第6話 「でっかい話になっちゃった!」

「うおおおおーーー!シル、あいつ本気で殺しに来てるぞ!助けてくれーー!」


 僕は今勇者から全力で逃げている。さっきいた服屋から離れ、外を走っている。

 そういえばさっきは動揺してて気づかなかったけど、雨だったはずなのに今の空は雲ひとつなく清々しい。

 僕の知ってる吸血鬼の性質だったら太陽のせいで死んでいただろう。

ーーー良かった〜お天道様の下を歩ける体で。


 そんなこと考えてる場合ではないが、そう思わずにはいられなかった。


(ちょっと勇者様を説得してくるね!行ってきまーす!)


 そう言って勇者に話しかけに行った。勇者に話しかけてる時はまだ距離があいているため、僕は彼女が何を喋っているかは分からない。


ーーー頼んだよシル・・・僕を救えるのはお前だけだ!

 

 僕は走りながら周りを見渡す。僕はデパートだった場所を探す。冬姫がまだあそこに留まっていないか確認したいからである。

 そして周りを見て気付いたのだが、ここは城塞都市のような、城があり壁に囲まれた土地だった。これでは家に帰る道も分からない。

 そのため今は冬姫がまだあの場に留まっていることを強く祈った。


 デパートの場所はだいたい見当がつく。

 元のいた世界のこの街で1番大きかったのはこのデパートだ。そしてこの異世界で1番大きいのは城だ。

 つまりデパートはきっと城になったのだ。そこに向かえばいい。


(あの勇者頭が固すぎて、こっちの言うこと聞いてくれないよ〜!「大精霊シルフ様のお言葉であっても、あの魔物を生かすことは承服しかねます。今は人間の心はあってもいずれは人を襲いますよ。」だってさ。)


 説得は失敗のようだ。勇者が迫ってくる。


ーーー足速くない?


 僕は吸血鬼になってだいぶスピードが上がったのに、さっきまで離れていた勇者は今にも僕に追いつきそうだ。

 距離が近づき、勇者の声が聞こえてくる。


「待ちなさい!あなたが心まで怪物になってしまう前に苦しませずに殺すから!」


 物騒な言葉を投げかけてくる勇者。鬼気迫る表情で追ってくる怪物ゆうしゃに僕は叫ぶ。


「嫌だよ!僕は生きたいんだ!というか、こんなか弱い幼女を襲う勇者って、もはや勇者失格でしょ!」


「なっ!?そんな速度で走るあなたのどこがか弱いのよ!」


 なんてやりとりをしていてたら、ついにかつてデパートであった城にたどり着いた。そしてそこには・・・


「兄ぃ、助けてよ兄ぃ・・・」


 4体のゴーレムに囲まれ縮こまり、行方不明になった兄に助けを求める冬姫いた。

 僕はさっきまでと違い強張った表情になる。見つけれたのはいいが、一刻の猶予もない。


 「シル、足に風の力を!」


 シルが了解と返事をすると僕の素早さは何倍にも跳ね上がり、あっという間に冬姫のところまで辿り着き、冬姫に殴りかかろうとしたゴーレムを吹き飛ばした。

 この速さは僕が人間だった頃にシルの力を使った状態で走った時よりも圧倒的に速かった。


「冬姫!間に合って良かった!僕がきたからもう大丈夫だよ!」


 しかし、僕の姿を見たあと


「いや・・・来ないで!兄ぃ来て・・・。」


 僕は拒絶されてしまい、一瞬ショックを受けてしまうが、僕がクェルと同じ姿になってしまったことを知らないということを思い出す。

 そしてそれを説明しようとしたが、残りのゴーレムが一斉に冬姫に殴りかかろうとしたため、できなかった。


「危ない!」


 僕は縮こまる冬姫を覆うように庇い、背中に3つの拳が直撃する。


 「・・・ッッ!シル!めいいっぱいの・・・風を!!」


 (ゴーレム吹き飛ばせ!!)


 次の瞬間、竜巻ような風がゴーレムだけを上に吹き飛ばし、乱雑に吹き飛んだ。


「その風、兄・・・なの?」


「そうだよ。僕はお前のお兄ちゃんだ。」


 僕は冬姫の顔を見てニッと笑う。吸血鬼になって体はだいぶ頑丈になったが、もうこの場を動けないくらい痛みを感じる。


 そして勇者は僕のところに来た。勇者はその光景を見て驚いたように目を見開く。


「まさか逃げてる最中に人間を助けようとするなんて・・・。あなた良い人だったのね。」


「目の前に助けを求める声がしたら助けるのは当然でしょ。それに僕の妹だし。良い人だったら僕を殺さないでくれるのか?」


 冬姫は不穏な発言に驚く。


「妹・・・」


 何か思うところがあるのか口をつぐむ勇者。


 そして数秒経ち口を開く。


「いいえ。あなたの精神が変わってしまう可能性が高い以上、あなたを殺さなくてはならないわ。」


 冬姫はこの女性が今から僕を殺すということを認識した。


「ダメ!!」


 冬姫は僕と勇者の間に立ち、両手を広げ勇者を見る。冬姫の大声を聞くのはいつぶりだろうかと僕は思った。


「そこをどいてちょうだい。あなたのお兄さんを放置すれば、いずれ大量の人間が殺されることになるわ。」


「兄はそんなこと絶対にしない!!」


「そう言える理由はある?現にあなたのお兄さんは一度洗脳されかけたのよ。」


「えっ・・・。」


重苦しい静寂が辺りを包む。しかし、少し時間が経ったあと、シルの発言がその空気を破る。


(一つ、杜和がこれ以上精神を蝕まれない方法があるよ。まぁまたあの吸血鬼に魅了されない時に限っての話だけど)


「なんだって!?なんでもっと早く言ってくれなかったんだ!」


(だってこの方法を使うとあなたをこれから先の戦いに必ず巻き込んじゃうから!本当はもうあなたの体から出て行こうと思ってたんだよ。)


 なんだって?シルが僕の体から出ていこうとしてた?それに戦いに巻き込む?話が見えてこない。


「話を戻しますね。要はその方法を使えば、この娘があのプライマスヴァンパイアみたいになる可能性はかなり低くなるということですね。直接出逢うことがなければに限っての話ですけど。」


「2人とも誰と話しているの?」


 シルの声が聞こえないため、2人がなんの話をしているのかさっぱりわかっていない冬姫。


「よし、それじゃその方法とやらをやるぞ。じゃないと殺されちゃうからな。」


「いえ、あなたがプライマスヴァンパイアと出会い操られる可能性があるというのは無視できない問題よ。」


 勇者はできるだけ不安要素は消しておきたいようだ。さっきの重苦しい空気に戻るかと思った。しかし、


(じゃあ、勇者ちゃんと杜和が一緒にいればいいんだよ!勇者ちゃんがクェルちゃんから杜和を守るの!2人ともこの世界を冒険することはもう決定なんだからサ!)


 呆けた顔をする僕と勇者。シルは一体何を言っているんだ?


 (だってさ、勇者の目的は魔王討伐でしょ!私がいた世界はそうだったもん!ね?勇者ちゃんもそうでしょ?)


 「確かに私は逃げた魔王を追うためにこの世界にきてしまいました・・・しかしこの一帯には魔王なんていませんでした。私の世界にまだいるかもしれません。」


(安心して!魔王はこの世界にいるよ!不安な風が西の方からびんびん感じるもん!)


「・・・そうなのですか?なら私の目的は西にいる魔王の討伐になりますね。」


 あっさりと勇者はシルの言葉を信じる。嘘をついてるとは微塵も思ってなさそうだ。


(そしてそして杜和!杜和の目的は元の身体に戻るということだよね!そしたら簡単な方法があるよ!この世界を消しちゃえばいいんだよ!)


 へっ・・・!?


 突然、物騒なことを言い出すシル。つまりあれか?僕に…十世界の破壊者十…になれっていうのか?


「うん。あってるよ!ちなみにあと1年くらいこの世界を放置してたら杜和の世界は無くなっちゃうんだ。」


!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?


 さらにとんでもないことを言い出すシルさん。今僕の身体を戻す話をしてたんだよね?なんか壮大な話になってきたぞ?


 「もしかしてですが、大精霊であるシルフ様が生存しているということは他の四精霊様の存命なのでしょうか?もしそうであれば、世界を破壊するということも不可能ではないでしょう。」


(そうだよ!説明ありがと勇者ちゃん!って、言うわけで杜和!あなたは私たち四精霊を集めてこの世界を破壊するのよ!因みに既に北の方に1人居るのは分かってるわ!2人とも北へ行くよ!)


「お待ちください。私は四精霊の力を使わずとも魔王を追い詰められる実力はあります。私はすぐにでも西に行こうと考えております。」


(チッチッチヾノ。魔王なんてこの世界を破壊した後みんな元の世界に戻るんだからあとで倒せばいいんだよ。あとで。それよりも先にタイムリミットのある方をやらないと、杜和がある世界の人間たちみんな消えちゃうかも知らないんだよ!)


「確かに違う世界の人間とはいえ、助けられる命が多い選択をします。分かりました、四精霊との契約の旅に私も同行します。」


(ありがとう〜!さっきまでの堅物っぷりが嘘みたいだよ〜。それに勇者ちゃんいないと他の四精霊と契約できないからね。)


「あの、シルさん、シルさん?そろそろ話しはいいでしょうか?シルの声が聞こえないから冬姫は勇者のことを1人でぶつぶつ喋るやばい人として見てる目だし、僕はもう風の力の使いすぎで今にも寝そうだよ。」


(あっ、ごめ〜ん。まだ寝ないでね。じゃあさっさと契約の上書きしちゃいますか!)


 契約の上書き・・・?なんでそんなことをするのか気になるが、早くやってもらうため聞くことはしない。

 勇者も何かを聞きたそうな顔をしてるが、僕は質問するなよとアイコンタクトを送った。勇者もそれに気づいてくれたようだ。


(では杜和に問います。あなたは私と共に同じ運命を歩み、終焉を迎えるその時まで永劫の時を離れないと誓いますか?)


 ・・・なんか厨二心をくすぐられる単語がちょいちょい入っているけど、結婚式の神父さんが言っていることと似てないか?


「誓います。」


(よろしい!)


 一言、シルがそう言うと目の前には光の粒が現れ、優しい風と共にそれは集まり、少女の形となった。急に現れたため僕と冬姫は驚いていた。

 髪の外側は緑、内側は空の色のしていて、服も空の色に近い。こんな美少女といつも話していたのかと思いつつ見惚れていた。


「それじゃ契約だよ!私と手を繋ぎながら額と合わせて!」


「へっ・・・!?そんなへっ・・・えへへっ」


 思わず、変な声が出る。冬姫と勇者が変な目でこっちを見てくる。

ーーー仕方ないだろ!?こんな美少女とそんなことをするなんて、変な反応しない方が無理だよ!


「もう!いいから早く!えいっ!!!!!」


 そして僕とシルは両手を繋ぎ、額を合わせた。するとシルの感情が流れ込んでくる。これはシルが今まで生きていた時に出た感情か?シルが何に対して喜び、悲しみ、怒り、楽しむのかが共有されていく。


「はい!契約終わり!これで私たちは一心同体、運命共同体、連帯責任だよ!それじゃ、一回お家に帰ろうか!」


 シルは平然とそう言う。


「家に帰ると言ってもここが異世界だからどうやって帰るか分からないのに?」


「実体化して元に帰れるゲートの位置を特定できたよ!そこまで行こーう!」


ふんふんふん♪と、スキップしながらゲートとやらに向かおうとするシル。


「ちょっと待って・・・。」


 何か物申したそうな顔をする冬姫。どうしたの冬姫ちゃん?と、問いかけるシル


「ずっと気になってたんだけど全然口を挟めなかったからやっと言える。」


「あなたたち、誰?」


 あー・・・と、冬姫以外の全員が嘆声を漏らす。そういえばシルとは初対面だし、勇者に関しては僕も名前を聞いていない。


「私はシルフ!杜和からはシルって呼ばれているよ!よろしくね!」


「私はフォルティア。さっきは怖い思いをさせてごめんなさい。」


 名前を名乗るとともに謝罪する勇者フォルティア。

深々と頭を下げるフォルティアに冬姫は問いかける。


「兄のことをもう殺そうとしない?」


「ええ。この剣に誓って、あなたのお兄さんを殺しはしないし、人を襲う魔物にもさせないわ。」


「それなら・・・いい。」


 冬姫はフォルティアの発言を受け入れる。こうしてこの混沌した出来事に終わりを告げた。


 何はともあれ僕も冬姫も無事で良かった。今日はもう・・・安心して・・ねむ・・・れ・・・。

 

「ああ、眠っちゃったね。わたしがおぶって帰るよ!冬姫ちゃん、お父さんお母さんに私たちのことと今日のことを上手く説明してね⭐︎」


「え・・・ええーー。」


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 斯くして、吸血鬼の幼女ルルスもとい杜和と勇者フォルティアの四大精霊を集まる旅が始まる。

 杜和は元の姿に戻り、フォルティアは魔王を討伐できるのか!?

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