第3話 「世界がおかしくなっちゃった!」

「またね!魔法使いのお兄ちゃん!」


 そう言って男の子は自分の家がある方角へ帰って行った。


「兄、ありがとう。」


 無表情でそう言う冬姫。だが安堵しているということは僕には分かる。


「どういたしまして。困ってる子を助けようとしてたの立派だったと思うよ。」


「ふふっ、困ってる子をを助けるのは当然・・・」


「まぁ冬姫も降りれなくなってたけどね。」


「・・・・・それにしてもあんな高いところに登るなんて無謀よね。全く"私達"がいなかったら何時間もあそこに留まってたよ。」


「男の子はね・・・そこに木があると登りたくなるものなんだ。登るのが難しい木の頂点までいけた時の達成感と言ったら、そらぁもうものすごいよ。・・・そのあと僕は降りれなくて泣いたけど・・・」


「馬鹿と煙は高いところへなんとやらだね。」


「そこまできたらもう全部言えよ!元の諺より長くなってるじゃないか!?」

 

「ところでほんとに兄はなんで魔法使えるの・・・羨ましい・・・。」


「この能力を使うたび毎回それ聞くなぁ。気づいたら使えるようになってたよ。日頃の行いがいいからかもしれないね。」


 僕が風の力を扱えるようになったのはおそらく5歳の時だ。というのも昔の記憶なんて覚えてるわけがない。両親によると僕が最初に能力を使ったのがその時期らしい。

 因みにこの力を知っているのは両親と妹と妹の友達、あとは困っている子がいた時に度々見せてたくらいだ。子どもたちならこの力を人に言っても、戯言として扱われるだろう。

 こういった力はあまり見せびらかさないほうがいいということはなんとなく理解してるつもりだが、それはそれとしてあるからには使いたくなるのが僕である。


「私もその力があったら、さっきのも1人で助けられたし。」


「でもこの力には欠点があってな、使いすぎるととてもとて〜も眠くなっちゃうんだぜ。」


「へぇ〜それは初耳なんだよ。耐えられなくなるくらいなの?」


「眠むれない夜に限界まで風を吹き出すとすぐ寝れるよ。あ、安心しろよ窓の向こう側に出してるから僕の部屋は散らかってないぞ。」


「そう聞くとあんまりデメリットに感じないんだけど・・・というかまさか毎日それやってないよね?」


(毎日毎日風をぶっ放してよく誰も見つからないよねってずっと思ってるよ☆)


 おっと頭の中にいる風の主が話しかけてきた。僕も頭の中で話しかける。


(ちゃんと右左下みぎひだりした確認してからやってるしね。快適な睡眠には欠かせない日課だよ。いつもありがとうございます、シル。)


 えっへん!とおそらく頭の中得意げな顔をしているだろう。


 さてとここでこの頭の中で喋るやつ、シルについて語ろう。まぁ語ると言っても僕もあまりよくわかっていないのだけども。彼女は僕が使っている風の力の持ち主らしい。

 シルによると、彼女がこの近くの山で倒れているところを僕は発見した。山に行っていたということは多分虫取りでもしていたのだろう。その時に僕は彼女と契約をした。その契約の内容はシルの力が回復するまで僕の体に宿る。その代わりシルの力を一部を使えるようになるというものだそうだ。

 当時はきっと目をキラキラしながら承諾したのだろう。でもそんな出来事があったら忘れもしなさそうなのに覚えていない。

 

(もう私たちが出会って13年かぁ・・・時が経つのは早いねぇ〜)


(そんな一緒にいた気はあんまりしないけどね。なんせシルが喋り始めたのは2年前なんだから。)


 そう、シルが頭の中で喋り始めたのは2年前、高校1年生だった頃だ。

 突然話しかけてくるものだから、最初勉強のストレスによる幻聴と疑ったが、会話できることはすぐに分かり、今では大切なパートナーみたいなものである。

 余談だが、ここで彼女の名前がシルフだということがわかった。シルフといえば四大精霊の1人だ。ファンタジー世界では火、水、風、土で構成されていることが多い。

 シルフはそんなファンタジーな世界からきたそうだ。ただそんなすごい精霊が他の世界で暮らしていて大丈夫なのだろうかと思うのだが・・・そもそもなんでこの世界に来たのか不明だ。


(長く一緒にいるんだから、そろそろなんでこの世界に来たのか教えてほしいなぁ。たまたまこの世界に来たとかそういうのではないんだろう?)


(たまたまこの世界に来ちゃっただけだよ〜あっ雨が降ってきちゃったね☆傘ささないと冬姫ちゃんも濡れちゃうよ!)


こうやっていつもはぐらかす・・・まぁいい。僕は傘を差し、冬姫ちゃんをその傘の中に入れた。


「雨すごいね。」


「思ったより強い雨だね〜米買うのだるいなぁ。おつかいサボってもいいかな?」


「私たちの夜ご飯がなくなるからダメよ。」


 そんなこんなで街のデパートに辿り着き、頼まれていた種類なものを買った。冬姫はお菓子のコーナーをチラチラ見ていたが、とりあえず気が付かないフリをしていた。


「さてと用事も済ませたし帰るか。」


「・・・うん・・・チョコレート」


 冬姫はボソッと言ったが僕には聞こえなかった。


「みんなを待たせてるから、早歩きして帰るぞ。いけるか?」


「大丈夫。・・・チョココロネ」


 また冬姫がボソッと言ったがそれも聞こえなかった。僕は左手に米を持ち、傘を差し冬姫と帰ろうとした。


 その時だった。目の前に紫色の黒いもやが現れた。


「えっ?」


 そしてそれが一気に広がっていき、辺りを飲み込んだ。


 僕は目を一瞬つむり、そして目を開いた。そこは驚くべきことにさっきまでいた街とは風景が異なっていた。


 デパートの地面はビニール床のものではなく、石畳みでできており、ファンタジー舞台でよく見るような家や街路灯がある。しかしよく見渡すと車や道路などは変わっていない。



「一体何がどうなっているんだ・・・」


 僕と冬姫はひどく動揺した。今見ているものは本当に現実のものなのか、だが僕は常日頃、ファンタジーな世界を冒険したいと思っていたため、密かにワクワクもしていた。


「兄、あれ・・・」


 冬姫が指を刺した方向を見て、そんなワクワクは消え去っていった。

 そこには倒れている人達がいた。それも乱雑に倒れてるのではなく、並べられている。


「ここから離れるぞ!」


 状況の理解が追いつかなかった僕たちはこの場から離れようとし、曲がり角へ向かい走って家に帰ろうとした。


 しかし、その先にも驚くべき光景があった。

 なんと兵士のような格好をしていた人たちが異形のものたちと戦っていた。中にはバイクを使って戦っている兵士がおり、僕たちを横切った。


「なんだこれ?僕は夢を見てるのか?」


「兄、私も夢を見てると思うの。こんなのありえないよ。」


 今いる現実を受け入れられずに突然シルが頭の中で大声で言葉を放った。


(そこの階段に隠れて!!)


 僕は咄嗟に冬姫の手を掴み、近くにあった階段と壁の隙間に入り身を潜めた。


「兄、何して・・ムグッ」


 冬姫の口を塞いだ。何か嫌な予感がする。


 するととてつもない爆音が兵士達と異形達が戦っていた方向から聞こえた。


 僕は階段の手摺壁てすりかべからさっきの様子を覗きこんだ。


 兵士達は全員地に伏し異形達も倒れていた。


「魔物も魔力もない世界と聞いていたから、戦わない者しかいないと思い込んでいたのだけれども、中々に面白いものもあるのねこの世界には。さて私の妹になるのに良さそうな人間はいるかしら?」


 そこには赤い髪の幼女が1人、佇んでいた。

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