そして13年経ち完全回復し、杜和の元から離れ、異世界からくる勇者と契約しようと心に決めていた。
しかしその目的を果たせずみすみすと杜和と冬姫ちゃんを危険な目にあわせてしまった。
私がいたから目の前に空間の歪みが発生したのは予想外だったとはいえ、杜和が人じゃなくなったのは間接的に私が原因である。
そんな罪悪感を抱えた私に優しい声色で語りかける。
「シルフさんは悪くないよ。悪いのは全部あの吸血鬼だよ・・・。それにシルフさんには感謝しかないよ。」
感謝・・・?
「襲われてた私を助けてくれた相手を責めるなんて絶対しない。それに今回だけじゃない。今までも私や兄を支えてくれた。今までありがとう。これからも兄を支えてくれないかな?」
続けて杜和のお母さんとお父さんも話す。
「あの子、昔から活発でときどき危ないこともしちゃうの。そのくせいざ危険な目に遭うと怖かったー死んじゃうと思ったーって泣いちゃうの・・・だからいつもそばで見ていてくれたシルちゃんがいれば大丈夫な気がするの。これかも杜和のことをよろしくね。」
「命懸けと言っても人生なんていつも危険ばっかだからな!心配なんてしてないというのは嘘になるが・・・あいつの顔見たか?ワクワクが抑えられない顔をしてたぞ。むしろシルちゃんが危険なことをさせられないか不安だな!」
みんな笑顔で私を許してくれる。冬姫ちゃんが私に手を差し伸べる。
「シルフさん・・・シル、あなたはもう私たちの家族なんだからそんな気を負わないで。」
「冬姫ちゃーーん!!」
私は泣きながら冬姫ちゃんに抱きつく。この人達が杜和の家族でよかったと思わずにはいられなかった。
私は救われた気持ちになった。
××××××××××××××××××××××××××××××××
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シルのせいでいつもより早く起きてしまった僕は寝癖を直すために洗面所に行く。男だった時にはそういうのはやらなかったんだが、女の子になってからお母さんから口うるさく、
「朝も保湿ケアしてる?ほらこれ使いなさい!これも!ほら鏡見なさい!私は杜和のこと見えないけど!」
と、そのためお風呂などでもそういったボディケアをしないといけなくなった。分からなすぎてそういうのは冬姫に頼ってる。
因みにお風呂に入るのは男の姿ではなかったため少し抵抗はあったが、一回入ってしまえばどうということはなかった。
朝の準備を済ませたあと、フォルティナがテレビを見ながら話しかけてくる。
「杜和ちゃんどう?学校は?自分が幼い女の子ってバレてない?」
「杜和ちゃんいうな・・・。大丈夫バレてないよ。本当に誰も気づかないもんなんだね。友達に間近で話しかけてもバレなかったぜ。」
ふふんとしたり顔で話す。
「そんな挑戦しないでよ・・・。」
「それよりちょっとアレ頼めるか?」
「ちょっ、もっと小さな声で言いなさいよ!」
隣でお父さんが聞いてくる?
「アレってなんだ?」
「ああ、フォルティアに英語でわからないところの答えを教えてもらうんだ。勇者ってすごいんだぜ。こっちの世界に来た時、この世界の言語を習得したんだってさ。それじゃそれを活用するしかないよなって。」
「へぇ〜それはすごいな・・・。」
「・・・・・。」
僕は嘘をついた。勇者だからではなくこの世界に来た時、自動的に学んだらしい。
一方僕と冬姫もあっちの世界に行ったため、あちらの世界の言葉は分かる。ただし、文字を書くことは1から覚えないとダメだということもわかった。
そして英語を教えてもらうということも嘘だ。本当はお腹が空いただけなのだ。
僕とフォルティナは僕の部屋に向かう。そして部屋についてフォルティナは座り、肩を見せる。
「ほら、早くしなさい。」
吸血鬼の食事は吸血だけだ。両親は気づいていないが、僕は普通の食事では腹を満たすことはできない。
よって血を吸うしかないのだ。
本来なら人の血を吸った時点で心が吸血鬼そのものになってしまうらしいのだが、シルのお陰で人間の心を保ったまま吸血できる。
シルいつもありがとうと心の中で思う。
「それじゃ、いただきます。」
ガブっと、僕はフォルティアの首元に牙を刺す。吸血鬼の吸血は快楽を与える効果がある。そのため・・
「んッ〜〜〜!」
フォルティアは毎度変な声を出す。
こっちまで変な気持ちになるので、どうにかならないかと思うが、吸血を許してくれてる身であるため何も言えない。
そんなこんなで吸血が終える。
「ごちそうさまでした。」
「フー・・・。あなた血を吸いすぎてない?いつもより長かったでしょ?」
火照った顔でそう言うフォルティア。
「いや〜ごめん。考え事してたらちょっとだけ長くなっちゃいました。」
「まったく・・・私は毎食五秒しか許してないんだけど?」
「まぁまぁ細かいことは気にしないで・・・食事だけはフォルティアだけが頼りなんだからさ。」
両親や冬姫に対して吸血をするのは論外。
シルも精霊であるため血は存在しない、よって吸血はできない。
数少ない友達に頼ってもいいかなぁとも思ったけど、流石に毎日朝と夜に会うのは面倒くさいかなと思った。
そうなると朝も夜もいて、少しくらい迷惑をかけてもいいかなと思える相手、フォルティアしか吸血できないと考えた。
「あなた今失礼なことを考えていないわよね?」
「そんなまさかフォルティアに殺されかけたんだから少しくらい迷惑かけたっていいなんて思ってないよー。」
「うっ・・・でも別に私のあの時の行動は間違っていなかったと思っているわよ。常に最悪の事態は想定しなければならないのよ。」
「ああもうあの時のことは気にしてないよ。ただ僕は表情が固いフォルティアの動揺した姿を見たかっただけだよ。いいもの見れた。」
「------!」
「無言でツインテ引っ張るなぁー!ごめんごめんって」
からかったらしっぺ返しを食らうのは当然だった。
余談だが僕があまりにもお姉・・・クェルとそっくりなのが気に入らなかったため、冬姫は僕の髪をツインテールにした。
まぁツインっていう響きがいいので気に入った。一つより二つの方が強そうだしな!
「わたし、杜和の思考が読めるのにたまに何を言ってるのかわからない時があるよ。」
ドアからシルが覗き込む。
「お見苦しいところを見せて申し訳ございません。シルフ様、どうされましたか?」
フォルティアは僕の髪から手を離す。
「杜和そろそろ学校行く時間じゃない?って伝えにきただけだよ〜。」
「やばい!いつの間にこんな時間!?行かなきゃ!」
僕は慌ただしく走る。
「行ってきまーす。」
僕はそう言って、学校に向かった。
××××××××××××××××××××××××××××××××
「いいんですか?杜和に伝えなくて?」
杜和が去ったあと、フォルティアがシルフに話しかける。
「ん〜?何か言うことあったっけ?」
シルフは首を傾げる。
「世界を破壊するという意味を理解してなそうですよ。はっきり言った方がいいのではないのですか?あの世界の全ての命を奪うと・・・。」
「・・・私が言わなくても、きっと明日・・・異世界の6日間のうちに理解するよ。」
「それで、冒険を諦めてしまうようなことがあったらどうするのですか?」
「そんなことにはならないよ絶対に。」
シルフは確信しているのだ。杜和が諦めてしまうことはないとなぜならーーー
「杜和は生きるのに貪欲なんだから!」
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